第2編 罪
第26章 殺人の罪
202条(自殺関与及び同意殺人)
「自殺させ」の意義が問題となる。
同条の趣旨は、同条の行為態様が自殺者の生命身体に対する意思に反しないことから、意思に反する殺人罪よりも軽く処罰するという点にある。
そうであれば、自殺者の自由な意思を抑圧し、自殺者の行為を道具のように一方的に支配・利用したと認められる場合には、「自殺させ」たとは言えない。そして、自ら殺人罪の構成要件に該当する事実を惹起したのと同視できるので、間接正犯としての殺人罪(199条)の実行行為が認められると解する。
(福岡高裁宮崎支部平成元年3月24日)
本件についてみると、A女は、出資法違反の犯人として厳しい追及を受ける旨の被告人の作出した嘘の事実に基づく欺罔・威迫の結果、警察に追われているとの錯誤に陥っていた。
さらに、被告人はA女を連れ回して長時間の逃避行をしたあげく、その間に被告人から執拗に自殺をするよう迫られ、現状から逃れるためには自殺するしかないと誤信していた。
このように、A女の意思は、被告人の欺罔・脅迫行為により作出されたものであり、重大な瑕疵があるものである。
したがって、被告人はA女の自由な意思を抑圧し、道具のように一方的に支配・利用したと認められるから、「自殺させ」たとは言えず、殺人罪の実行行為と認められる。