②「大ウソ」~フリが弱くても、フリを補強しつつ落とすことで中くらいの笑いまでもっていける~
定義
フリが抽象的で弱くても、大ウソをつけば一気に強い分離感までもっていけます。そして、大ウソは非現実的すぎてすぐバレるので、一気に現実へ引き戻されてオチます。これが「大ウソ」です。
ただし、大ウソがバレても、「そんなわけあるかいっ」と抽象的な一体感を感じるにとどまり、具体的な一体感まで到達しません。
だから、大ウソはフリが抽象的で弱い時の、次善の対処法、という位置づけをし、「あるある」の補助として使うのがいいでしょう。
なお、お笑いでいう「ボケ」がこの大ウソです。
具体例
例1:かわいい
というフリ。普通は7回押したってどうもならないはずだし、「どうなる」って問いが抽象的です。なかなか難しいお題ですね。
ここで、千鳥の大吾さんは‥
「ネコがのってくる」と答えました。
「そんなわけあるかいっ」の大ウソです。
ネコが単独でバスに乗ってくる光景ってかわいいし、人間みたいな行動に一体感も得られます。
例2:父ちゃん
【プロセスを楽しむ】
成功や肩書は、それに相応しい経験や能力が伴うことで、はじめて幸せを生み出す。
湧き上がる興味・関心を無視して、焦って結果を求めると、カラッぽ人間が出来上がる
自分を信じ、自然の成長スピードに身を任せよう。
道草を楽しもう。
俺の父ちゃんも言ってたよ↓ pic.twitter.com/CGtTGOqybp
— かず@魅力発見心理コーチ (@Kazu_charmcoach) January 30, 2022
例3:ウソ恐縮
引用:後掲『ウケる技術』
デートの微妙な緊張感の中、その緊張を過剰なレディファーストで一気に高め、落としています。
例4:ジョークが一変させた空気
著者の一人、ナオミが仕事上のきわどい局面を初めてユーモアを使って切り抜けたのは、偶然のことだった。
そもそものはじまりは、会議室でのできごとだった。
当時まだ駆け出しの彼女は、デロイト グリーンハウスの戦略コンサルタントとして働いていた。グローバル経営コンサルティング会社デロイトが最重要クライアント企業の経営幹部を対象として、ワークショップを運営する専門部隊だ。
今回、彼女が担当することになったのは、自分より15~20歳も年上の経営幹部らが対象のチーム力学のグループセッションだった。千鳥格子のブレザーの海を(やや)若手のナオミはひとり、いかだに乗って漂っていた。
千鳥格子のブレザー軍団のひとり、クレイグという男性は、さっきからずっと斜に構え、明らかに上の空で、懐疑的な態度を示していた。頭の後ろで両手を酌み、肩の力を抜いてふんぞり返っているものだから、感じの悪いことこの上なく、チェアのスプリングも悲鳴を上げそうだった。この男性こそ、これをみよがしに胸を叩いているボス猿よろしく、全員に、あるいは前サルに、この場で一番偉いのはだれなのか、知らしめようとしているのだ。
さて、性格タイプが自分とは異なる相手に対して、コミュニケーションの取り方を切り替える方法についてナオミが説明していたとき、クレイグがいきなり口をはさんだ。
「それは飛ばしちゃっていいからさ、チームの連中に言うことを聞かせる方法だけ、さっさと教えてくれないか?」
会議室にさっと緊張が走った。
全員の頭がゆっくりと、クレイグからナオミのほうへ向き直った。
とっさに、彼女が冗談っぽく言い返した。
「いい質問ですね、クレイグ。私が担当するマインド・コントロールのワークショップのことをおっしゃっているんでしょう。あれは来週です。ぜひご参加を。」
静まり返ったその瞬間がやけに長く感じた。どうしよう、クビになるかも―
そんな思いがナオミの頭によぎった。だが次の瞬間、会議室は爆笑に包まれ、全員の視線がさっとクレイグに集まった。
それまでずっと、彼はかみつくような挑戦的な口調で、無礼と言っていいような態度をとっていた。この場の力学から見て、クレイグが誰かに―とりわけこんな目下の人間に―盾突かれるのに慣れていないのは明らかだった。ところが、この日初めて、彼は微笑んだのだ。
「お見それしたよ」背もたれにぐっと寄りかかりながら、彼が言った。「続けたまえ」
「それはどうも」ナオミが答えた。「そのつもりです」
とたんに、その場のエネルギーが変わった。その後はクレイグもまともな態度でワークショップに取り組み、他の幹部たちもそれにならった。
会議室がリラックスした雰囲気に包まれ、みんなが自由にのびのびと意見を述べ始めたことで、具体的でされによいアイデアが出るようになった。
ナオミもリラックスして、うまく進行することができた。それどころか、自分らしくやれるようになった。
恐怖から解放され、今この瞬間に集中し、フローの状態に入れたのだ。
…
…
ワークショップ終了後、クレイグはゴキゲンの様子でナオミのキャリアについてたずね、短い会話を交わした。後日わかったことだが、クレイグはナオミの会社のCEOに、すばらしいワークショップだったと賞賛の言葉を伝えたそうだ。
また彼女にも直接、「洞察力と場の仕切り方が素晴らしかった」と感想を伝えてくれた。まさにそれから、彼女のキャリアの新しいドアが次々に開いていくことになる。
それもこれも、マインド・コントロールについてのふざけたジョークのおかげだ。
それとも、あれこそまさにマインド・コントロールだったとか…?
引用:『ユーモアは最強の武器である』67頁以下
例5 犬がうなされています。どんな夢を見ている?
滝沢カレンさんの「自分の鼻が飼い主の顔になっている」からの、「自分の鼻が飼い主の形になっている」(川北さん)からの、「飼い主の顔が自分の鼻になっている」(ガクさん)の流れ。
ガクさんの最後のフリップに対する、「怖っ!気持ち悪すぎますね(笑)」のカレンさんのツッコミが、共感を呼んで、いい感じです。
例6 タイガーウッズ
まっちゃんの怒りのお話です。
「男は浮気するものや!男性陣で団結しよ!」が主張。
しかし、オチでは「まぁ、僕は浮気しないですけど」
聴衆の脳裏には、嘘つけ!のツッコミがでてきます。
主張部分で、その流れを作っていたんですね。浮気を公然と認める社会は非現実的ですが、男の本能的な真理を含んでいるため、フリが弱いです。
そのフリの弱さを大ウソで補強し、一気に落とす。
計算された話芸です。
例7【ドッキリ】オードリー春日が「キャラ」を維持するために裏でドーピングをしまくってたら…
ドッキリは大ウソによって笑いを創る手法です。
- 錠剤を大量にかみ砕きたながら食べる
- マネージャーに思いっきりビンタされ、吐血する
- 挙句の果てには、医者が来て注射を打つ…
あらかじめ聴衆にはウソであることがわかっているため、非現実的なかずかずの出来事により生じた緊張を確実に、すぐさま緩和することができます。
ドッキリ企画であるということが知らされていないと、ゲストの椿原愛さんのように、心配になってしまう人もいるでしょう。
その緊張感も、ウソだと知っている聴衆には笑いを生み出すフリとして機能するのです。
例8 コンパで横の席になったケンタウロスを褒めてあげて下さい
渋谷凪咲さんの回答です。
「柔軟剤のいい香りしますねぇ」
隣の人から柔軟剤のいい香りがすることは「あるある」で、彼女のほんわかした雰囲気も相まって、ポイントを得た側面があるでしょう。
しかし、「なんでケンタウロスから柔軟剤?」とわずかな疑問を残してしまいますので、あるあるとしては実は弱めなのです。
彼女の狙いはそこではありませんでした。
そう、まさかの、写真で一言の大ウソです。
裸のケンタウロスから柔軟剤の香りが漂ってくるはずはありませんよね。
しかし、このままでは、彼女の遊び心を伝えきることはできません。
そこで必要なのが、まっちゃんやバカリズムさんの「嘘つけ」「服着てないだろ」というツッコミです。これにより視聴者の「嘘ついたのね」という理解をフォローし、完全に落しています。
純粋で単純そうな彼女の大ウソ(おべんちゃら)という毒。そしてそれを見抜いたプロの芸人の力。
この回答からは、一般ウケを超越しお笑い道を突き進む渋谷凪咲さんの底知れぬ実力と、プロの芸人のすごさ、両方がわかるのです。
例9 芸人自己紹介大喜利
フリが抽象的で弱いですね。ここで真面目にありそうな芸名を言ってもウケません。
- 「カフェインボーイズ」のパッキンパッキンです
- 「ガードレール」の打越です
- 「森のフェアリーズ」の鹿野バンビです
- 「関西だし」のタケです
- 「ヌシ」のガンマン長谷川です
- 「100M走」のランニング川原です
- 「噂の東京マガジンズ」の小清水あきらです
- 「サクサクラングドシャ」のチカです
- 「メキシカンスマッシュ」の後藤タコスです
- 「大型冷蔵庫」のたけぼうです
- 「世界で誰かがウェイティング」小池ユニバースです
- 「全身デニム」のしげちゃんです。
- 「テレフォンコミュニケーションズ」のまごころ夫人です
- 「ぽんぽこダイアル」の川辺シンです
- 「まだまだ未熟」のさちょぱです
世界観がものすごく限定されていて、非現実的かつ具体的ですよね。
この世界観はを作り出せる本お題は、ホリケンさんと秋山さんの独壇場です。永遠に止まりません。
そして、「誰やねん」という周囲のツッコミが、二人のユニークな幻想的世界観を引き立てていて、温かいです。
例10架空マンション大喜利
こちら↓のホリケンさんと川島さんの「架空マンション大喜利」も↑と同様に大ウソを試す抽象的なお題ですが、この動画では、〇を取れなかったホリケンさんの最後の回答を検証してみましょう。
「ケータイの電話がつながらないよ。マンション西日暮里」。
なぜ、×だったのでしょうか?
これは、フレーズが長すぎました。
非現実感へ上る道が緩やかなので、言い終わるまでにバレてしまい、落差がありません。だから、快感を感じないのです。
大ウソはうだうだ説明せずに、スパッと短いフレーズで言い切ることが大事だ、ということが分かりますね。
創り方
「嘘つけ!」という感情にさせることを目的にして下さい。
そして、フリが弱い所で笑いを創り出せるのが、大ウソの長所です。
伝説のテキトー男、高田純次さんから学びましょう。
「休みの日は何されているんですか?」
「休みの日はほとんど休んでますね」(①)
「あっ、朝起きて20キロのマラソンと、1時間のピアノの練習を…(②)
ずっとやろうと思っていたんですけど、なかなかできないですね。」(③)
①では、一度普通の回答を考えて、それをそのまま口に出したことが分かります。そのままでもゆったり過ごしていることがわかり、「あるある」として親近感を覚えて、面白いです。
しかし、純次さんはさらに笑いを狙いにいきます。
②で大ウソをついて、一気に緊張感を高めています。お相手の永野芽郁さんの表情に着目してください。
そして③で白状することで、セルフツッコミにしてバラし、落しています。
ここから、大ウソの創り方としては、
- まず、普通の回答を考える
- フリが弱いとそれでは面白くないので、対象を極端に誇張したり、対象と真逆の事を考える
- それがわかりずらくて自然と落ちなければ、周りのツッコめる人が突っ込んでくれます。そういう人がいなければ、高田さんのようにセルフツッコミを入れる
という3ステップになっていることが分かります。
ところで、なぜ、純次さんはこのような回りくどいことをするのでしょうか?
あえてテキトーな事を言うなんて、真面目人間には考えられませんよね?
しかし、そんなテキトー男って、モテるのです。
椎名林檎さんのリアクションから、大ウソを言う人の魅力に迫っていきましょう。
彼女は、純次さんへの印象として、
- 「”男たるものかくあるべし”のような画一化されたルールがないから、安心する」
- 「一緒にいる人を緊張させない」
- 「一定のペースを保っている」
と述べています。そして、「カッコイい」。モテモテです。
思うに、「相手をリラックスさせよう。がんばらない、本当の自分で楽しむしかないんだ」というあきらめにも似た信念が、純次さんの絶対的な安心感を作っているのではないでしょうか。
どうしようもない自分をさらけ出す。表現する。
そのために、大ウソという表現方法を用いるのです。
誰よりも先に自分をさらけ出せる人、その人は女性にモテる、「強い男」です。
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