オス!かずだ!
●債務不履行時の債権者保護の手段(履行強制・損害賠償請求・危険負担・解除・契約不適合責任)がごちゃごちゃで整理できてない…
●担保物権って試験対策上も実務でも重要と言われているけど、その理由がいまいちピンとこない…
●4つの担保物権それぞれが持つ通有性(付随性・随伴性・不可分性・物上代位性)と効力(留置的効力・収益的効力・優先弁済的効力)の異同、択一頻出だけど暗記がつらく、整理できない…
という方。
あなたのために、俺が得意とする論理的思考力を発揮し、情報量が膨大で整理が難しい債権の履行確保手段・担保制度について本質的な知識を抜粋したうえ、ばっちり体系立てた。
本記事をしっかり読めば、
●債権回収手段の体系がしっかりでき、
●担保物権の重要性をハッキリ理解しメリハリがついた勉強ができるようになるうえ、
●これらの学習において細かい知識に立ち入ったときの理解力がかなり向上する
ので、ぜひ繰り返し読んで膨大な情報量で混乱している頭をスッキリ整理整頓してもらいたい。
では、まず論理のスタート、そもそも「債権」って何?という所から出発だ!
目次
そもそも債権とは何か
債権とは
特定人間における結合関係の中で、一方の当事者(債権者)が相手方(債務者)から、「一定の利益を獲得できる地位」を取得し、その反面において相手方(債務者)がこの利益を実現するための拘束を受けるという状況が認められることがある。
これが国家の法秩序により保護をうけた場合、そのような関係1を、債権関係という。
債権とは、債権関係において、債務者から一定の利益(債権者利益)を獲得することができる債権者の地位をいうのである(権利利益説。潮見)。
債権者に与えられる救済手段
こうして権利として保障された利益を債権者が保持できなかったとき(債務不履行)には、利益の獲得を期待できる権利者としての地位を保障するために、債権者には、法(国家)によって、さまざまな救済手段が与えられる。
- 履行請求権(民法412条の2第1項反対解釈1。以下「民法」は省略)
- 損害賠償請求権(415条)
がそれである。
さらに、債権者には、債権関係を修正し、場合によっては契約関係から離脱するための法的手段が与えられる場合もある。
前者が追完請求権(562条)・代金減額請求権(563)である。後者が契約解除権(540条以下)である。
債権者救済手段としてどんなものがどこに規定されているのか確認して、使いこなせるようになろう↓
- 赤は本来の債務の履行をさせることを目指す権利である。履行請求権には優位性がみとめられていることを意識しよう1
- 青は、履行請求が認められない場合、お金で利害を調整する権利である。
- 紫は、債務者に重大な契約違反や契約目的の達成ができない場合に、債権者に契約の拘束力からの離脱を認める権利である(代金減額請求は、一部解除の実質がある)。
- 緑は、相手方の債務が履行不能となった場合の、反対債務の履行拒絶権としての危険負担(対価危険の負担)を表している。
なお、危険負担には上記対価危険の負担だけでなく、給付危険の負担(債務不履行責任の追及ができない)がある。
下図とその下の参考記事を確認してもらえれば、バッチリ押さえられる。
以上の救済手段について、請求原因・抗弁という形で表で整理した↓
請求原因 | 抗弁 (無効や弁済による消滅などの一般的なもの以外) | |||
---|---|---|---|---|
履行請求 | 各契約類型ごとの成立要件(債権発生原因) | ・自己の債務の履行不能(412ー2Ⅰ) ・同時履行の抗弁(533) ・相手方の債務の履行不能を理由とする自己の債務の履行拒絶(原則として対価危険なし。536Ⅰ) | ||
債務不履行に基づく損害賠償請求(415条) | ➀債権発生原因 ②本旨不履行(履行遅滞(412)・不完全履行・履行不能) ③損害の発生とその額 ④②と損害との因果関係 ⑤履行の提供(存在効果説) | ・帰責事由なし(415Ⅰ但) ・過失相殺(418) ・履行の提供(492) ・債権者への給付危険の移転(567・418) | ||
債務不履行に基づく契約解除(540条以下) | ●催告解除(541本) →重大な契約違反 ➀契約 ②履行遅滞(412) ③催告および相当期間の経過 ④履行の提供(存在効果説) ⑤解除の意思表示(540条1項) ●無催告解除(542Ⅰ各号・Ⅱ) →契約目的の達成不能 | ・債権者への給付危険の移転(413ー2Ⅱ・543条、567条) ・その他債権者の帰責事由(543条) ・催告解除について、債務不履行が軽微(541但) | ||
契約不適合責任追及 ※559本により有償契約に準用 | ●追完請求(562) 種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないこと(562Ⅰ本) ●代金減額請求 〇催告パターン(563Ⅰ) ➀上記の契約不適合 ②催告および相当期間の経過 〇無催告パターン(563Ⅱ) →契約目的達成不能 ●損害賠償請求・解除(564) | ・債権者の帰責事由(562Ⅱ・563Ⅲ) ・契約不適合を知ったのに通知をしない場合の期間制限(566本) ・債権者への給付危険の移転(567Ⅰ本・Ⅱ) ・契約不適合責任を負わない旨の特約(572参照) ・注文者が供した材料・注文者の指図による契約不適合(636本) |
そして、履行請求権が法的に承認されるためには、その内容の貫徹が最終的に国家によって保障されなければならない。
そのためには、債務者が履行請求に応じない場合、すなわち任意の履行をしない場合に、債権内容の実現と貫徹(履行の強制)が保障されなければならない。
このことを捉えて、債権には強制力(掴取力)があるいう。
この強制力の根拠は、414条であり、同条は債務不履行の際、債権者は民事執行法その他法律に基づき、
- 直接強制
- 代替執行
- 間接強制
- その他の方法による履行の強制
を裁判所に請求できると規定している。
履行強制のところは、「どのような債務のときにどんな制度を利用できるか」という知識が司法試験民法の択一で問われる。
基本書では表でまとめていることがあるが(俺が使っている後掲潮見)、文字だけではわかりずらい。
そこで、フローチャートでまとめてみた。以下を参照しイメージながら、各自の基本書・条文・過去問に当たると、理解がかなりできるだろう。
ポイントは、次の5つ。
- 直接強制可能な債務については、代替執行はできない
- 代替性のない債務については、代替執行はできない
- 有形的な不作為債務は、債務者の費用で、不作為債務に違反した有形的状態を除去することを請求できるし、将来のため適当な処分を請求できる(民事執行法171条1項)。1
- 間接強制はほとんど可能1
- 法律行為を目的とする債務(たとえば、所有権移転登記を申請する義務)については、直接強制不可、代替性なし、不作為債務でもないが、間接強制によることはできず、意思表示擬制という意思表示を命じる判決により、意思表示をしたとみなされる(民事執行法177条1項参照)
なお、「直接強制って具体的にどんな方法を使うの?」という疑問が生じる方がいると思うから、樹形図でざっくりとした体系をまとめてみた。適宜参照し、学びの端緒としてくれ↓
強制力の限界
もっとも、この強制力には2つの限界がある。
- 債権者複数の場合の債権者平等
- 債務者の財産処分の自由
である。
①債権者平等の原則とは、債権者が複数存在するときは、各債権者は、その債権の成立の前後に関係なく、各自の債権額に応じて平等に配当を受けるという原則である。
したがって、例えば債権者複数の債務者が破産した場合には1、その責任財産の総額が総債権額に満たないことが起こりやすく、債権者は十分な満足を受けられない。
②また、強制執行の具体的な発行までは、財産は債務者の自由な支配に委ねれているので2、破産の直前などには財産が自由に処分されてしまう危険がある。
このような場合に、民法は、責任財産を増加させる手段として➀債権者代位権(423条以下)を、また減少を防ぐ手段として②詐害行為取消権(424条以下)を設けている。
しかし、これらの権利は合意なしに債務者の財産処分権に干渉するという性質上、厳格な要件があって煩雑かつ必ず行使できるわけではないし、かつ責任財産を回復しても結局は総債権者の責任財産を構成するにとどまるから、自己の債権の強制力確保手段として、必ずしも実効性が高いとはいえない。
上記のように、債権者代位制度・詐害行為取消制度は、責任財産保全が目的である。
もっとも、それぞれについて事実上の優先弁済的効力が認められており、これで強制力実現に十分ではないかと思われる方もいるかもしれない
しかし、事実上の優先弁済的効力は不十分なものである。
すなわち、事実上の優先弁済的効力の内容は、
- 金銭の自己への直接支払請求(423条の3前段、424条の6)
- 金銭債権たる被保全債権と自己に対する受領金返還請求権の相殺
というコンボである。
しかし、相殺には被保全債権が金銭債権である必要があるし(505条1項前段)、受益者が債務者に弁済をしたときは、この弁済は有効であり(423条の5、425条1)、その結果債権者は、直接請求を封じられる[/efn_note]
やはり、事実上の優先弁済的効力があるということだけで、債権の強制力保全手段として十分とは言えないのだ。
このように、責任財産保全制度ってあまり使い勝手がよくない。
そこで、債権者としては、あらかじめ自己の債権を確実かつ優先的に保全する方法が必要になってくる。
優先弁済権の保証
優先弁済権を保証する人、物
この点について民法は、
- 人的担保
- 物的担保
①人的担保とは、債務者が弁済しない場合に備えて、あらかじめ特定の第三者による弁済を確保しておく制度をいう。
保証(446条以下)がその代表である1。
保証人は、保証債務と呼ばれる債務を負担する。
その結果、債務者の責任財産だけでなく、保証人の責任財産も債権の引き当てにすることができる(同条1項)。
もっとも、人的担保は結局不安定な人の責任財産が拠り所となるため、担保価値はそれほど大きくない1。
そこで、物的担保の出番である。
②物的担保とは、債権の回収を確保するために、債権者が債務者または第三者の財産上に権利を取得し、債務不履行の場合にその権利に基づいて目的財産から優先的に弁済を受けることができる制度をいう。
この物的担保の代表例が抵当権である(369条以下)。
債権者が債務者の不動産に抵当権を設定していると、債務者が債務を履行しない際に、債権者はこの抵当権に基づいて債務者の不動産の売却を裁判所に申し立てることができる。
そして、債権者が複数いるときでも、それら他の債権者が抵当権を取得していないときは、優先的に自己の債権の弁済を受けることができるのである。
このような抵当権をはじめとする、債権者が取得する担保物に対する権利は担保物権と呼ばれ、その確実性と担保価値の大きさから、取引社会において重要な地位を占めている。
担保物権は、制限物権の一つである
担保物権は、用益物権と共に、制限物権に位置づけられる。
この制限物権とはどのようなものであろうか?
…
…
制限物権とは、所有権が持つ権能を一部制限された物権の総称である。
所有権は、「物権の王様」と呼ばれ、物の2つの経済的価値を把握するものである。
すなわち、
- 利用価値
- 交換価値
である。
①利用価値とは、権利者が物を自ら使用する、または他人に使用させて収益を得る場面である。
他方、②交換価値とは、権利者が物を他人の譲渡して収益を得る場面をいう。
これら2つの価値の一部を把握する権利が、所有権それ自体を所有者のもとにとどめたままで、他人に与えられることがあり、この権利は、所有権の権能の一部であることから、物権としての性質を有している。
そして、この物権は、分岐元の所有権を制限する効力を持つことになるので、制限物権と呼ばれているのである。
制限物権のうち、用益物権とは、他人の土地の利用価値を支配する物権であり、地上権(265)、永小作権(270)、地役権(280)、共有の性質を有しない入会権がある。
他方、担保物権には、民法上、
- 留置権
- 先取特権
- 質権
- 抵当権
がある。
担保物権は、②の交換価値を得ることが主な目的であり、①の利用価値を得ることは例外的な場合である。
この②例外的な場合が混乱を招き、またその混乱を解消することが理解を深めるうえで重要であるから、あとで詳述する。
そして、担保物権には、
- 担保物権であれば通常有する性質(通有性)
- それぞれの担保物権ごとの個性豊かな効力
があるところ、
- 通有性の例外(通常有するはずなのに、もっていないもの)、
- 他の担保物権との異同
が択一で問われるし、本質を捉えるうえで大事なコアとなる。
そこで、それぞれについて図と表にしたので、以下で紹介しよう。
まずは、通有性から。
担保物権の通有性
通有性とは
通有性には、
- 付従性(随伴性)
- 不可分性
- 物上代位性
がある。
①付従性(随伴性)
担保物権には、担保すべき債権(被保全債権)がなければ担保物権だけ存在することはないという性質がある。
これを担保物権の付従性という。
担保物権は被担保債権の優先弁済を受けるために設定されるものであるから、このような効力が承認されている。
付従性には、
- 被担保債権が発生しなければ担保物権も発生しないという成立における付従性
- 被担保債権が弁済などによって消滅すれば担保物権も消滅するという消滅における付従性
- 被担保債権が存在しなければ担保物権を実行できないという実行における付従性
の3つがある。
これに加え、付従性の一側面として、被担保債権が譲渡などによって第三者に移転すれば、担保物権もこれに伴って第三者に移転するという、随伴性という性質もある。
②不可分性
不可分性とは、被担保債権の全額の弁済があるまで、目的物全体の上に効力を及ぼすという担保物権の性質をいう。
被担保債権が一部弁済などによって減少したときに、これに伴って担保物権の範囲も減少するとすると、法律関係がややこしくなるので、このような性質が承認されている。
③物上代位性
物上代位性とは、目的物の売却・賃貸・滅失または損傷によって目的物の所有者が受ける金銭その他の物、および目的物の上に設定された物権の対価(地代や小作料)についても、その効力が及ぶとする性質である。
担保物権は優先弁済を目的とするものであるところ、優先弁済はその目的物の交換価値に着目するものであるから、このような性質が承認されている。
先取特権の物上代位について規定する304条によれば、物上代位の対象は、
- 目的不動産の売却代金
- 賃料や用益物権の対価
- 滅失・損傷による損害賠償金や火災保険料など
である。
しかし、②が代位物になるかどうかについて、主に同規定が準用される抵当権(372条)を舞台として、学説は大きく否定説と肯定説に別れていた。
すなわち、否定説は、不動産の賃料債権や用益物権の対価への物上代位を認めると、所有者の使用収益権能を制限することになり、不動産の使用収益に効力を及ぼさないか知見としての抵当権の本質に反するとする。
これに対し、肯定説は、不動産の賃料債権に物上代位を認めることが抵当権設定者にとって利益になるとする。
この争いの中、後述するように、担保不動産収益執行の制度が新設され、その立法作業の過程で、担保不動産収益執行と同様に不動産の収益に抵当権の効力を及ぼす賃料債権や用益物権の対価への物上代位を廃止するか議論された。
その結果、賃料債権への物上代位は、担保不動産収益執行の手続きに比べ簡易かつ迅速な債権回収方法であり、小規模不動産について有益であるから、存続することになった。
これに伴い、改正371条によって、被担保債権の不履行後に生じた天然果実や法定果実に抵当権の効力が及ぶことが規定され、上記否定説は現在ではもはや採りえなくなった。
間違えやすい通有性(通有性の例外)
以下の表を見ながら読み進めて欲しい。列の左半分が通有性である。
「通有性」というからには、通常〇がついているはずであるが、△や×がある。
ここが択一で問われやすいし、間違えやすいので、押さえていこう。
押さえるべきは、5つである。
- 質権・抵当権は、将来債権でも設定可能、根抵当権は実行における付従性のみ
- 留置権・質権は、債権譲渡に伴って当然に移転せず、占有の移転も必要
- 元本確定前の根抵当権は債権譲渡に伴って移転しない
- 留置権に物上代位性はない
- 一般先取特権に物上代位性はない
①質権・抵当権は、将来債権でも設定可能、根抵当権は実行における付従性のみ
付従性は、法定担保物権(留置権・先取特権)については、その性質上厳格に要求されるが、約定担保物権(質権・抵当権)については、金融取引上の必要性から、緩やかに解釈されており、将来生じる債権のために有効に成立することが認められている。
すなわち、
- 要物契約である金銭消費貸借契約(587条参照)について、金銭交付のない段階で設定された抵当権が有効とされ(大判明38年12月6日)、
- また、保証人が将来取得する求償権(459条以下)の担保のために、あらかじめ抵当権を設定することができる。
これは、質権でも同様であると解される。
また、発生と消滅を繰り返す不特定の債権を担保する根抵当権では、成立や消滅における付従性がなく、実行時に特定の債権がなければならないという実行における付従性が存在するだけである。
②留置権・質権は、債権譲渡に伴って当然に移転せず、占有の移転も必要
担保物権は被担保債権の優先弁済を得るためのものであるから、被担保債権が譲渡されると、担保物権もこれに伴って移転するのが原則である(随伴性)。
もっとも、留置権、質権は占有が成立要件であるため(295条1項本文、344条)、債権譲渡と併せて占有も移転することも必要とされる。
③元本確定前の根抵当権は債権譲渡に伴って移転しない
確定前の根抵当権においては、個々の被担保債権は根抵当権と固定した結合関係になく、債権の処分により債権者や債務者を異にするようになれば、その債権は当然に被担保債権の範囲から離れることになる。
そのため、確定前の根抵当権については随伴性が否定されている。
したがって、元本の確定前に根抵当権者から債権を譲り受けた者は、その債権にちて根抵当権を行使できない(398条の7第1項前段)。
④留置権に物上代位性はない
留置権は、優先弁済的効力を持たないので、優先弁済的効力を根拠とする物上代位性はない。
留置権は、債権者が目的物に関する債権を有する場合に、公平の観点から、その目的物を留置して引渡しを拒絶することを認めることで、間接的に債権の弁済を強制することを目的とする担保物権だからである(295条1項本文)。
⑤一般先取特権に物上代位性はない
一般の先取特権は、債務者の総財産を目的とするものであるから(306条)、物上代位性は問題とならない。
たとえば、債務者の総財産中のある物が売却されても、売却代金は債務者の総財産の一部を構成するので、当然に一般の先取特権の効力が及ぶことになり、物上代位性によって効力が及ぶのではない。
担保物権の効力の異同
担保物権の効力
担保物権に認められる効力として、
- 留置的効力
- 収益的効力
- 優先弁済的効力
がある。
以下、それぞれについて説明するが、特に間違えやすいポイント・理解を進めるために大切なポイントを、赤字で示すので、下表右半分の列をチェックしながら確認して欲しい。
①留置的効力
留置的効力とは、債務の弁済がされるまで担保物権者が目的物を留置(占有)することができる効力である。
これによって、間接的に債務の弁済を促すわけである。
留置権(295条)、質権(342条・347条)に認められている。
ただし、権利質は債権・株式などの権利が対象であるため、物の留置権効力は問題とならない。
②収益的効力
担保権者が目的物を使用収益することができる効力を、収益的効力という。
上述のように、担保債権は処分権能による優先弁済を受けるのが主な目的であるから、収益的権能に基づく収益的効力は例外的な場合であり、理解・整理のために重要である。
民法の条文上、不動産質権にこの効力が認められている(356条)。
なぜなら、不動産は動産と異なり、使用収益によって損傷する恐れが少ないし、不動産を使用収益しないことはかえって国民経済上不利益であるからである。
…
…
ところで、一般の基本書の冒頭にある担保物権の効力についての記述において、不動産質権以外の担保物権には、収益的効力はないとされる(俺が使っている松井もそう)。
しかし、各論部分を読み進めると、以下のように、収益的効力が認められることがわかる。
- 留置権、不動産質権以外の質権(動産質・権利質)
→果実収取が可能 - 抵当権
→担保不動産収益執行の新設
留置権、不動産質権以外の質権(動産質・権利質)の果実収取権
留置権者は、留置物から生じる果実を収取し、他の債権者に優先して債権の弁済に充当できる(297条1項)。
果実には、天然果実の他に法定果実も含まれる。
したがって、留置権者は、債務者の承諾を得て留置物を賃貸した場合(298条2項)の賃貸料を収受して、自己の債権の弁済に充当できる。
これらの規定は、質権に準用されており(350条・297条・298条の2)、動産質権者は、質物より生じる果実を収取して他の債権者に優先して債権の弁済に充当できる。
また、債権質では、質入れされた債権が利息付きのときは、質権の効力はその利息債権にも及ぶ(87条2項の類推適用)。
そして、質権者はこの利息を取り立てて、債権の優先弁済に充てることができるので(362条2項・350条・297条)、実質的には質入れされた債権による収益を認めたのと同様の効果となる。
抵当権の担保不動産収益執行権
抵当権者が優先弁済を受ける方法には、
- 担保不動産競売
- 担保不動産収益執行
の2つがある(民事執行法180条)。
引用:強制執行手続(裁判所HP)
①担保不動産競売とは、抵当不動産を競売手続きにより換価し、その売却代金から優先弁済を受ける方法である。
②担保不動産収益執行とは、抵当不動産が生み出す収益(天然果実・法定果実)から優先弁済を受ける方法であり、平成15年の「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」により新設された。
この担保不動産収益執行の根拠を明確にするのが371条であり、これによると、「被担保債権の不履行が生じた後」に抵当不動産に発生した天然果実と法定果実に対して抵当権の効力が及ぶことになる。
そうすると、担保不動産収益執行によって、弁済期が到来している限り、本来担保物所有者の使用収益権の対象である賃料債権にも広くかかっていけるのであるから、抵当権者は実質的に、広く使用収益権能を取得することになる。
担保不動産収益執行と物上代位は、共に、設定者が本来有するはずの使用収益権能をも担保権者が取得するものである。
しかし、以下の表のような違いがあり、その特性に応じて使い分けられる。
物上代位 | 担保不動産収益執行 | |||
---|---|---|---|---|
準用される手続き | 債権執行手続き →賃貸借の管理には触れず、賃料だけを債権者が賃借人から直接に取り立てる | 強制管理手続き →管理人が選任されて不動産の管理を行い、収益を分配(管理用や管理人の報酬などが差し引かれる) | ||
メリット | 簡便・迅速・廉価 | 債務者が困窮する場合には,債務者にいくらかの金銭を支払うという仕組みもあり、物件の価値が保全され、安定的に収益を得ることができる | ||
デメリット | 債務者が困窮していると、物件の管理を怠り、荒廃し、賃借人(第三債務者)が賃料の支払いに非協力になることが生じかねない | 手間とコスト | ||
想定される不動産 | 小規模 | 中~大規模 |
↓参考までに、債権執行の手続きの流れ図をあげておこう。
③優先弁済的効力
債務の弁済がなされないときに、担保権者が目的物を売却(競売)にかけ、その代金から優先的に弁済を受けることができる効力を、優先弁済的効力という。
先取特権・質権・抵当権についてこの効力が認められており(303条・342条・369条)、この効力に基づいて目的物の換価権と優先弁済権を有している。
他方、留置権は、債権者が目的物に関する債権を有する場合に、公平の観点から、その目的物を留置して引渡しを拒絶することを認めることで、間接的に債権の弁済を強制することを目的とする担保物権であるから(295条1項本文)、上記意味での優先弁済的効力を有しない。
しかし、留置権には、以下のように事実上の優先弁済的効力が認められている。
- 換価のための競売(民事執行法195条)をし、この返還義務を被担保債権と相殺することができる
- 不動産については、他の債権者が競売しても留置権は消滅せず、買受人は留置権の被担保債権を弁済しなければ引渡しを受けることができない(民事執行法59条4項・188条)
- 動産については、他の債権者が競売しようとしても、留置権者が留置権を行使して当該動産の引渡しを拒めば競売手続きは進行しない(民事執行法124条・190条・192条)ので、他の債権者は、留置権の被担保債権を弁済して、留置権を消滅させなければ競売手続きをとることができない
あとがき
いかがだっただろうか。
債権総論に規定された様々な債権の履行確保手段を把握することで、担保物権がいかに債権の履行確保にとって強力かつ確実であるかが、相対的にわかってもらえたのではないか。
そして、4つの担保物権の個性について、以下の重要ポイントを押さえてもらえたのではないか。
- 担保物権の「通有性」といっても、例外的に認められない性質があること
→金融の必要性から(約定担保の成立における付従性)
→担保物権それぞれの性質から(根抵当の成立における付従性、留置権・質権・根抵当の随伴性、留置権・一般の先取特権の物上代位性) - 担保物権は「収益権能がなく処分権能だけ債権者に移転させる」という単純なモデルで理解してしまうと、誤ってしまうこと
→不動産質権
→留置権の果実収取権、その他質権の果実収取権
→抵当権の担保不動産収益執行 - 留置権は民法上優先弁済的効力がないものとされているが、民事執行法まで視野にいれると優先弁済的効力があること
反対に、体系・論理の理解ができていると、楽しいし、確実な記憶と応用力に繋がる!
楽しみながら、引き続き学習していこう!
では、また!
参考文献
- 潮見佳男『プラクティス債権総論』
- 佐久間毅『民法の基礎2物権』
- 松井宏興『担保物権法』
- 近江幸次『担保物権」
この記事で使われている基本書のレビューはこちら↓
コメントを残す