おす!かずだい!
突然だが、処分性も原告適格も、たった1つの理念を目指すもので、しかもその判断ができるようになるために、たった2つのポイントだけ押さえればいいことは知っているかな?
という方は、司法試験・行政書士試験の超重要分野である処分性・原告適格がまだ骨身にみについていない(ネックとなっている)。
上記「1つの理念」とは、法律による行政の原理が目指しているもの、すなわち「国民の権利・利益の保護」である。
一般の受験生は、法律による行政の原理と処分性・原告適格の関係が切り離されており、これでは真に行政法を理解したとはいえず、仮に暗記力で試験に受かっても行政法は「なんだかよくわからない、つまらない、勝てない、関わりたくない」で終わってしまう。
また、その判断プロセスは、以下の記事で述べた普遍的法的思考法である「一般的確実性(理窟)」と「具体的妥当性(人情)」という2つの要素を理解していないと、説得力を持って文章で表現できない。
本記事では、真に法律による行政の原理と処分性・原告適格を理解し、それをさらに科目をまたぐ一生の財産、「法的思考力」にまで高めて解説している。
唯一無二かつ本当に必要な知識なので、ぜひこの機会を逃さず最後まで読んでマスターしてもらいたい。
では、処分性から始めよう!
目次
処分性
「行政行為」と「処分」との関係
行政行為とは、行政庁が法令に基づいて、個別事案に対して行う一方的行為であって、市民に対する義務の賦課、および権利の創設・変更・取消しを内容とするものであるとされる(後掲大橋)。
他方、「処分」とは、行政訴訟の代表である取消訴訟をはじめたとした、抗告訴訟の訴訟物を指す用語として用いられている(行政事件訴訟法3条参照)。
このように、行政行為は学術上の用語であるのに対して、処分は法令上の用語であるという差異がある。
しかし、より本質的には、処分は基本的に、行政行為を想定しつつ、それを補完している、ということが重要である。
どういうことか。
以下、「行政行為の概念って何でできたのか?」というところから紐解いていく。
行政行為の2つの性質~内在するパワー&法律による縛り
そもそも国家は、市民社会の秩序を維持する目的で形成された(社会契約論)。
そのため、国家が行う行政活動は、必然的に市民社会の秩序を維持するための「パワー」(権力性)を有している。
他方、そのようなパワーが濫用されないよう、国民の基本的人権を保障することを目的として、法律により行政を拘束すること、すなわち法律による行政の原理が醸成されていった。
もっとも、すべての行政活動に法律の授権を要するとするのは行政活動の機動性を害し現実的ではなく、特に国民の権利を侵害する可能性が高い行政活動を行政行為という概念で明確化し、他の行政活動(行政基準、条例、計画、契約、行政指導など)と区別したうえ、法律の授権に基づくことを要請するのが賢明である。
この法律の授権をどこまで要請するのかが、「法律の留保」の論点であり、実務がとっている侵害留保説は、「私人自由と財産を侵害する行為」について、法律の根拠を必要とする。
そのようにして類型化された行政行為という概念には、以下の「縛り」がある(法律の優位)。
このように、行政行為概念は、法律による行政の原理と密接な関係があり、この関係性を意識しなければ、行政法の真の理解は得られない(基本書はこの繋がりについて厳密には論じない)1。
処分性の拡大
かつては、行政行為に対応すべく構想された取消訴訟が中心的手段であり、行政行為以外の行政活動に対する権利救済手段は不順分であった。
そこで、取消訴訟を使って権利救済を図ることが試みられた。
つまり、取消訴訟を拡張する目的で、行政行為以外の行政活動に対しても、処分性の判定を行った。
判例にも、行政基準、条例、計画、契約、行政指導などの取消訴訟の対象と解釈したものが見られた(処分性の拡大)。1
そのため、行政行為と処分との関係は、次の図のようになる。
- 行政行為は、伝統的に権力性を有しないとされていた行政基準、条例、計画、契約、行政指導などを含まないものとして、形式的にとらえるものであり、
- 対して処分は、「法律によって国民の権利を保護・救済する」という法律による行政の原理の趣旨に立ち返り、実質的判断を行うもの
ということができるであろう。
訴訟要件としての処分性
取消訴訟制度は、違法な処分により自己の権利または法律上保護されている利益を侵害されたものに対し、取消判決により法益の回復を図る仕組みである。
法益保護という趣旨からすると、処分によって不利益を受けた者に回復すべき利益が存在することが取消訴訟の前提となる。
これにより、限りある訴訟資源を節約するという実際上の効果もある。
処分性は、後述する原告適格と共に、広義の訴えの利益と呼ばれる訴訟要件の一つである。
引用元:大橋洋一『現代行政過程論』Ⅱ(第2版)42頁
「処分性」は実質判断のための概念だ!
処分とは、判例2によれば、「①公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、②直接③国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが④法律上認められているもの」である。
これを分解すると、
- 外部性
- 直接性
- 法的効果
- 法律の授権
を内容とするといえる。
これは行政行為の形式的性質に対応するものであるが、上述した2段構えの思考様式に基いて、それぞれについて国民の権利保護という観点から実質的に判断される必要がある。
以下、それぞれについて形式的には処分にはあたらないはずであるが、実質的な判断の結果処分性が肯定された重要な裁判例について、特に厳選して紹介していく。
①外部性→通達
処分は、行政と国民との関係で発動されるもの、つまり行政外部行為と理解されてきた。
換言すれば、行政内部行為は含まれないため、通達は原則として処分に該当しない。
しかし、函数尺事件(東京地判昭和46年11月8日)は、通達が与える国民に対する具体的不利益に鑑み、通達について処分性を認めた。
引用元:言葉がだんだん、遠くなるう~、遠くなる♪♪♪(プラッツ)
この事件は、通商産業省の局長がF県知事に対して出した通達(「尺」という非法定計量単位を記載した計量器の販売が計量法10条に違反する旨の内容)の処分性が問題となった事例である。
東京高裁は、以下のように述べて、通達の処分性を肯定する道を開いた。
そして、本件では、当該通知が発せられたあとに、関係行政機関から販売業者に対して販売中止勧告がなされ、その結果、上記計量器の製造業者Xは取引のあった販売業者から買い入れ契約の解除を受けることとなったのであり、上記特殊例外的な場合にあたるとされた。
引用元:大橋洋一『現代行政過程論』Ⅱ(第2版)63頁
裁判所は、契約解除という具体的な不利益をとらえ、権利救済という実質的観点から、処分性を肯定したのである。
②直接性→行政基準・行政計画
法律、条令、行政計画は、一般的内容の準則行為であり、権利義務の変動を内容とするものであっても、それに基づく個別的行政決定によって具体的に権利変動がもたらされるのが通例である。
したがって、間接的に権利変動をもたらすにとどまる準則行為は、原則として処分性を有しない。
しかし、行政基準・行政計画それぞれについて、処分性を肯定した判例があるから、紹介しよう。
行政基準
引用元:神奈川巡礼2 横浜市立保育園廃止処分取消請求事件
横浜市立保育園廃止処分取消請求事件(最判平成21年11月26日)は、以下のように述べて、市立保育園4つについて廃止する内容の条例の処分性を肯定した。
保育所の入所は、児童の保護者が市町村に対し申込みを行うことが前提となっており、その申込書に「入所を希望する保育所」を記載し提出する仕組みとなっていた。
裁判所は、ここから上記法的地位を読み解き、そのような法的地位を奪う結果の重大性に鑑み、実質的観点から、処分性を肯定したといえる。
行政計画
最判平成20年9月10日は、仮換地の指定や換地処分の前段階である、土地区画整理事業事業計画決定に処分性を肯定した。
引用元:大橋洋一『現代行政過程論』Ⅱ(第2版)72頁
以前の判例(最判昭和41年2月23日)では、後続処分である仮換地指定まで出訴を待たねばならないため、4年も待たされる。
しかし、それでは工事を相当程度進んでしまい、判決時には既成事実となり、裁判所は取消判決を出せない状況に追い込まれてしまう(事情判決。31条)
これでは、実効的権利救済が図れないため、裁判所は処分性を拡大したのである。
③法的効果→行政指導・通知
処分は、権利義務に変動を及ぼす法的効果を有するものである。
換言すれば、事実行為は原則として処分に該当しない。
事実行為とは、行政指導、勧告、通知、公共施設の稼働、公共事業の実施などである。
本記事では特に行政指導と通知を挙げる。
行政指導
最判平成17年7月15日は、医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの)30条の7の規定に基づき都道府県知事が病院を開設しようとする者に対して行う病院開設中止の「勧告」(下図②)について、処分性を認めた。
引用元:大橋洋一『現代行政過程論』Ⅱ(第2版)82頁
行政指導に従うことは任意であるのであるから、医師は勧告に従わないことができ、この場合でも病院開設許可は認可される。
しかし、保険証を利用できる病院にしようと考える場合、医師は保険医療機関の指定を知事に申請する必要がある。
指定申請をした場合、上記勧告の不服従者には、通達により原則として保険医療機関の指定申請を拒否するという解釈が示されていた。
たしかに、指定拒否がなされた段階において、指定拒否取消訴訟を提起して争うことは可能である。
しかし、開設者は医療従事者の確保や病院建設を完了するなど、既に多額の資本投下をしており、指定拒否の段階まで待って訴訟を起こすことは避けたいところである。
このような状況を勘案すると、勧告に処分性を認めて早期の段階で勧告の違法を争うことが、開設者の実効的権利救済に繋がるといえる。
-
通知
最判昭和54年12月25日は、輸入禁制品該当通知に処分性を肯定した。
ある輸入業者が写真集を輸入しようと申請したところ、横浜税関長は、風俗を害すべき書籍に該当するとして、通知をした。
輸入業者は、当該通知の取消訴訟を提起し、裁判では通知の処分性が争われ、多数意見はこれを肯定した。
すなわち、輸入禁制品該当通知の後は、輸入禁制品に対する輸入不許可処分といった後続処分が予定されておらず、禁制品該当の行政判断を争わせる機会が存在しないという解釈に基づき、通知が貨物を輸入できなくさせるという法律上の効果を有するとしたのである。
このような、権利救済の機会の欠如は、処分性を基礎づけるものとなる。
④法律の授権→行政契約
処分が有する性質である、一方的規律に基づく法的効果は、法律の授権に基く。
したがって、特定の市民間の合意に基礎を置いて権利や義務が生じる、契約などの私法上の行為は、原則として処分に該当しない。
もっとも、寄託契約の性質を有する供託について、最判昭和45年7月15日は、 供託官がした供託金取戻請求の却下について、審査請求手続きが法定されていることなどを理由に、処分性を肯定した。
不服申立ての対象は、抗告訴訟の対象と同様に解釈されている。
そこで、ある行政活動に対し、法律上不服申立規定が定められている場合には、立法者は当該行政活動を処分と理解したものと解されている。
つまり、不服申立が定められている場合、それに対して権利救済の途を開く必要がある行政活動であるといえるのである。
処分性まとめ
以上から、
- 外部性
- 直接性
- 法的効果
- 法律の授権
という「形式的な処分の公式」に該当しない行政活動であっても、
- 国民に与える不利益のインパクトの大きさや、
- 救済機会の欠如、
- 不服申立制度からの推察
といった、「権利救済」という実質面を考慮し、処分性を肯定していることがわかってもらえたのではないか。
これが、一般的確実性への配慮(原則から離れる説明責任を果たす)という裁判官の任務を全うするところであり、判決に説得力を持たせる重要なポイントである。
司法試験の論文でも気を付けておくべきところだな。
ぜひ、それぞれの判決のリンク先から、原文を読んで欲しい(下手な人、上手い人がわかる)。
原告適格
- 根拠法令
- 保護範囲
- 個別保護要件
というように整理し、第三者の原告適格を判断するとする。
法律による行政の原理に基づき、権利救済を求める必要性がある者は、➀根拠法令により規定されているのであり、あくまで根拠法令の解釈として、②③を考慮する、というスタンスである。
②において、根拠法令の下位規範を参考にする場合、これを特に「下剋上解釈」という。
③において、国民の権利救済の必要性が高い場合、立法者はこれを考慮して根拠法令を規定したと考えられる。
このように利益の側から遡って法令を解釈することを、「逆流解釈」という。
以下、②保護範囲要件、③個別保護要件それぞれについて、原告の権利救済という実質的観点から原告適格が肯定された裁判例を紹介しよう。
②保護範囲
東京都に対してされた都市計画事業認可に対して、第三者たる周辺住民が提起した取消訴訟について、原告適格を否定した事例、肯定した事例を比較して、保護範囲要件の使われ方について考えてみよう。
否定事例:環状6号線 都市計画事業認可処分等取消請求事件(最判平成11年11月25日)
同判例は、事業地内の不動産に関する権利を有する者について原告適格を認めたが、周辺住民について否定した。
その理由は、根拠法令たる都市計画法によれば、事業認可の告示によって事業地内における建築が制限されるという法的効果および、当該告示により以後収用裁決が可能となるという法的効果が生じるところ、いずれも所有権に関わるものだからである。
しかし、これだけでは他の関係法令が視野の外に置かれており、根拠法令の実質を読み解くうえで不十分である。
肯定事例: 小田急線連続立体交差事業認可処分取消請求事件( 最判平成17年12月7日)
引用元:小田急電鉄 連続立体交差事業および複々線化事業見学会
同判例は、関係法令の範囲を広く捉え、都市計画事業の事業地の周辺住民のうち、「同事業が実施されることにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者」に原告適格を認め、原審が肯定した「不動産上の権利」よりも原告適格を拡張した。
そこでは、都市計画法が都市計画の基準に関して、公害防止計画に適合したものでなければならないことを捉え、ここから公害対策基本法、東京都公害防止条例にも視野を広げた。
各法令の複数の条項から根拠法令の趣旨・目的を読み解き、これに原告らの利益の性質を勘案したうえ、周辺住民が「違法な事業に起因する騒音、振動等により健康又は生活環境にかかる著しい被害を受けないという具体的利益」を有していることを認めた。
③個別保護要件
生命・身体
違法な処分によって人の生命や身体の安全への危害が想定される場合には、最高裁は、生命・身体への法的侵害を重視して法令解釈を行う(逆流解釈)ことで、法益侵害の可能性のある第三者(保護範囲の切り出し)について原告適格を肯定する傾向にある。
福井県にある高速増殖炉もんじゅの周辺住民が、内閣総理大臣がおこなった、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」23条に基づく原子炉設置許可処分の無効確認を求めた訴訟( 最判平成4年9月22日。もんじゅ訴訟)を見てみよう。
最高裁は、法24条が2項3項について、原子炉が、その稼働により大量の有害な放射性物質を発生させるものであることから、原子炉を設置しようとする者が、所定の技術的能力・原子炉施設の安全性を確保するという趣旨・目的であると解釈した(逆流解釈)。
そのうえで、事故が起こったときは、原子炉施設に近い住民ほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その程度はより重大なものとなることから、「原子炉周辺に居住し、この事故がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受ける者」について、原告適格を認めた(保護範囲の切り出し)。
根拠法令の文言はかなり抽象的で、形式的にみると一般公益保護とも思える。
だが、利益を視野に入れる実質判断をすると、このような重大利益を立法者は考慮しないはずはないとないと解釈したのである。
生活利益
生活利益については、下級審が実質判断をしている。
対して最高裁はオカタく、原告適格を認めない方向で固めようとしていると考えられる。。
場外車券発売施設設置許可処分取消請求事件(大阪高裁判決平成20年3月6日)
場外車券発売施設が建設される本件敷地の近隣において居住し、事業を営み、又は病院等を開設する控訴人らが、経済産業大臣がした場外車券発売施設の設置許可は要件を満たさない違法なものであるとして、その取消を求めた。
第一審ではこれが却下されたため、控訴がされた。
大阪高裁は以下のように述べて、本件敷地から1000メートル以内の地域に居住し、事業を営み、又は病院等を開設する住民は原告適格を有するとして、原判決を取り消した。
本件の
- 処分の根拠法たる自転車競技法4条
- その設置許可基準等を定める自転車競技法施行規則
- 経済産業省告示及び同省通達の各規定
は、場外車券発売施設の設置許可がされた場合に、当該施設に不特定多数の者が来集すること等により、周辺地域の善良な風俗や生活環境に悪影響を及ぼすことを防止し、もって良好な生活環境を保全することも、その趣旨及び目的とするものと解される。
すなわち、自転車競技法施行規則14条2項及び15条1項は、場外車券発売施設の設置許可申請者に対し、同施設敷地の周辺から1000メートル以内の地域にある学校その他の文教施設及び病院その他の医療施設の位置並びに名称を記載した付近の見取図を添付することを要求している。
また、本件告示は、入場者の用に供するため,適当な数及び広さを有するインフォメーションコーナー、お客様相談所、駐車場等を設けることを要請し、さらに、本件通達は、場外施設が本件告示に適合するようなど指導することを要請している、
これらの規定は、場外施設が周辺環境と調和したものであることを経済産業大臣が確認したうえ、賭博罪の違法性を阻却する特許を付与する趣旨であると解される。
その趣旨及び目的に反した場外車券発売施設の設置許可がされた場合、その違法な施設に起因する、善良な風俗及び生活環境に対する悪影響を直接的に受けるのは、当該施設の周辺の一定範囲の地域に居住し、事業を営む住民に限られ、その被害の程度は、居住地や事業地が当該施設に接近するにつれて増大するものと考えられる。
また、これらの住民が、当該地域で居住、事業を営み続けることにより被害を反復、継続して受けた場合、その被害は、ストレス等の健康被害や生活環境に係る変化、不安感等の著しい被害にも至りかねないものである。
そして、前記各規定は、その趣旨目的から、特に同施設敷地の周辺から1000メートル以内の地域に住む住民について、「違法な当該施設に起因する上記の健康や生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益」を保護しようとするものと解されるところ、上記のような被害の内容・性質・程度に照らせば、この具体的利益は、一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものであるといえる。
よって、前記施設の敷地から1000メートル以内の地域に居住し、事業を営み、又は病院等を開設する近隣住民の原告適格を肯定できる。
ところが、この上告審( 最判平成21年10月15日)はというと、上記見取り図を単なる参考資料とする位置づけをし、
- 場外車券発売施設の設置・運営に伴い「著しい業務上の支障が生ずるおそれ」があると位置的に認められる区域に「文教施設又は医療施設を開設する者」にのみ原告適格を認め、
- 場外施設周辺に居住し又は事業を営む者は,原告適格を認めなかった。
位置基準の趣旨を、医療機関で行われる業務に支障が出ると生命・身体に危険が及ぶという点に着目して解釈ものであり、生活利益そのもの(張り紙、けんか、不法駐車、窃盗、くわえたばこ、信号無視等)を視野に入れなかったのである。
同じく生活利益について問題となった 墓地経営許可処分取消請求事件(最判平成12年3月17日)も、個別の条文への言及、具体的利益状況への配慮を示さず、抽象的な判断で原告適格を否定しており、9条2項の要請に応えるものではなかった。
これらの判例からは、最高裁は生活利益そのものについて保護しないという傾向で固めようとしていることが伺える。
しかし、このような形式的判断は、
- 根拠法令全体を緻密に検討し実質判断することを要請している9条2項の趣旨、ひいては法律による行政の原理に反する態度であること、
- 日々の生活は所有権の価値の基礎であり、また身体精神の健康と境界が不明確であり、厳密な分類は不可能であること、
- 原告適格は訴訟の入り口にすぎず、できるだけ広く認めるべき
という配慮を欠くものであり、妥当ではない。
原告適格を否定するにしても、少なくとも、より実質的で説得的な理由付けがなされなければならないと考える。
あとがき~頭カチコチ裁判官をどうするか~
いかがだっただろうか。
民法の大家である我妻が遺してくれた、一般的確実性と具体的妥当性の調和という視点・表現方法は、行政法の処分性・原告適格判断でもしっかり活きていること、活かしていかなければならない普遍的な法的思考法であることがわかってもらえたのではないか。
本記事は、網羅的な知識まとめを目的とするものでなく、上記のような思考法の理解が目的のため、比較的まともな判断を多くピックアップしたが、基本書を読んでると、不当な判決も多い事に気づく。
このような頭カチコチ裁判官は、
- 受験時代に「ただ受かるため」に予備校などに通い、一般的確実性と具体的妥当性の追求という法律家としての基本的姿勢が醸成されなかったのか
- 裁判官も受験生のときは真摯に事件に向き合ってたのに、環境が人を変えちゃうのか
これからは俺たちの時代。
法律による行政の「本当の機能」を実現するため、公法関係訴訟を支配する司法消極主義の原因と対策について、考えていかなければいけないな。
参考文献
- 櫻井敬子・橋本博之『行政法』
- 橋本博之『行政法判例ノート』
- 大橋洋一『現代行政過程論』
これら基本書のレビュー↓
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