オス!かずだ!
- 量的過剰防衛って、結局、急迫不正侵害の継続が必要なの?学説の定義があいまい!
- 過剰防衛減刑根拠、違法性阻却の話なのに、なんで責任減少とかでてくるん?混乱!
- 量的過剰とされる判例の共通項がわからず、覚えられない!
という方はいないだろうか?
量的過剰防衛の定義について、俺が使っている山口厚の『刑法』(青本)では、「侵害に対して反撃を継続するうちに、その反撃が過剰となった場合」と定義している。
そしてこの定義には、侵害継続状態がない場合も含まれる旨の記述がある。
引用:山口厚『刑法』
だけど、最近の判例は、
- 「侵害の継続性」(最判平成20年6月25日。百選判例)
- 「急迫不正の侵害に対する一連一体」といえる行為(最決平成21年2月24日)
を過剰防衛成立に求めていて、上記山口の記述と整合しない。
こんなカオスの状態では、知識が頭に定着せず、択一でも論文でも使えない。
そこで、俺が持ち前の法的思考力を発揮し、量的過剰ってどんな場合なのか、
- 正当防衛の正当化根拠から、
- 上記二つの判例から
共通項をくくり出して定義した。
これは、侵害行為の継続を求めるものであり、山口の定義を採らないことを意味する。
しかも、上記定義は正当防衛の正当化根拠としても整合する
では、どうしてこう定義できるのか、本記事を最後まで読めば、理解できる。
まずは、前提として、量的過剰防衛の根拠条文の文言と、上記山口と川端の定義を押さえておこう。
なお、参考文献は以下によった。
- 山口厚『刑法』
- 川端博『刑法総論講義』
目次
過剰防衛とは~条文と学者の定義~
過剰防衛とは、防衛行為が「防衛の程度を超えた」(36条2項)場合である。
「防衛の程度を超えた」とは、防衛行為が「やむを得ずにした」1(同1項)ものといえないことである。
かかる場合、正当防衛として違法性は阻却されず、犯罪が成立し、任意的に減刑または免徐をうける。
過剰防衛には、質的過剰防衛と、量的過剰防衛の区別があり、まず、それぞれの定義をハッキリさせておく必要がある。
以下では、俺が使っている上掲の山口と川端の定義を挙げる。
比較してみよう。
質的過剰防衛とは
- 防衛行為自体が侵害排除に必要とされる以上の侵害性を備えていた場合(山口)
- 防衛行為が必要性と相当性の程度を超えていること(川端)
とされる。
量的過剰防衛とは
- 侵害に対して反撃を継続するうちに、その反撃が過剰となった場合(山口)
- 当初は正当防衛としてなされ、それによって相手方がその侵害を止めたのにもかかわらず、さらに進んで追撃すること(川端)
とされる。
他方、川端の定義の「侵害を止めた」とは、侵害「行為」について述べたものであり、客観的な侵害状態の継続を要求するのか否か定かではない。
では、「そもそも論」の、過剰防衛の減刑根拠からは、量的過剰の定義ってどうなるのだろうか?
過剰防衛の減刑根拠
過剰防衛の減刑根拠には、以下の3つが主張されている。
- 責任減少説
- 違法減少説
- 違法・責任減少説
である。
責任減少説
意義
急迫不正の侵害に直面した防衛行為者の心理的抑圧状態のため、許容される範囲内に防衛行為がとどまらないことがあり、このような期待可能性が減少することに、減軽の根拠を求める見解である。
批判
- 心理的圧迫状態が継続していれば、先行行為と後行行為の時間的・場所的離隔を問うことなく、量的過剰を認めてよいとはいえない。
- 違法性阻却の根拠に責任減少がないと論理一貫しない
と指摘できる。
違法減少説
意義
法益侵害に対する防衛効果が生じており、また防衛のために行われたことによる違法性の減少に根拠を求める見解である。
批判
過剰部分だけみれば完全な犯罪が成立するはずである、と指摘される。
違法・責任減少説
責任減少説を基礎にしつつ、前提となる違法性減少を肯定する見解である。
どれを採るべきか?
責任減少説の不当性
そもそも、違法性とは、法益を侵害する社会的に許されない行為である(折衷的行為無価値論)。
そして、違法性阻却事由の正当化根拠は、行為が法益保護という国家的に承認された共同生活の目的達成のために適当な手段であったことによる(川端。目的説+優越的利益説)2
これを正当防衛についてさらに具体的にすると(正当防衛の正当化根拠)、
- 法秩序の侵害の予防を国家機関が行ういとまがない緊急時における防衛行為は、侵しがたい個人の自己保全の権利といえるし(個人の自己保全)
- かかる緊急時に、補充的に私人がこれを行うことが国家的に承認されている(法の自己保全)、
ということである。
①このように、正当防衛の成立のためには、「緊急時」といえること、すなわち客観的な法益侵害状況の継続を求められるのであって、心理的圧迫状態は考慮されるべきでない。
心理的圧迫状態を考慮に入れると、先行行為と後行行為時間的・場所的離隔を問うことなく、量的過剰防衛を認めることになり、上記のような緊急権としての違法性阻却の性質を逸脱しているといえ、妥当でない。
防衛時の心理的圧迫状態は、責任段階での期待可能性の欠如や、被告人にとって有利な事情(66条)として、違法性とは区別して考慮されるべきものである。
②また、防衛時の心理的圧迫状態は、過剰防衛の場合にだけ問題になるものではなく、必要最小限となった通常の正当防衛状況においても存在しうる。
そうであれば、そもそも正当防衛の正当化根拠として、責任減少を挙げないと、論理一貫しない。
以上から、責任減少説は採り得ない。
違法性・責任減少説の不当性
そうすると、責任減少を根拠の一つとする、違法・責任減少説も採りえない。
違法減少説の正当性
以上、緊急権であることを正当防衛の正当化根拠とする以上、侵害の継続状態を必要とする違法減少説が妥当である。
そうすると、量的過剰防衛とは、侵害行為の違法性が弱まっているのにも関わらず、防衛行為がそれに対応して減少しなかった場合をいうと解すべきである。
これにより、以下に掲げる2つの判例も整理できる。
最判平成20年6月25日~断絶事例~
最判平成20年6月25日は、相手方の急迫不正の侵害に対し、正当防衛に当たる暴行(以下「第1暴行」という。)を加えて同人を転倒させた被告人が、相手方が更なる侵害行為に出る可能性のないことを認識した上、防衛の意思ではなく、専ら攻撃の意思に基づき相当に激しい態様の第2暴行を加えた(以下「第2暴行」という。)という事例である。
最高裁は、第1暴行と第2暴行の間には、侵害の継続性および防衛の意思の有無という点で断絶があって、急迫不正の侵害に対して反撃を継続するうちに、その反撃が量的に過剰になったものとは認められず、両暴行を全体的に考察して1個の過剰防衛の成立を認めるのは相当ではないと判示した。
事案詳細
被告人(当時64歳)は、本件当日、第1審判示「Aプラザ」の屋外喫煙所の外階段下で喫煙し、屋内に戻ろうとしたところ、甲(当時76歳)が、その知人である乙及び丙と一緒におり、甲は、「ちょっと待て。話がある。」と被告人に呼び掛けた。
被告人は、以前にも甲から因縁を付けられて暴行を加えられたことがあり、今回も因縁を付けられて殴られるのではないかと考えたものの、同人の呼び掛けに応じて、共に上記屋外喫煙所の外階段西側へ移動した。
被告人は、同所において、甲からいきなり殴り掛かられ、これをかわしたものの、腰付近を持たれて付近のフェンスまで押し込まれた。
甲は、更に被告人を自己の体とフェンスとの間に挟むようにして両手でフェンスをつかみ、被告人をフェンスに押し付けながら、ひざや足で数回けったため、被告人も甲の体を抱えながら足を絡めたり、けり返したりした。
そのころ、二人がもみ合っている現場に乙及び丙が近付くなどしたため、被告人は、1対3の関係にならないように、乙らに対し「おれはやくざだ。」などと述べて威嚇した。
そして、被告人をフェンスに押さえ付けていた甲を離すようにしながら、その顔面を1回殴打した。
すると、甲は、その場にあったアルミ製灰皿(直径19㎝、高さ60㎝の円柱形をしたもの)を持ち上げ、被告人に向けて投げ付けた。
被告人は、投げ付けられた同灰皿を避けながら、同灰皿を投げ付けた反動で体勢を崩した甲の顔面を右手で殴打すると、甲は、頭部から落ちるように転倒して、後頭部をタイルの敷き詰められた地面に打ち付け、仰向けに倒れたまま意識を失ったように動かなくなった(ここまでの被告人の甲に対する暴行が「第1暴行」)。
被告人は、憤激の余り、意識を失ったように動かなくなって仰向けに倒れている甲に対し、その状況を十分に認識しながら、「おれを甘く見ているな。おれに勝てるつもりでいるのか。」などと言い、その腹部等を足げにしたり、足で踏み付けたりし、さらに、腹部にひざをぶつける(右ひざを曲げて、ひざ頭を落とすという態様であった。)などの暴行を加えた(第2暴行)。
甲は、第2暴行により、肋骨骨折、脾臓挫滅、腸間膜挫滅等の傷害を負った。
甲は、Aプラザから付近の病院へ救急車で搬送されたものの、6時間余り後に、頭部打撲による頭蓋骨骨折に伴うクモ膜下出血によって死亡したが、この死因となる傷害は第1暴行によって生じたものであった。
第1審判決は、被告人は、自己の身体を防衛するため、防衛の意思をもって、防衛の程度を超え、甲に対し第1暴行と第2暴行を加え、同人に頭蓋骨骨折、腸間膜挫滅等の傷害を負わせ、搬送先の病院で同傷害に基づく外傷性クモ膜下出血により同人を死亡させたものであり、両暴行を1個の過剰防衛として、傷害致死罪が成立するとし、被告人に対し懲役3年6月の刑を言い渡した。
これに対し、被告人が控訴を申し立てたところ、原判決は、被告人の第1暴行については正当防衛が成立するが、第2暴行については、甲の侵害は明らかに終了している上、防衛の意思も認められず、正当防衛ないし過剰防衛が成立する余地はないから、被告人は第2暴行によって生じた傷害の限度で責任を負うべきであるとして、第1審判決を事実誤認及び法令適用の誤りにより破棄した。
そして、被告人は、正当防衛行為により転倒して後頭部を地面に打ち付け、動かなくなった甲に対し、その腹部等を足げにしたり、足で踏み付けたりし、さらに、腹部にひざをぶつけるなどの暴行を加えて、肋骨骨折、脾臓挫滅、腸間膜挫滅等の傷害を負わせたものであり、傷害罪が成立するとし、被告人に対し懲役2年6月の刑を言い渡した。
弁護人は、第1暴行と第2暴行は、分断せず一体のものとして評価すべきであって、前者について正当防衛が成立する以上,全体につき正当防衛を認めて無罪とすべきであると主張し上告。
最高裁の判断詳細
第1暴行により転倒した甲が、被告人に対し更なる侵害行為に出る可能性はなかったのであり、被告人は、そのことを 認識した上で、専ら攻撃の意思に基づいて第2暴行に及んでいるのであるから、第2暴行が正当防衛の要件を満たさないことは明らかであある。
そして、両暴行は、時間的、場所的には連続しているものの、甲による侵害の継続性及び被告人の防衛の意思の有無という点で、明らかに性質を異にし、被告人が前記発言をした上で抵抗不能の状態にある甲に対して相当に激しい態様の第2暴行に及んでいることにもかんがみると、その間には断絶があるというべきであって、急迫不正の侵害に対して反撃を継続するうちに、その反撃が量的に過剰になったものとは認められない。
そ うすると、両暴行を全体的に考察して、1個の過剰防衛の成立を認めるのは相当でなく、正当防衛に当たる第1暴行については、罪に問うことはできないが、第2暴行については、正当防衛はもとより過剰防衛を論ずる余地もないのであって、これにより甲に負わせた傷害につき、被告人は傷害罪の責任を負うというべきである。
以上と同旨の原判断は正当である。
最決平成21年2月24日~一連一体事例~
最決平成21年2月24日は、被告人が急迫不正の侵害に対する反撃として、単独で評価すれば防衛手段としての相当性が認められる当初の暴行(第一暴行)を加えて暴行から傷害を生じさせた後、急迫不正の侵害が継続している最中にさらに加えた第二暴行について、防衛の程度を超えているとした事案である。
最高裁は、両暴行が一連一体のものであり、同一の防衛の意思に基づく1個の行為と認めることができる本件事実関係の下では、全体的に考察して1個の過剰防衛としての傷害罪の成立を認めるのが相当であるとした。
事案詳細
引用:【帯広刑務所編】修羅場で評論家ではダメだ、ナメられたら正々堂々と戦うしかない《懲役合計21年2カ月》
覚せい剤取締法違反の罪で起訴され、拘置所に勾留されていた被告人が、同拘置所内の居室において、同室の男性(以下「被害者」という。)に対 し、折り畳み机を投げ付け(第一暴行)、その顔面を手けんで数回殴打するなどの暴行(第二暴行)を加えた。
被害者は、加療約3週間を要する左中指腱断裂及び左中指挫創の傷害(以下「本件傷害」という。)を負ったが、これは第一暴行から生じたものであった。
原判決は、第一暴行については、被害者の方から被告人に 向けて同机を押し倒してきたため、被告人はその反撃として同机を押し返したものであり、これには被害者からの急迫不正の侵害に対する防衛手段としての相当性が認められるが、第二暴行、すなわち同机に当たって押し倒され、反撃や抵抗が困難な状態になった被害者に対し、その顔面を手けんで数回殴打した行為は、防衛手段としての相当性の範囲を逸脱したものであるとした。
そして、第1暴行と第2暴行は、被害者による急迫不正の侵害に対し、時間的・場所的に接着してなされた一連一体の行為であるから、両暴行を分断して評価すべきではなく、全体として1個の過剰防衛行為として評価すべきであるとし、過剰防衛 による傷害罪の成立を認めた。
これに対して弁護人は、本件傷害は、違法性のない第1暴行によって生じたものであるか ら、第2暴行が防衛手段としての相当性の範囲を逸脱していたとしても、過剰防衛 による傷害罪が成立する余地はなく、暴行罪が成立するにすぎないと主張し上告した。
最高裁の判断
被告人が被害者に対して加えた暴行は、 急迫不正の侵害に対する一連一体のものであり、同一の防衛の意思に基づく1個の 行為と認めることができるから、全体的に考察して1個の過剰防衛としての傷害罪の成立を認めるのが相当であり、弁護人指摘の点は、有利な情状として考慮すれば足りるとして、上告を棄却した。
2つの判例から見えてくる量的過剰防衛の法理
①最判平成20年6月25日(断絶事例)は、客観的な侵害の継続性がない状態での第二行為について、正当防衛の成立を否定したものである。
また、②最決平成21年2月24日~(連一体事例)は、客観的な侵害状態が弱まっているものの、継続している状態での、一連の防衛行為について、過剰防衛の成立を認めるたものである。
ここからいえることは、複数の防衛行為が存在する場合、
- 防衛行為時に客観的な侵害状態が継続していることが、過剰防衛成立において必要とされており(①②)、
- 過剰防衛が成立する場合、複数行為を一体として評価する(②)
という法理である。
定義
以上の正当防衛の正当化根拠、判例法理からは、量的過剰防衛とは、
と定義できよう。
あとがき
定義っていうのは、様々な事柄の共通項をくくり出すことである。
この定義って、圧縮ファイルのようなものであり、脳の容量をとらないから、記憶に非常に便利。
圧縮するから、試験会場に持ち込めるのである。
だけど、それを展開して「使える」ようにするには、圧縮ファイルそれだけを暗記していてはだめだ。
- 本記事でしたように、そのファイルがないなら、自分で作り上げ、
- 誰かが作ってくれたファイルがあるなら、「そのファイルにはどんな情報が入っているのか」きちんと調べる
労を惜しんではだめだ。
向き合ってよく噛めば、「楽しい」し、「美味い」。
それが、真の実力を涵養する。
参考文献
- 山口厚『刑法』
- 川端博『刑法総論講義』
ここで扱った基本書のレビューはこちら↓
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