おす!かずだ!
さっそく見ていこう!
論点
- 設問1
(1)…利益相反行為の判断、法定代理権の濫用、本人が死亡し無権代理人が相続したときの処理
(2)…93条2項類推適用 - 設問2
(1)…動機の不法、債権譲渡にかかる債務者の抗弁の放棄
(2)…不法原因給付
(3)…委託を受けた保証人の求償権
問題等
答案(改正対応)
第1設問1
1(小問1)
(1) Eの請求の根拠
Eとしては、平成24年2月10日にされた売買契約(555条)に基づいて、A・Dに対して所有権移転登記手続請求を行うことが考えられる。
そこで、Eは、①AE間の契約、②Aの顕名、③Aの代理権の存在を主張する(99条1項)。
すなわち、①は上述のように認められ、また②について、①の際にAはCの代理人であることを明言している。
③については、AはCの親権者であり(818条1項)、財産の管理処分権を有している(824条本文)。
したがって、上記売買の効力はCに帰属し、Cは売主として、甲土地の所有権移転義務を負う。
そして、Cは死亡し、上記義務は相続人であるA、Dに(889条1号、890条)不可分的に帰属する(882条、896条本文、898条、899条)。
よって、Eの主張は認められる。
(2) Eの請求の当否
ア A・Dの反論
(ア)A・Dは本件売買契約は利益相反行為であり無効だと反論することが考えられる(826条1項)。
利益相反行為に該当するか否かは、取引安全の観点から、行為の法的効果を外形から観察したときに、子の不利益において、親権者が利益を受ける行為であるか否かを判断する。
これらを形式的・外形的に判断する。
これがつかめると、他の利益相反の事例においても、あてはめができるようになる。
本件売買契約についてみると、C所有の甲土地がEに売却されてCは所有権を喪失し、不利益となっているが、これによりAが何らかの権利を得たり義務を免れたりすることにはならない。
したがって、行為の外形上、子の不利益において、親権者が利益を受ける行為であるとはいえず、利益相反行為にはあたらない。
よって、この反論は認められない。
(b)次に、A・Dとしては、EはAが借金を抱えており、売買代金によってその返済をしようとしていることを知っているから、権限濫用行為に悪意であるとして、本件売買契約は無効であると主張することが考えられる(107条・113条1項)。
そして、親権者には子の財産に対して広範な裁量が与えられていることから、「自己または第三者の利益を図る目的」か否かは、法が親権者に代理権限を与えた趣旨に著しく反するような行為か否か、子の利益という観点から判断する(820条)。
本件において、Aは自らの遊興を原因とする借金返済のために、Cの土地を売却しており、Cの利益にはならないから、親権が付与された趣旨に著しく反し、代理権の濫用にあたる。
そして、第三者EはCの上記「目的を知っていた」のであるから、107条の要件を充足する。
よって、このA・Dの反論は認められる。
イ Eの再反論
Eとしては、代理権を濫用されCは死亡しA、Dが相続していることから、無権代理人が本人を相続した場合と同様に考えられ、自ら代理権を濫用した親権者は信義則上無効を主張できず、やはり売買は有効であるとの再反論することが考えられる。
この点については、権限濫用者が単独相続した場合、上記構成が妥当であるが、他の相続人が存在する場合、同人にはなんら帰責性なく、保護が図られなければならない。
そこで、かかる場合、追認権は不可分的に相続人全員に帰属しているものとし、他の相続人が売買を有効にするとの追認の意思を表明しない限り、売買は、当然に有効とはならないとすべきである。
本件についてみると、Dは、Eからの甲土地について所有権移転登記手続きの協力の求めを拒絶しているので、Dは追認拒絶すると考えられる。
したがって、Eのこの再反論は成立せず、本件売買は無効である。
ウ 結論
よって、Eの請求は認められない。
2(小問2)
(1) Dの請求とその根拠及び内容
DはFに対し、乙土地共有持分権に基づく妨害排除請求としての建物収去土地明渡請求および乙土地の所有権移転登記の抹消登記手続請求をすると考えられる。
すなわち、Dは、Cの死による相続により、乙土地につき3分の2の共有持分を相続している(896条本文・900条2号)。
また、乙土地売買契約も甲土地と代理権濫用により無効であるところ、Fは占有権限なく乙土地上に丙建物の建築・所有することにより、乙土地を占有している。
そこで、Dは、252条但書の保存行為として、Fに対し上記請求を行う。
(2)Dの請求の当否
これに対して、Fは93条2項類推適用により、Dは「第三者」にあたる自己に対して、売買契約の無効を対抗できないと反論することが考えられる。
これは認められるか。
93条2項は、真正権利者が「真意でないことを知ってした」不実の外形作出の帰責性と、当該外形に対する第三者の「善意」を基礎とした、権利外観法理に基づく規定である。
そこで、①真正権利者が不実の権利帰属の外形を作出または承認し1、②第三者1が、当該外形が真実でないことを知らなかったときは、同条を類推適用すべきである。
本件についてこれをみると、①Aについては、権限濫用によってEに乙土地を売却し、E名義の登記をした不実の外形作出が認められるものの、Dについてはこれに何ら関与せず調査に当たった弁護士の報告までこれをしらなかったのであり、➀が否定される。
したがって、Fの反論は認められない。
よって、Dの上記請求は認められる。
第2 設問2
1 (小問1)
(1) Mの請求
MはEに対して、Hから譲り受けた債権を行使することが考えられる。
そのためには①譲受債権の発生原因として金銭消費貸借、②当該債権の取得原因として債権売買の主張・立証が必要である。
①については、平成26年4月1日、HとEは、契約書により「書面」による金銭消費貸借契約を締結している(587条の2第1項)。
②については、平成26年8月1日、HはEに対して有する債権をMに400万円で売却している。
よって、Mの主張は認められる。
(2)Eの反論
Eは、Hからの借り入れは賭博を目的としてしたものであり、①の消費貸借契約は公序良俗(90条)に反し無効であるところ、これは平成26年8月5日にHからEに差し出された手紙による債権譲渡通知(467条1項)までに譲渡人に対して生じた事由であるとして、対抗すると主張する(469条1項)。
もっとも、金銭消費貸借契約自体は法律行為の内容としては問題なく、このような動機の不法が公序良俗に反するといえるかが問題となる。
動機の不法を考慮しないと、違法行為を有効と認めるのと同様の効果になり、妥当でない。
他方で、動機は相手方が認識していないこともあるから、その信頼保護を考慮する必要がある。
そこで、不法な動機が表示された場合に限り、公序良俗に反することになると解するべきである。
この場合、動機が法律行為の内容となっているので、相手方の信頼を害するとは言えないからである。
動機の錯誤(95条2項)と本質的には同じ問題点である。
本件では、EはHに賭博で金銭を用いることを打ち明けており、不法な動機が表示されているといえる。
したがって、E・H間の金銭消費貸借は公序良俗に反し、無効であるから、Eの主張は認められる。
(3) Mの再反論
Eは債権譲渡について「承諾します」との内容の書面に署名押印し、Hに交付しているので、Mは、468条1項の抗弁を放棄したと再反論することが考えられる。
しかし、抗弁放棄は抗弁の内容を明確に認識しそれが示されていなければならないところ、「承諾します」という文言からは公序良俗違反の無効を問題としない旨の意思は読み取れない。
単に承諾しただけで抗弁が切断されるのは、債務者の予想が困難であり、その効力についての紛争が生じていたからである。
また、仮に放棄の意思があったとしても、賭博行為のような国家・社会秩序違反の契約に対しては、法による助力を否定すべきであるから、いずれにしても抗弁の切断は否定されるべきである。
よって、この再反論は認められず、Mの上記請求は認められない。
2(小問2)
(1)Mの請求
Mは、HのEに対する不当利得返還請求権を譲り受けたと主張し、500万円と遅延損害金の支払をEに対して請求することが考えられる。
上述の通り、HE間の消費貸借契約は無効である。
したがって、同契約によってHからEに交付された500万円は「法律上の原因」のない「利益」であるから、Hは「そのため」に「損失」を被ったといえ、HのEに対する不当利得返還請求権(703条)が基礎づけられる。
また、HはEから、同金銭を賭博で使うものと打ち明けられていたのであるから、Hは公序良俗違反という法律上の原因の不存在について「悪意」である(704条)。
そして、M・H間の債権譲渡契約の解釈として、目的物たる貸金返還請求権が何らかの法定債権に転換した場合には、その法定債権が目的物として移転する内容であると解するべきである。
なぜなら、このように解さないと、Hが法定債権と譲渡契約による利益の二重取りをすることになり、妥当でないからである。
直観だけでなく、その直感を支える論理性を見せろということである。
したがって、Mの主張は認められる。
(2)Eの反論
これに対しEは、Hによる500万円の交付は不法原因給付(708条本文)に該当し、Hはその返還を求めることはできないと反論する。
「不法な原因」について、同条が物の返還を認めないという強い効果を有していることに鑑み、公序良俗違反より狭く、その社会において要求される倫理、道徳を無視した醜悪なもの1と解するべきである。
賭博は国家・社会倫理秩序違反として不法の程度が強く、不法原因給付にあたり、この反論は認められる。
(3)Mの再反論
これに対しMは、「不法な原因が受益者についてのみ存した」(708条但し書き)として、Hはその返還を求めることができると再反論することが考えられる。
「不法な原因が受益者についてのみ存した」かの判断は、給付者の不法と受益者の不法のそれぞれについて、内容・程度を比較衡量して行う1。
給付者たるHは、Eから500万円を賭博で用いると打ち明けられ、知っていた。
さらに、本件金銭消費貸借の内容は、利息15%、及び遅延損害金を21.9%であり、多額の利率が定められている。1
このことからHは、Eの賭博行為という不法に、多額の経済的な対価を得る目的で積極的に加担していたといえ、その不法は受益者たるEと大差はない。
よって、不法な原因は給付者Hにも存したといえ、708条但し書きは適用されず、この再反論は認められない。
以上から、不当利得に基づくMのEに対する請求は認められない。
3.小問(3)
LのEに対しする584万円の請求は、委託を受けた保証人の求償権(459条)を根拠とする。
その請求原因は、①主債務の存在、②委託による保証契約の締結、③保証債務の履行、④保証委託契約を締結していたこと、である。
①②は、平成26年4月15日の書面による金銭消費貸借契約(587条の2第1項)および保証契約により認められる。
③は、平成27年6月29日にLはKに保証債務の履行として、元本、利息、遅延損害金の合計額584万円を支払っており、認められる。
④は、平成26年3月1日、Lは、Eからの保証人になってほしい旨の申し出に合意しており、認められる。
よって、LはEに対する求償権の請求は認められる。
他方、Kは金銭を交付していないのに、元本利息分をゲットしており、2重どりである。
この不均衡の是正は、EからKに対する不当利得返還請求により実現する。
その際のK無資力のリスクを、Eが負担するということである。
以上
参考文献
- 佐久間 毅『民法の基礎 1 総則』
- 潮見 佳男『プラクティス 債権総論』
- 同『基本講義 債権各論Ⅰ』
- 筒井健夫・村松秀樹 編著『一問一答 民法(債権関係)改正』
- 加藤新太郎 編著『要件事実の考え方と実務』
ここで用いた基本書のレビューはこちら↓
歯に衣着せぬ司法試験の基本書レビュー
コメントを残す