オス!かずだ!
本問の論点は、
- 強制処分と任意処分の区別
- 伝聞と非伝聞の区別
である。
単に再現と書直しを掲載しただけでなく、学習する上でつっかかるポイントについて分かりやすく解説している。
本記事を読めば、本問の事例を具体例として、
- 強制処分と任意処分の関係を、ベン図で論理的・視覚的に理解でき、
- 同意があっても強制処分になる場合ってどんな場合なのか百選判例と共に理解でき、
- 本問における犯人甲の詐欺罪該当性の判断過程を図で一発で理解でき(↓画像。具体的な内容は本文で説明している)、
- 伝聞と非伝聞の区別が完全に理解でき、試験委員の誤りとレベルの低さを肌で感じる
ことができる。
本記事は、俺の再現答案と、それに対する友達の東大ロー卒合格者の指摘を踏まえたツッコミ、そのツッコミとA答案1・出題趣旨・採点実感を踏まえた書直答案で構成される。
この合間合間に、上記ポイントの解説をブッ込んでいく。
なお、参考文献として、以下の基本書を用いた。
- 白取祐司『刑事訴訟法』
- 池田修・前田雅英『刑訴訟法講義』
レビューはこちら↓
では、さっそく始めよう!
問題等
実際に使った問題と答案構成用紙はこちら↓
再現
第1. 〔設問1〕
1. 捜査①について
(1) 結論
捜査①は、適法な任意処分である。
(2) 理由
ア 科学捜査の発達および、刑事訴訟法に定められている強制処分が厳格な手段を定めたことを考慮し、強制処分とは、相手方の明示又は推定的意思に反して、重要な権利利益を制約する処分をいう(197条1項ただし書)。
②は本文の通り書けていたが、①については書いていない。これは、書き直し答案の方で示し、その意義について少し深堀り考察する
イ 確かに、捜査①は甲の承諾を得ずに、甲の「みだりに容ぼうを撮影されない権利」(憲法13条)を制約していて、甲の意思を制圧している。
ウ しかし、約20秒と短時間であり、甲がA工務店を出て、プライバシーの要保護性が高いとはいえない公道へ出たところを撮影しており、「重要な」権利の制約とは言えない。
エ もっとも、任意処分といえども、捜査比例の原則により制約を受ける(197条1項本文)。
したがって、任意処分も、必要性を考慮し具体的状況のもとで相当とされる限度で許される。
オ A工務店の全面の腰高窓にはブラインドカーテンが下ろされていて、両隣には建物が接しているため、公道からは同事務所を見ることができなかった。
したがって、A工務店に出入りする中肉中背の男が甲であるのか確認するためには、男が同事務所から出る際にビデオカメラでその容貌を撮影する必要があった。
上記記述では、具体性に欠ける
カ そして、約20秒と短時間であり、公道での撮影である。
したがって、相当といえる。
(3) よって、①は任意処分で適法である。
2. 捜査②について
(1) 結論
捜査②は検証であり強制処分である。
そして、検証令状がない以上、強制処分法定主義・令状主義(憲法35条・218条1項)に違反し違法である。
そして、本文の通り、検証の場合の「法律」とは上述した218条1項であり、これは憲法上35条の令状主義の要請でもあるから1、強制処分法定主義違反はすなわち令状主義違反となるのである。
(2) 理由
ア Pらは、甲の承諾を得ず撮影しており、甲の意思を制圧している。
イ もっとも、捜査①よりも短い5秒間であり、重要な権利の制約とは言えず、強制処分でないとも考えられる。
しかし、A工務店内というプライバシーの要保護性が高い個人の仕事場の中を、望遠レンズという撮影対象の情報を詳細に獲得できる態様で撮影している。
したがって、プライバシーの制約は、①よりも強いとえるから、重大な権利の制約といえる。
ウ ゆえに、捜査②は強制処分である。
そして、ビデオ撮影は検証といえる。検証には、令状が必要であるが、本件では令状がない。
エ よって、捜査②は強制処分法定主義・令状主義に反して違法である。
第2. 〔設問2〕
1. 本件メモの証拠能力
(1) 伝聞証拠とは、反対尋問を経ていない供述証拠であって、要証事実との関係で内容の真実性が問題となるものをいう(320条1項)
しかし、条文で解決できればそれで済むのであり、趣旨がでてくるのは解釈が必要な場合である。
採点基準が論理性・実務での運用と乖離し、司法試験独自の型になってしまっている
(2) Qは、甲が耐震金具に不具合があるなどとVに申し向け、Vを欺罔した事実を立証するために本件メモの証拠調べを請求している。
これは、甲が本当にそのような行為をしたのか、内容の真実性が問題となる。
したがって、伝聞証拠である。
伝聞該当性を判断するには、検察官が主張する立証趣旨を形式的に見るのではなく、それにより何が立証されるのか、実質的な要証事実を自分の頭で考え、見抜かなければはならない。
本問では、検察官は「甲が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」を立証趣旨として提示しており、これは詐欺の犯罪成立要件の1つである、「人を欺いて」すなわち欺罔行為を立証しようとしているものである。
もっとも、本件メモには「A工務店を名乗る男性が訪問してきた。そのとき言われたこと。」としており、「甲」が欺罔行為をしたことまでは立証できず、別ルートにより甲の犯人性が証明される必要がある(ここで、本件領収書が使える)。
そうすると、本件メモの要証事実は、『「A工務店」と名乗る男のVへの欺罔行為』となる。
A工務店と名乗る男(以下「犯人」という)のした欺罔行為は、Vの過去の体験事実であり、Vの知覚・記憶・叙述の真実性が問題となるので、本件メモは供述証拠である。
そして、本件メモは書面として公判廷に退出されようとしており、Vの反対尋問を経ないから、伝聞証拠である。
ところで、採点実感には、「甲の発言の真実性が問題となるとして、再伝聞証拠とする答案も散見された」とある。
そして、この答案作成者に対して、試験委員は「『内容の真実性が問題となる』の意味及び本件メモによる立証の対象を正しく理解したものとはいえない」と苦言を呈している(P9)。
が、採点実感では、なぜ、本件メモは再伝聞ではないのか、理由を明らかにしていない(逃げている)ので、俺達の頭で考えてみよう。
…
…
たしかに、Vのメモの内容には、犯人の発言が含まれており、その真実性が問題となるとも思える。
しかし、犯人の発言は、自らの行為と一体となって、欺罔行為という法的意味を獲得するものであり、非伝聞の一種の、行為の言語的部分である。
したがって、犯人の発言は、同人の過去の体験事実に関するものではなく、知覚・記憶・叙述の過程が問題とならない。
だから、非供述証拠・非伝聞であり、Vのメモは、再伝聞とはならないのである。
このように、伝聞と非伝聞の区別は、実質的な要証事実とその推認過程を自分の頭で考えられるようにならなければ、本当の実力にはならない。
それを↓記事で、今、手に入れよう。
【伝聞と非伝聞の区別を図で完全マスター】「しゃ罪といしゃ料」共謀メモを非伝聞とした東京高裁昭和58年1月27日に不同意を突きつけよう!
(3) では、伝聞例外に該当するか。Vは「被告人以外の者」であり、321条1項3号該当性が問題となる。
(4) まず、本件メモは、「被告人が作成した供述書」であり、押印不要である。
(5)Vは、脳梗塞で意識が回復する見込みはないので、「身体の故障」によって「公判準備または公判期日において供述することができない」といえる。
(6)また、Vの他、犯人を直接目撃した者はいないので、Vの供述は、「犯罪事実の証明に欠くことができないとき」にあたる。
(7)「特に信用すべき状況の下にされた」かについて、本件メモ記載時は、WというVの身内が見ていただけである。
つまり利害関係のない第三者でないから、これは満たさない。
したがって、本件メモの証拠能力はない。
2. 本件領収書の証拠能力
(1) 甲の100万円授受(被害者の財産処分行為)を立証するという使用方法
ア 当該事実は甲の過去の体験事実であり、本当に甲が100万円を受領したのか、内容の真実性が問題となる。
したがって、伝聞証拠である。
イ では、伝聞例外に当たるか。
323条2号「業務の通常の過程において作成された書面」該当性が問題となる。
ウ 同条の趣旨は、業務の通常の過程において作成された書面は、反復継続、機械的に作成されるものであり、真実性の状況的信用がある、という点にある。
したがって、反復・継続性がない場合には、本条は適用されない。
エ 本件は、1回だけの詐欺行為が問題となっており、反復・継続性がない。
オ よって、同条に該当せず、証拠能力は認められない。
(2) 甲の犯人性を立証するという使用方法
甲が100万円を領収したという内容の領収書があること自体が、甲が100万円を領収した犯人であるという要証事実を支える間接事実の1つとなる。これは、内容の真実性が問題とならず、非伝聞であり、証拠能力が認めれらる。
以上
本件領収書についての検察官の立証趣旨は、「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」であり、詐欺の成立要件の一つの「財物交付」すなわち本問ではVの甲への100万円交付が要証事実であることは容易にわかるだろう。
もっとも、Vの甲への財物交付を立証できても、上述したようにVのメモから立証できるのは「A工務店と名乗る男」のした欺罔行為であり、それが「甲」であると立証しなければ、甲に詐欺罪を成立させることはできない。
そのため、上図のように、Vの「甲」への100万円交付を間接事実としても使用し、問題文で示された他の事実をも勘案して、甲の犯人性を基礎づける必要がある。
- Vは、Pに「犯人は『A工務店』と書かれたステッカーが貼られた赤い工具箱を持っていた」と語っており2 、
- 当該工具箱は甲によってA工務店に運び込まれ、机の上にあった。
- そして、A工務店には甲の他に従業員はいない。
- Vが「甲」へ工事代金として100万円を交付した
これらの事実を総合的に勘案すれば、Vを欺罔した「犯人」は甲であることが推認できる。
しかし、このような犯人性の論点について、採点実感ではなんら触れられていない。
採点実感では、本件領収書の「財物交付」の立証以外の使用方法として、
一定の記載のある本件領収書が甲によって作成された事実と,甲からVへ当該領収書が交付された事実を併せ考慮することで,記載内容の真実性とは独立に,現金授受の事実を推認する場合を想定する必要がある
引用:採点実感10頁。太線はかずが付した
として、あくまで「財物交付」に向けた異なる使用方法としている。
これでは、甲の犯人性が宙に浮いたままであり、甲に詐欺罪を成立させることはできない。
そればかりか、要証事実であるVによる甲への財物交付は甲の過去の体験事実であり、甲の知覚・記憶・叙述の過程があるから、採点実感がいう「一定の記載」の内容について真実性が問題となる。
したがって、本件領収書は、どうあがいても伝聞である。
これを非供述証拠的に使うのは、
- 試験委員が求めている「要証事実との関係を考慮する」ことが自分でできていないことを示すものであり、
- そればかりか、伝聞法則の潜脱であって、彼らが扱う実務において被告人の権利が非常にヤバイ!
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はっきりいうが、試験委員はバカであり、人を採点する資格はない。
もっとも、俺も「犯人性」を立証するとしながら非伝聞としており、人のことはいえない。
だが、試験という限られた時間における、極限の緊張下での思考・表現であり、じっくり考える余裕があった試験委員の状況とは異なる。
より大事なのは、俺は、受験資格ラストの司法試験サボってでも上記記事に取組み、疑問に正面から向き合って、確実に前に進んでることだ。
試験委員や、彼らの書いた採点実感を鵜呑みにするロボット法曹は、今も、目が開いていない。
書き直し答案
第1. 〔設問1〕
1. 捜査①について
(1) 捜査①は、ビデオカメラで甲の様子を撮影したものであり、人について五感の作用によりその姿態を認識するものであるから、「検証」(218条1項)に当たるのではないか。
同捜査は令状なしに行われているところ、検証であれば、強制処分法定主義・令状主義(憲法35条)に違反し違法となることから問題となる。
しかし、検証の定義と捜査①が性質上検証であることは述べられておらず、抽象的な問題提起である。
問題提起とは、わかっているところからわからないところまで、論理を展開していくことである。
(2) 科学捜査の発達および、刑事訴訟法に定められている強制処分が厳格な手段を定めたことを考慮し、強制処分とは、相手方の明示又は推定的意思に反して、重要な権利利益を制約する処分をいう(197条1項ただし書)。
強制処分の定義として、判例も俺が採っている法益侵害説も、重要な権利利益を制約することだけでなく、個人の意思(推定的意思も含む)を制圧することも求めている。
なぜだろうか。
それは、重要な法益であっても、個人の真摯な承諾・同意によって、それを処分できる領域があることを認めるうるからである。
もっとも、重要な法益への制約がある場合、一般に意思に反することがほとんどであろうから、意思に反しないことの証明責任は、訴追側が負うべきである。
また、重要な法益の中には、個人の意思では処分できないような高度な重要性の領域を認めるべきであり、それに該当した場合、たとえ承諾が認められたとしても、強制処分とすべきである。
これは、被疑者を任意で警察署まで同行させ、同意を得て警察署に留め置く、「承諾留置」が違法とされる根拠である。
下級審判例に、被疑者の同意を得て、3晩に渡って用意したホテルに宿泊させ、連日取調べを行った事案について、「実質的には逮捕と同視すべき状況下にあった」として、引き続く逮捕・勾留を違法としたものがある(東京地裁決定昭和55年8月13日)。
有名なグリーンマンション事件(最決昭和59年2月29日)も、最高裁は被告人から事情を聴取する必要性から任意捜査として適法としているが、自身が「必ずしも妥当なものであったとは言い難い」としているうえに、逃走や罪証隠滅防止のために逮捕・勾留が認められていることからすれば、任意に名を借りた脱法的身体拘束というべきであって、問題であると思われる。
「みだりに容ぼうを撮影されない権利」はプライバシー権として憲法13条により保障されているところ、甲の同意なくビデオカメラで甲の姿態を撮影した捜査①は、同権利と同人の推定的意思を制圧している。
しかし、約20秒と短時間であり、また、甲がA工務店を出て、公道へ出たところを撮影している。
公道は社会生活を営む場であり、多くの人の目に触れることが前提となっている場であるから、プライバシーの要保護性が高いとはいえない。
したがって、捜査①は「重要な」権利の制約とは言えず、強制処分に該当しない。
(3)もっとも、任意処分といえども、捜査比例の原則により制約を受ける(197条1項本文)。
したがって、任意処分も、必要性を考慮し具体的状況のもとで相当とされる限度で許される。
本件では、犯人の顔をVしか見ておらず、犯人の姿態を撮影して、Vに面通しを行い、犯人と甲の同一性を確認する必要があった。
そして、ビデオカメラでの撮影は、写真と異なり動画の形で様々な角度から甲の姿態を確認できるのであり、上記面通しを実効性あるものにするための必要性が認められる。
また、捜査①は甲の姿態以外が映らないように同人が玄関を閉めた時点から撮影を開始するように配慮しており1、映像は全体で20秒と短時間にすぎないことから、上記必要性と均衡する相当性が認められる。
(4) よって、①は任意処分として、適法である。
2. 捜査②について
(1) 捜査②は、捜査①と同様に、ビデオカメラでの撮影であり、検証として、強制処分法定主義・令状主義に反し違法なのではないか。
(2) 上記のように、「みだりにその容貌を撮影されない権利」がプライバシー権として憲法13条により認められるところ、自己の管理する建物内は社会生活から隔絶された不動のプライバシー領域であり、通常それが公衆の目にされされることはないことから、容貌よりも重要性あるプライバシー権として、「自己の管理する建物内をみだりに撮影されない権利」が認められるべきである。
そして、Pらは、甲の承諾を得ず事務所内を撮影しており、甲の上記権利を同意なく制約するものであるから、同人の推定的意思を制圧しているといえる。
もっとも、捜査①よりも短い5秒間であり、重要な権利の制約とは言えず、強制処分でないとも考えられる。
しかし、上記のように自己の管理する建物内A工務店内というプライバシーの要保護性が高い個人の仕事場の中を、望遠レンズという撮影対象の情報を詳細に獲得できる態様で撮影している。
したがって、プライバシーの制約は、①よりも強いとえるから、重大な権利の制約といえる。
ゆえに、捜査②は強制処分であり、その性質は検証である。
(3) よって、検証令状なく捜査②は強制処分法定主義・令状主義に反して違法である。
第2. 〔設問2〕
1. 本件メモの証拠能力
(1) 伝聞と非伝聞の区別
伝聞証拠とは、反対尋問を経ていない供述証拠である。
そして、供述証拠とは、要証事実との関係で内容の真実性が問題となるものをいう。
供述証拠は、供述者の知覚・記憶・叙述の各過程に誤りがないか反対尋問によりテストする必要があることから、原則として証拠能力が認められていない(320条1項)。
上記内容の真実性は、検察官が主張する立証趣旨を形式的に見るのではなく、それにより何が立証されるのか、実質的な要証事実を検討する。
本問では、検察官Qは「甲が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」を立証趣旨として提示しており、これは詐欺の犯罪成立要件の1つである、「人を欺いて」すなわち欺罔行為を立証しようとしているものである。
もっとも、本件メモには「A工務店を名乗る男性が訪問してきた。そのとき言われたこと」としており、「甲」が欺罔行為をしたことまでは立証できず、別ルートにより甲の犯人性が証明される必要がある(本件領収書を用いる。後述する)。
そうすると、本件メモの要証事実は、『「A工務店」と名乗る男のVへの欺罔行為』となる。
A工務店と名乗る男(以下「犯人」という)のした欺罔行為は、Vの過去の体験事実であり、Vの知覚・記憶・叙述の真実性が問題となるので、本件メモは供述証拠である。
そして、本件メモは書面として公判廷に退出されようとしており、Vの反対尋問を経ないから、伝聞証拠である。
なお、本件メモ内の犯人の発言は、伝聞証拠とはならない(全体として再伝聞とはならない)。
なぜなら、当該発言は、犯人自らの行為と一体となって欺罔行為という法的意味を獲得するものであり、知覚・記憶・叙述の過程を伴った過去の体験事実に関するものではない。
すなわち、非伝聞の一種の、行為の言語的部分であるからである。
(2)伝聞例外該当性
上述のように、本件メモはVの供述内容の真実性が問題となる伝聞証拠である。
では、伝聞例外に該当するか。
Vは「被告人以外の者」であり、321条1項3号該当性が問題となる。
本件メモは、Vの「供述書」(同条柱書)であり、二重の伝聞性はないから、押印不要である。
そこで、その他の要件を検討する。
すなわち、①供述不能、②不可欠性、③特信情況である。
①供述不能
Vは、脳梗塞で意識が回復する見込みはないので、「身体の故障」によって「公判準備または公判期日において供述することができない」といえる。
②不可欠性
「犯罪事実の証明に欠くことができないとき」とは、当該証拠を採用するか否かにより、犯罪事実又は量刑事実の認定に著しい差異・影響を生じさせる可能性がある場合をいう。
本件では、Vの他、犯人及び犯行(欺罔行為)を直接目撃した者はおらず、本件メモ内のVの供述は、犯人の欺罔行為を立証する唯一の証拠となっているから、犯罪事実の認定への影響は大であり、「犯罪事実の証明に欠くことができないとき」にあたる。
③特信情況
「特に信用すべき状況の下にされた」かについては、伝聞法則が証拠能力の問題であること、特信情況がその例外の許容性を担保する要件であることから、証拠能力の要件と解するべきである。
したがって、供述の客観的・外形的事情に基づいて判断される必要がある。
本件メモについてこれをみると、たしかに、Vの本件メモ作成時、Wが見ていただけであり、WはVの身内であるから、この点について客観性・外部性は低いともいえる。
しかし、本件メモは犯行当日に作成され記憶の劣化は少ないと思われること(Wの証人尋問で補強可能である)、甲から交付された本件領収書と記載内容(工事代金として100万円交付)が重複していること、Vの手書きであり筆跡鑑定により作成の真正が担保できることを総合衡量すれば、特信情況は認められるといえる。
したがって、本件メモは伝聞であるものの、321条1項3号の要件を満たし、証拠能力が認められる。
2. 本件領収書の証拠能力
(1) 甲の100万円授受(被害者の財産処分行為)を立証するという使用方法
(ア) 伝聞と非伝聞の区別
当該事実は甲の過去の体験事実であり、本当に甲が100万円を受領したのか、内容の真実性が問題となる。
したがって、伝聞証拠である。
(イ)伝聞例外該当性
では、伝聞例外に当たるか。
甲は被告人であるから、322条1項を検討する。
まず、本件領収書は甲の「供述書」であるから、署名押印は問題とならない。
その他の要件は、①「不利益な事実の承認」であり、かつ319条の任意性が担保されていること(但書)、②または特信情況である。
まず、①を検討する。
「不利益な事実の承認」といえるかについて、本件領収書の内容は詐欺における「財物交付」にあたる事実であり、甲にとって不利益な事実の承認にあたる。
任意性について、319条は、供述採取過程における人権保障を貫徹するための証拠能力についての規定であり、広く適正手続を担保する趣旨の規定と解すべきである(違法排除説)。
したがって、同条の強制、拷問等は例示であり、不任意を含め適正手続に違反したといえる供述の証拠能力は否定される。
本件領収書についてみると、甲は同書面を捜査官による取調において作成したわけではなく、またその他の者の関与もなく、自らの意思で作成しVに交付されたものである。
したがって、強制・拷問等の319条列挙事由は問題とならず、また不任意ともいえないから、同条の要件を満たし、証拠能力が認められる。
(2) 甲の犯人性を立証するという使用方法
(ア) 伝聞と非伝聞の区別
Vの甲への財物交付を立証できても、上述したようにVのメモから立証できるのは「A工務店と名乗る男」のした欺罔行為であり、それが「甲」であると立証しなければ、甲に詐欺罪を成立させることはできない。
そのため、Vの「甲」への100万円交付を間接事実としても使用し、他の事実をも勘案して、甲の犯人性を基礎づける必要がある。
すなわち、VはPに「犯人は『A工務店』と書かれたステッカーが貼られた赤い工具箱を持っていた」と語っていること、当該工具箱は甲によってA工務店に運び込まれ机の上にあったこと、A工務店には甲の他に従業員はいないこと、そして、Vが甲へ工事代金として100万円を交付したこと、これらの事実を総合的に勘案すれば、Vを欺罔した「犯人」は甲であることが推認できる。
このように本件領収書を甲の犯人性を立証するための証拠として使用する場合であっても、要証事実はVによる甲への財物交付に変わりなく、これは甲の知覚・記憶・叙述の過程を伴った過去の体験事実であるから、その内容の真実性が問題となる。
したがって、本件領収書は、供述証拠であり、反対尋問を経ていない以上、伝聞証拠である。
(イ)伝聞例外該当性
(1)と同様に、322条1項該当性が問題となり、これは認められるから、本件領収書の証拠能力は認められる。
それが、真実発見への際限のない過熱に歯止めをけけ、後々の事案の人権擁護に繋がる(1条)。
以上
あとがき
5年最終打席の司法試験をサボってじっくり検討したことで、伝聞の理解を確実なものにでき、また試験委員のレベルの低さがはっきりわかった。
- 条文で済むところで趣旨を論じさせたり、
- 犯罪の成立要件を落していたり、
- 非伝聞の理解を誤っていたり…
現行司法試験は、「実務における素養」と試すものでなく、「試験に受かる素養」を試すものとなっている。
だから、法曹の質の低下を招いているのである。
合格後は、ロー卒の法曹として、法科大学院制度の意義を明らかにし、法曹養成制度についてメスを入れる必要がある。
引き続き、自分をたいせつに、ゆっくり歩いていく。
参考文献
- 白取祐司『刑事訴訟法』
- 池田修・前田雅英『刑訴訟法講義』
この記事で使った基本書のレビューはこちら↓
お疲れ様です。
いつも読んでいます。
司法試験は失権されたのでしょうか?
来年受けるなら頑張ってください。
マスさん、温かい応援のお言葉、そしていつもブログを読んでくださり、誠にありがとうございます。
ローの受験資格は失権しましたが、また取って挑むつもりです。
色々考えているところですので、またご報告します。
引き続き、ゆっくりじっくり実力を養成しつつ、有益な情報を発信していきますので、これからもどうぞよろしくお願いします。
久しぶりに拝見しましたが、司法試験は断念されたとお見受けします。
人それぞれの道があるかと思います。頑張ってください。
度々のお優しい言葉をありがとうございます。
法律を学んで鍛えた力は一生役立つものですので、これを武器に明るい未来を切り拓いていきます。