平成30年本試験再現・書直し(商法)【オマケ:取締役の義務の本質+任務懈怠と過失との関係】

オス!かずだ!

本問の論点は、

  • 会計帳簿閲覧請求
  • 利益供与該当性の判断とその効果
  • 任務懈怠責任
  • 一般承継人に対する株式売渡請求

である。

本記事の流れは、大きく、

  • 友人の、東大ロー出身合格による再現答案へのツッコミ
  • 上記ツッコミ、出題趣旨・採点実感、A答案1を踏まえて考え抜いた、書き直し答案の紹介

というものである。

かず
かず
「人の振り見て我が振り直せ」、俺の恥ずかしい失敗体験を利用して、糧にしてもらいたい。

また、答案を作成する上でゲットした、

  • 取締役の各種義務に共通する、本質的な考え方
  • 任務懈怠と過失との関係2

についても言及しバッチリ明らかにしているので、この点に疑問を持っている方にも参考になる。

なお、参考文献として、田中 亘『会社法(第3版)』を用いた。

では、さっそく始めよう!

実際に使った問題用紙・構成用紙

再現答案

第1.【設問1】 

1.Dの閲覧請求の根拠は433条1項1号である。

すなわち、Dは,甲社発行済株式総数1000株のうち、300株を有していて、「議決権の100分の3」「発行済み株式の100分の3」を有するから、Aの取締役としての責任の有無を検討するためという「理由を明らかにして」1号に基づいて「会計帳簿またはこれに類する資料」たる直近3期分の総勘定元帳およびその補助簿の閲覧を請求している。 

かず
かず
事実認定の誤り。Dは200株を有している。

2.このような閲覧請求を甲社が拒むには、同条2項2号及び3号の事由を主張する。 

(1)2号

Dは、甲社に対して興味を失っており、Aがリベートを受け取っているかなどは本当はどうでもいいと述べていて、甲社の利益のために上記請求をしたのではない。

そのような請求に甲社が対応しなければならない事態は、「請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ」るものであり、また、「株主の共同の利益を害する目的」であるといえる。 

かず
かず
甲社の利益のために請求したのではないからといって、「業務を妨げ」「株主の共同の利益を害する」と直ちにいえるものではない。

無理筋の主張になって、コスパが悪いことをしていしまっている。

1号を検討すべきであった。

(2)3号

同条は、「請求者」が、「当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営」んでいるときに、閲覧請求を拒める旨規定している。

ここで、Fは、ハンバーガーショップを営む乙社の代表取締役として、乙社を経営している。

甲社もハンバーガーショップを個人で営んでいるところ、Fは当該株式会社と実質的に競争関係にあるといえる。

かず
かず
甲社は関東地方で、乙社は近畿地方でハンバーガーショップを営んでいる。

市場は競合していない

もっとも、請求はDが行っており、Fは「請求者」ではない。
それにも関わらず、3号に基づいて、甲社は閲覧請求を拒めるか。

同条の趣旨は、会計帳簿等の閲覧請求を競争関係にある者に認めると、会社の経営状況を把握され、会社の利益を損なうから、それを避けるという点にある。

そうであるから、請求者が、会社と競争関係にある事業を営んでいる者と事業運営上一体的に活動していると認められる場合には、請求を認めることで会社の利益を損なうおそれが高く、「請求者」と解して良い。

本件についてこれをみると、請求者Dは、甲社と競争関係にある事業を営むFの親であり、身分上密接な関係にあることから、Dが甲社の会計帳簿等を有することになれば、Fがその取得・閲覧を打診することは容易に想像できる。

また、Dが乙経営に関与していないとしても、Dは乙社の発行済株式全部を保有しており、Fと利害関係を共にしているといえる。

以上から、請求者たるDは、会社と競争関係にある事業を営んでいるFと事業運営上一体的に活動していると認められる。

したがって、は「請求者」と解してよい。

かず
かず
Dは請求者であることは疑いない。

Fをここに含めて実質的競争関係か否かを判断するか、という問題である

よって、甲社は3号に基づいて、Dの閲覧請求を拒むことができる。 

第2.【設問2】 

1.(小問1) 

(1)本件決議1

Cとしては、本件決議1が可決される基礎となった本件契約が、356条1項3号の「その他取締役との利益が相反する取引」にあたると主張して、当該契約につき取締役会の承認がない以上(同条柱書・365条1項)831条1項1号の「決議の方法が法令に違反」するから、取り消されるべきであると主張する。

かず
かず
「適法な取締役会の決議を経て」という事実が問題文で示されており、利益相反構成は採れない。

きちんと冷静に事実を読み取り、それを前提として法律構成しなければならない。

出題趣旨・採点実感によれば、利益供与(120条)の検討を求められていた。

まず、本件契約における甲社とGとの連帯保証契約は、Gは「取締役」でない以上、356条1項3号前段の「株式会社が取締役の債務を保証する」には当たらない。

しかし、356条の趣旨は、利益相反状況を回避し会社の利益を保護することにあり、「取締役」の債務を会社が保証することにより、利益相反状況が生じるときは、3号後段の「その他利益が相反する取引」として、同条の規律を及ぼすべきである。

かず
かず
「取締役」でないGを補足するための規範なのに、これでは条文のままである。同号の内容をきちんと理解できていなかった。

本件では、GはAの友人であり、Aの利益の為に行為をすることが予想される。

したがって、Gの債務を甲社が保証することにより、Aの利益に繋がり、それにより甲社の利益が害されるおそれがある。

よって、356条1項3号の規律が妥当し、当該契831条1項1号の法令違反にあたり、Cの本件決議1は取消しの主張は認められる。 

(2)本件決議2

同条の「法令違反」について、315条違反を主張する。

同条は、議長の秩序維持、議事整理をする権限につき規定している。

他方、314条は取締役の説明義務について規定していて、株主の議決権行使に際し有益な情報を提供するよう要求している。

この規定を踏まえると、315条の趣旨は、株主への情報提供の必要性と議事運営の迅速性との調和を図る点にあると考えられる。

そこで、株主の議決権行使にあたり重要な事項についての説明は、議長の上記権限の行使によっても妨げられないと考える。

本件では、議長であるAは,Cが提案したAの不正なリベートについて説明を議案とは関係ないとして、これを制止し、直ちに裁決に入った。

Aを解任するか否かを決するにあたり、Aが不正なリベートを得ていたかはAが会社に対する忠実義務(355条)を果たしたが否かを判断する上で重要な事柄であり、これを制止した行為は同条に違反する。

よって、Aに315条違反が認められ、法令違反として、決議2の取消しは認められる 

かず
かず
否決決議につき、取消によって新たな法律関係が生じるわけでないから、不適法として却下されるとするのが判例3である

2.(小問2) 

(1)Aに対して

Cは、847条の株主代表訴訟において、Aの423条に基づく任務懈怠責任を追及する。 
423条3項1号は、356条1項の取引によって会社に損害が生じた場合、当該取引をした取締役に任務懈怠を推定している

かず
かず
利益相反構成ができない以上、423条3項1号は使えない。

Cは、単純に423条1項により、法令違反・善管注意義務違反を追求することで、甲社が保証債務の履行として丙銀行に弁済した800万円の支払い義務の有無について論じることになる。

Aは、上記のように356条1項3号法令違反が認められ、これにより甲社は丙銀行に800万円の保証債務を履行しているから、損害が生じている。

したがって、Aの任務懈怠は推定される。

よって、Cの上記責任追及は認められる。 

かず
かず
120条4項の、利益供与に関与した取締役の連帯責任についても論じる必要がある。

これはGの120条3項の責任を前提とするから、Gに対する責任を先に検討する必要がある。

(2)Gに対して

423条は取締役等の「役員等」に対する責任追及規定であり、Gはこれに当たらない。

しかし、上記のように友人関係であるAとGは利害状況を共にしており、一体として考えることができる。

したがって、Gは「役員等」に含めて差し支えない

かず
かず
利益供与について思いつかなかったから致し方ないとはいえ、ムリな構成であった

そして、Gの債務不履行により、甲社に損害が生じ、その間に因果関係がある以上、Gも同条1項の任務懈怠責任を負う。そして、AとGの責任は、連帯債務となる(430条) 

第3.【設問3】 

1.結論

176条に基づくCからの株式売渡請求に対し、Bは売渡請求を決定した株主総会決議(175条)が決議の方法の法令違反にあたるため、取り消されるべきであると反論する(831条1項1号)。

かず
かず
決議の方法は、決議のプロセスの話であり、無関係である。

法令違反に基づく決議内容の瑕疵(830条2項)を問題とすべきであった。

そして、以下のように、この反論は認められる。 

2.理由 

(1)174条の趣旨に反する売渡請求であるとの主張

同条の趣旨は、一般承継による株式の移転が、閉鎖性を維持したい会社の意思に反して行われることに鑑み、会社の意思を尊重することにある。

そこで、閉鎖性維持と関係のない売渡請求は、同条に反し、その決定は法令違反を構成する。

本件では、Cは自らが代表取締役の地位にとどまりたいというもっぱら個人的な理由で売渡請求をしたのであり、会社の閉鎖性以上とは関係がない。

かず
かず
事実が足りない。事実で説得するのが法的スキルである

したがって、同条に違反し、法令違反を構成する。よって、同条に基づく株主総会取消の訴えは認められる。 

(2)上記決議をBを除いて行ったことが法令に違反するとの主張

Gとしては、上記決議をBを除いて行ったことが、309条1項に違反する旨主張することが考えられる。

しかし、Bは特別利害関係取締役であり(831条1項3号参照)、この主張は認められない。

かず
かず
「B」の主張を考えよという問題である。

また、175条2項本文・同条1項2号により、Bは議決権を行使できない。

特別利害関係を問題にすべきであったのは、Cである

以上 

(評価:F)

出題趣旨・採点実感の検討

出題趣旨・採点実感の中で、ポイントとなると思われるところを紹介する。

出題趣旨

採点実感

  • 採点実感3「法科大学院に求められるもの」1段落目において、会計帳簿閲覧請求の拒絶事由について言及している箇所があり、そこで、「当該請求の要件等に簡潔に言及することが求められる」とある。
    →答案を見てもらった東大ロー卒の友人は、「条文の文言は引用しなくていい」と言っていたが、法律効果とは法律要件にすべて該当しているときに発生するものである。
    したがって、ある要件のポイントのみに言及するのではなく、要件全てを冒頭で提示して、検討する必要がある。

  • 同頁2段落目利益供与について言及している箇所において、「意識や代表的な判例の存在を前提にして論ずるという意識を身に付けさせることが重要であろう。」とある。
    →たしかに、判例知識は重要であるが、そんなもの実務に出れば、判例集やインターネットで簡単に調べられるのである。
    そんな判例知識の暗記力を試すよりも、判例の判断枠組みを提示するなどしたうえ、判例を踏まえてどう解釈し、どう事案にあてはめるかを見るのが、これから活躍する法曹かを見極めるうえで重要である。
    この点については、あとがきでまた述べる。

書直し答案

第1.【設問1】 

1.Dの閲覧請求の根拠は433条1項1号である。

すなわち、Dは,甲社発行済株式総数1000株のうち、200株を有していて、「議決権の100分の3」「発行済み株式の100分の3」を有するから、Aの取締役としての責任の有無を検討するためという「理由を明らかにして」1号に基づいて「会計帳簿またはこれに類する資料」たる直近3期分の総勘定元帳およびその補助簿の閲覧を請求している。 

2.このような閲覧請求を甲社が拒むには、同条2項2号及び3号の事由を主張する。 

(1)1号

同号は、「請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき」に閲覧請求を拒める旨規定している。

たしかに、Dは当初、Aが取引先からリベートを受け取っている疑いがあるので、Aの取締役としての損害賠償責任の有無を検討するために必要であるとの理由を説明しているから、423条1項・847条に基づく責任追及という権利の行使に関する調査のための目的で請求を行ったとも考えられる。

かず
かず
反対事実も拾う!

しかし、Dは、甲社に対して興味を失っており、Aがリベートを受け取っているかなどは本当はどうでもいいと述べている。

そして、Dは、甲社に見切りをつけており、自己の有する甲社株式を売却することを考えており、C・Aに買取を求めている。

したがって、Dは、Aに対する権利の行使のために上記請求をおこなったものではなく、株式買取の手段として行ったものといえる。

よって、1号該当事由が認められる。 

(2)3号

同号は、「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営」んでいるときに、閲覧請求を拒める旨規定している。

同号の趣旨は、会計帳簿等の閲覧請求を競争関係にある者に認めると、会社の経営状況を把握され、会社の利益を損なうから、それを避けるという点にある。

そうであれば、「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営」んでいるか否かの判断にあたっては、①「請求者」について、同人と一体的な関係にあるといえる者も考慮に入れたうえ、②請求者と株式会社の業務がその内容・市場において、競業関係にあるといえるかを判断すべきである。

上記規範の根拠判例

百選判例である最決平成21年1月15日は、請求者が閲覧請求により得た情報を競業に利用する主観的意図は要しないとする。

これは、競業の客観的事実だけで拒絶事由としては十分である、との判断に基づくものである。

また、東京地裁平成19年9月20日(楽天対TBS会計帳簿閲覧請求事件)は、

この判断においては、

  • 請求者と一体的に事業を営んでいる者4を考慮にいれること、
  • このような一体的な関係にある者の事業内容を検討する

という判断枠組みを示している。

これを本件についてみると、①請求者Dの子Fは、ハンバーガーショップを営む乙社の代表取締役として乙社を経営しており、またDは乙社の経営に関与していないものの、乙社の発行済株式のすべてを保有しているから、DとFは親族関係・乙社への関与の点で、一体とみることができる。

そして、甲社もハンバーガーショップを営んでいおり、D・Fは一体として甲社と実質的に競争関係にあるとも考えられる。

しかし、②乙社と甲社はハンバーガーショップを営むという点で業務内容が共通しているものの、乙社は近畿地方において、甲社は関東地方において業務を営んでおり、市場が異なる

したがって、乙社と甲社は実質的に競業関係にない。

よって、「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営」んでいるとはいえず、3号該当事由は認められない。

3 以上から、甲社は433条2項1号に基づいて、Dの閲覧請求を拒むことができる。 

第2.【設問2】 

1.(小問1) 

(1)本件決議1

Cとしては、本件決議1が可決される基礎となった本件契約が、120条1項の利益供与あたると主張して、831条1項1号の「決議の方法が法令に違反」するから、取り消されるべきであると主張する。

本件契約は、その(1)において、D保有株式をGに譲渡することを内容としており、また(2)において甲社がGの丙に対する債務を無償で負担することを内容としているところ、これが120条の「株主の権利の行使に関し財産上の利益の供与」にあたるかが問題となる。

この点について、株式の譲渡は株主としての権利の移転であり、会社がこれに対して何らかの利益を供与したとしても、当然には「株主の権利の行使に関し利益の供与」にあたらない。

しかし、120条の趣旨は、企業経営の健全性を確保するとともに、会社財産の浪費を防止することにあるのである。

そうであれば、①会社から見て好ましくないと判断される株主が株主権を行使することを回避することを目的で、②当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為を防止することは、上記趣旨に適合するのであり、「株主の権利の行使に関し利益の供与」にあたると解するべきである5

本件についてみると、①Aは、Cを取締役から解任する議案について、Dが反対し否決されることを恐れていたのであり、Dは「A」から見て好ましくないと判断される株主にあたる。

そして、本件契約では(3)において、D保有株についてAを代理人として議決権の行使に関する権限をAに委任する旨の条項があり、これによりDが反対票を投じることを防ぐことができるから、本件契約を締結した「A」は、Dが議決権(105条1項3号)という株主権を行使することを回避する目的を有していたといえる。

そして、本件契約は甲社における適法な取締役会決議を経ており、同目的は「甲社」が有していたものといえ、①を満たす。

では、本件契約は、②当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為といえるか。

本件契約(1)によって、D保有株式がGに譲渡されることは、自己保有株式の買い取りを望んでいたDの要望を満たすものであり、これが本件契約(3)、そして上記①で述べたA・甲社の目的を実現するための対価としての意味を有している。

そして、本件契約(2)における保証料の支払いなく行われた、Gが丙銀行に対して負う債務を連帯保証する旨の契約は、上記本件契約(1)の譲渡を実現するための対価を、甲社のリスク負担でGに供与するためのものであり、②も満たす。

したがって、本件契約は120条1項が禁止する利益の供与にあたり、それによりAがD代理人として議決権を行使し、本件決議1を可決させたことは、831条1項1号の「決議の方法が法令に違反」にあたる。

よって、Cは本件決議1の取消しの訴えについて、上記主張をすることが考えられ、これは認められる。

(2)本件決議2

同条の「法令違反」について、315条違反を主張する。

同条は、議長の秩序維持、議事整理をする権限につき規定している。

他方、314条は取締役の説明義務について規定していて、株主の議決権行使に際し有益な情報を提供するよう要求している。

この規定を踏まえると、315条の趣旨は、株主への情報提供の必要性と議事運営の迅速性との調和を図る点にあると考えられる。

そこで、株主の議決権行使にあたり重要な事項についての説明は、議長の上記権限の行使によっても妨げられないと考える。

本件では、議長であるAは,Cが提案したAの不正なリベートについて説明を議案とは関係ないとして、これを制止し、直ちに裁決に入った。

Aを解任するか否かを決するにあたり、Aが不正なリベートを得ていたかはAが会社に対する忠実義務(355条)を果たしたが否かを判断する上で重要な事柄であり、これを制止した行為は同条に違反する。

したがって、Aに315条違反が認められ、「法令違反」として、決議2の取消しは認められるとも考えられる。

しかし、株主総会決議取消訴訟は形成訴訟であるところ(839条)、議案を否決する決議を取り消しても、それにより新たな法律関係が生じることはないから、不適法として却下されると解するべきである。 

このように解しても、CはAにつき取締役解任の訴え(854条)を提起することができ、救済できるので、不都合はない

かず
かず
最判平成28年3月4日が否決決議につき不適法却下とした判断の、実質的理由である。

ある結論を導くには、条文・制度上の形式的な理由と、実質的な利益衡量が根拠となる

よって、本件決議2の取消しの訴えは、不適法として却下される。

2.(小問2) 

(1)Gに対して

Cは、847条の株主代表訴訟において、Gの120条3項に基づく利益の返還責任を追及する。 

その要件は、利益相反該当性であるが、上述のように、本件契約はこれにあたるから、Gは同条の責任を負う。

そして、返還する利益の額は、甲社が受けるべきであった、保証料60万円である。

よって、Cのこの主張は認められ、Gは60万円を甲社に対して支払う義務を負う。

(2)Aに対して

ア 120条4項は、利益供与に関与した取締役の連帯責任を規定している。

そこで、Cは株主代表訴訟において、Aに対して当該責任を追及する。

その要件は、①「当該利益供与に関与した取締役として法務省令で定める者」に当たること、②「注意を怠らなかった」といえないことである。

①について会社法施行規則21条1号は、「利益の供与…に関する職務を行った取締役」と規定しているところ、Aはこれに当たる。

②について、Aは、C解任決議を成立させるという自己の利益を図るため、担保を立てるなどして甲社財産を保護しようと注意することなく、Gの丙銀行に対する債務を保証しているので、株主利益最大化の原則に反し、善管注意義務・忠実義務6、違反(330条・民法644条、355条)が認められる。

したがって、「注意を怠らなかった」とはいえない。

株主利益最大化原則が、取締役の義務の根本

取締役は、株式会社のため忠実に、善良な管理者の注意をもって職務を行うべきであるが、会社は営利を目的とする法人であるから、355条の「会社のため」とは、会社の利益をなるべく大きくすることを意味すると解される。

そして、会社の利益は、剰余金の配当(105条1項1号・453条)や残余財産の分配(105条1項2号・502条)等を通じ、最終的には株主に分配されるものであるから、取締役の義務は、株主の利益をなるべく大きくするように、善良な管理者の注意をもってその職務を行うことにあると解してよい(株主利益最大化の原則)。

もっとも、

  • 会社ないし株主の利益とは、短期的に得られる利益だけでなく、長期的に得られると期待される利益も含む
    →一定の裁量が認められる
  • また、社会の構成員の一部に過ぎない株主の利益の最大化は、他の構成員の利益を含めた社会全体の利益の最大化とは必ずしも一致しない
    →一定の修正が認められる

このような観点から、以下のような取締役の各種義務の具体的内容が、派生して生じる。

  1. 経営判断原則7
  2. 法令順守義務8
  3. 監視義務会社の業務を監督する義務9
  4. 内部統制システム構築義務10
  5. 会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図らない義務11

よって、Cの上記請求は認められ、Aは保証料相当額60万円につき、Gと連帯して返還する義務を負う。

イ Cは、847条の株主代表訴訟において、Aの423条1項に基づく任務懈怠責任を追及する。

その要件は、①取締役の任務懈怠、②会社の損害、③任務懈怠と損害との間の因果関係、④取締役の故意または過失である。

任務懈怠と過失との関係

④は、責任追及を受けた取締役の側で、防御方法、すなわち「故意または過失がなかったこと」として主張・立証する。

もっとも、一般に取締役は、会社に対して結果債務を負うのではなく、手段債務を負う12から、無過失の立証に成功することは、通常考えられない。

手段債務における義務違反(任務懈怠)は、義務内容の確定→その不履行という2段階で行われるものであり、この判断ですでに過失が認定されるからである13

ただし、法令違反については、法令に違反したことをもって、法令順守義務の違反すなわち任務懈怠があったと認められるので、取締役の側で、法令違反について故意または過失がないことを示す事実を主張・立証する意義が生じてくる(二元説)。

法令違反の場合の任務懈怠の要件

(引用:田中亘『会社法(第3版)』290頁

本件では、利益供与という法令違反を問題とするので、要件④の意義が生じるが、主張・反論形式をすると冗長になるので、ここでは「法律要件」と捉え、まとめて検討する。

①取締役の任務懈怠、②会社の損害、③任務懈怠と損害との間の因果関係、④取締役の故意または過失である。

Aは、上記のように120条1項の法令違反が認められ、これにより甲社は丙銀行に800万円の保証債務を履行しているから、同額の損害が生じている(①②③)。

また、上述のようにAがした本件契約は、株主利益最大化の原則に反する行為なので、少なくとも過失が認められる(④)。

よって、Cの423条1項を根拠とする、上記責任追及は認められる。 

第3.【設問3】

1.結論

176条に基づくCからの株式売渡請求に対し、Bは売渡請求を決定した株主総会決議(175条)の決議の内容の法令違反(830条2項)、決議の内容の定款違反(830条1項2号)・特別利害関係人の参加(同条同項3号)にあたるため、当初から無効、または無効となると反論する(839条参照)。

そして、以下のように、この反論は認められる。 

2.理由 

(1)174条に反する売渡請求

同条の趣旨は、一般承継により当該株式会社にとって必ずしも好ましくない者が株主になることに鑑み、それを防ぐことにある。

したがって、当該会社の利益と関係のない売渡請求は、同条に反する。

本件では、Cは自らが代表取締役の地位にとどまりたいというもっぱら個人的な利益を図る理由で売渡請求をしており、甲社の利益とは無関係である。

これは、Cが過半数の議決権を確保するために401株についてのみ売渡請求をすることにし、Bから完全に株主としての地位を奪わなかったことからもわかる。

したがって、本件売渡請求は174条に反する。

(2)本件請求の効力を否定するための法律構成

本件請求は174条に反するため、それを決した臨時株主総会は「決議の内容が法令に違反」するといえる(830条2項)。

また、174条を受けた甲社定款9条の趣旨にも反するため、決議の内容の定款違反にあたり(830条1項2号)、さらにCはもっぱら自己の利益を図る意図で議決権を行使しており、特別利害関係人の参加にもあたる(同条同項3号)。

したがって、本件請求を決した臨時株主総会は、当初から無効であり、またCの取消請求しの訴えにより、遡及的に無効となる。

よって、Bの上記主張は認められる。

以上 

あとがき

一つ一つは、条文・判例の基本的知識を問うものであったり、中には考えさせる問題もあったが、いかんせん検討事項が多すぎる

そのため、俺を含めどの受験生も、せっかくの問題に対して深く切り込んでいけず、せっかくの問題を無駄にしてしまっている。

処理速度の速さなんて、実務では基本書見れるし、判例検索システムですぐに取得できるので、いくらでも補える。

一点突破の点数による選抜が、これからの法曹に必要となる「考える力」をなおざりにしている。

参考文献

  • 田中 亘『会社法(第3版)』
  • 潮見佳男『プラクティス民法 債権総論

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