【中間利息控除の考え方をかんたんマスター】法定利率の引き下げにより、逸失利益は増え、遅延損害金は減るナゾを解き明かす

ごきげんよう!かずだ!

民法改正で、法定利率が5%から3%に引き下げられた(404条1項2項)。

これにより、同じ損害でも、改正民法施行の後(令和2年【2020年】4月1日以後)は、

逸失利益は増え、遅延損害金は減る

ということになる。この意味がわかるだろうか。

これは、改正で新設された、逸失利益の額を定める際の中間利息の控除(417条の2第1項)の理解を問うものである。

また、そもそも、

  • 利息と遅延損害金ってどう違うの?
  • 利息とはもう考えたくない。択一もここ嫌い!

という君、利息とは何ぞやという根本的な理解があれば、利息は得意分野に、いや利息フェチとまで言われるまでになれる。

かず
かず
超文系で数字が苦手な君!利息はちゃんと向き合えば楽しい!俺も利息とか%とか大嫌いだったが、今回の記事書いてて好きになった。

今日は、数字が苦手な君のために、オリジナルの図を用いながら、わかりやすくこのナゾを解いていこう!

法務省ェ…わからん

まず、法務省の、数字が苦手な一般市民に対して不親切な、上記ナゾに対する説明を見てみよう。

まず、中間利息の控除をする理由について。「損害額の算定にあたっては、将来において取得すべき利益を現在価格に換算するため」…

は?

図について。

かず
かず
利率が低くなれば、遅延損害金が減るのはわかる。だが、なんで逸失利益増えるん?

数字細かい、計算めんどい!

※とかもう見たくない!

と、俺の数学に対するアレルギー反応がでて、俺の全身にはジンマシンができたのであった。

しかし、ピンチはチャンス。

こういうとっつきにくい所だからこそ、理解できれば逃げている人と差をつけられる。

それに、わかりやすく説明すればみんなにも有益な情報を提供できる。

細かい計算は、制度の根幹を理解したうえでできるようになればいいのである。

よし。さっそくわかりやすく説明してやらぁ

中間利息(の控除)とは

そもそも損害には、被害者が有している財産を失ったという積極損害1と、被害者が将来得ることができたであろう利益を得られなかったという消極損害2がある。

後者の消極損害を、逸失利益という。

ところで、お金ってうまく運用できれば、利益をあげられるよな。

だから、お金って「もっている」だけで価値があるのであり、「もっている」という価値に対して対価を与えてもいいと思えないか?

民法はそう考える(404条1項)。この元本の使用の対価のことを、利息という。

ここで逸失利益の話に戻るが、将来のある時点になってからはじめて得られるはずの逸失利益について、被害者に一気に取得させると、これを元本とした利息分につき、被害者が得をすることになってしまう(加害者の方から言えば、期限の利益を喪失させられる結果になってしまう)。

だから、改正前の判例では、被害者が不法行為をきっかけとして得をしないようにしようということで、逸失利益の算定において、逸失利益そのもの(元本)から利息を引いくという処理がされていた。

このように逸失利益から引かれる利息のことを、中間利息と呼ぶのである。

これを、新法は417条の2で明文化した。

(中間利息の控除)
第417条の2
1 将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。
2 将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、前項と同様とする。

遅延損害金とは

じゃあ、遅延損害金ってなに?遅延利息ともいうけど、利息と違うん?という疑問に答えよう。

答えから言うが、遅延損害金っていうのは、利息ではない。

遅延損害金とは、 金銭債務について、債務者が履行を遅滞したときに、損害を賠償するために債権者に支払われる金銭をいう(419条1項)。

第419条
1 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

思い出してほしい。

利息っていうのは、元本使用の対価である。つまり、元本があるところに利息が生じるのである。

もっとも、①不法行為の加害者(債務者)って、別に元本をもらっているわけではない(709条)

また、②例えば利子付きで金を貸していて、債務者が返済期日に返済せずに履行遅滞に陥ったときは(412条1項)、そのときから利息は算定されずに遅延損害金がつくことになるが、これは、履行遅滞に陥ったときから債務者の元本の使用対価は利息ではなく、債権者の損害となる、ということを表している。

しかし、①については、被害者(債権者)について、不法行為時から損害分の金銭的な損失が生じており、その金銭的損失を元本として利息を生じさせることができた利益についても損害となるとするのが公平である。

また、②について、債務者の元本の使用による収益が債権者の損害となるとすると、その損害額は元本の使用の収益であり、額としては利息と同じである。

だから、419条1項は、法定利率により上記利益の賠償をする権利を定めたのである。

かず
かず
なお、判例が不法行為の損害にかかる遅延損害金が「期限定めのない債務」であるにもかかわらず(412条3項)、被害者からの請求はなくとも不法行為時から遅滞の責任を負うとしたのは、上記のような理由によると思われる。

さあ、中間利息と遅延損害金の性質がわかったところで、あのナゾについて答えていこう。

法定利率引き下げで、逸失利益は増え、遅延損害金は減るナゾに迫る

簡単な事例に基づき考えよう。

YがXをぶん殴って100万円の損害(治療費や慰謝料等)を発生させた。不法行為である(709条)。そして、Xは脳をちょっとやられて1年入院する羽目になり、その間の100万円の給与分の逸失利益を失うことになる。

XのYに対する不法行為に基づく損害賠償請求がなされ、認容・確定した。

この事例において、不法行為から1年後に、YがXに損害額を支払うときの、損害の額について考える。

下の図見てほしい。

慰謝料等

まず、慰謝料等を見てみよう。ここは改正前後で変わらん。

利息も何もでてこない、いわば元本(の一部)だからだ。

逸失利益

次に、逸失利益を見てほしい。逸失利益は、法定利息相当額を控除して算出するんだったな。

改正前は5%の法定利率である。100万円の5%は5万円だから、100万円から5万を引いて95万。これが逸失利益となる。

改正後は3%が法定利率である。100万円の3%は3万円だから、100万から3万を引いて97万。これが、逸失利益となる。

ここで、改正前より改正後の方が、逸失利益が増えていることがわかるだろう。

遅延損害金

遅延損害金は、慰謝料等と計算後の逸失利益を合算した額に、法定利率(約定利率の方が高い時は約定利率)を乗じて算出する。

改正前は、合算した額である195万に5%を乗じて、9万7500円となる。

改正後は、合算した額である197万円に3%を乗じて、5万9100円となる。

ここで、改正前より改正後の方が、遅延損害金が減っていることがわかるだろう。

※参考:以上の計算方法についての国会審議

あとがき

いかがだっただろうか。

そもそも利息、損害金ってなんなの?っていう根本的なところから、新規定である中間利息控除の意味、計算の仕方の大枠、法定利率引き下げにより各種損害額に変化をきたすことの意味がわかってもらえたのではないだろうか。

かず
かず
ここが利息の幹だ。これがわかれば、忌避しがちな利息関係の枝葉の知識もバンバンついてくるだろう。急がば回れ、理解の上の暗記を心掛けていこう

今回の記事は、潮見佳男先生の基本書によるところが多かった。利息等の説明は、彼の本をベースに自分なりにかみ砕いた。

彼の本、ちゃんと理由付けがあるから、理解しやすいだけでなく、自分で応用できるようにもなる。

気になった人は、「歯に衣着せぬ司法試験の基本書レビュー」の記事も見てみてほしい。

歯に衣着せぬ司法試験の基本書レビュー

では、また!

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