(2021年5月15日 「法条競合を押さえれば抽象的事実の錯誤が得意になる!」を追記)
罪数処理、ややこしくて、苦手としている人が多いのではないか。
しかし、罪数が理解できてないと、
- 論文で必要以上に行為を細分化して検討して、試験委員からヒンシュクをかう
- 刑法の答案の最後で罪数処理ができず、数点無駄にする
- 択一で出たときに落とす
- 刑法の勉強しているときに罪数がでてくるときがあるが(法定的符合説の数故意犯説の処理など)、そこでわからないと理解が進まず、つまんなくなる
となってしまう。
だから、みんな罪数を暗記で乗り切ろうとする。
しかし、そんな勉強ツライし、すぐ忘れてしまう。
もったいない。
罪数は、ちゃんとイメージを持って、かつ趣旨(本質)を理解できてれば、面白いし、わかんない問題がでても対応できるようになるのだ。
だから、今回は、俺の書いたかわゆいイラストで罪数のイメージを持ってもらい、かつ趣旨をちゃんと示して本質を理解してもらおう。
なお、主要参考文献として、山口厚『刑法』を用いた。
また、サブとして、川端博『刑法総論講義』を用いた。
これらの基本書のレビューはこちら↓
彼の罪数分類の体系は、以下のようなものである(あまりにも細かいところは省略した)。
これらを、イメージでバシッと脳に焼き付けていこう。
では、一罪からはじめる!
第1 一罪
1 単純一罪
通常の場合
1個の構成要件該当事実が惹起されたにすぎない場合を、単純一罪という。
たとえば、Aを殺した場合である(刑法199条)。
法条競合
もっとも、このように簡単な場合だけではなく、1個の法益侵害に対して、複数の構成要件が適用可能なように見える場合がある。
例えば、上記例で殺害についてAの承諾があった場合、202条の同意殺人罪の適用も可能なように思われる。
だから、199条と202条がともに被告人に適用されるのかというと、そうではない。
202条は、一般規定たる199条の減刑類型であり、199条に包摂された特別法という地位にある。
この場合、一般法たる殺人罪は適用されず、軽い同意殺人のみが適用されるのである。
その根拠は、両罪は①保護法益、②行為態様(故意責任)が共通しており、かつ特別法は一般法を破る、という点にある。
これを、法条競合といい、単純一罪の一類型である。
他の例を出すと、弁護士が依頼人から預かった事務処理費用をちょろまかしてポケットに入れていた場合、背任行為(247条)と業務上横領行為(253条)が共に問題となる。
両罪とも、委託信任してくれた相手に対して損害を与えるという点で共通しているが、実行行為が物の不法領得か(横領)、その他任務違背行為か(背任)という点が異なっている。
そして、上記例では、両罪の構成要件該当性が認められる。
しかし、この場合、重い業務上横領の成立を先に検討し、それが認められた場合、背任罪は成立しないとするのが判例である。
なぜなら横領は、背任の任務違背行為を物の領得という場合で具体化した、背任の加重類型であり、特別法という関係が認められる。
その結果、①保護法益が委託信任関係と財産いう点で共通しており、また②行為態様も委託信任関係の破壊という点で共通しているといえるからである。
しかし、交差関係では、なぜ重い横領を優先的に適用されるのか説明できず、妥当ではない。
それは、上述のように横領を背任の特別規定と捉えることで可能となるのである。
山口だって完璧ではない。
ベン図によりちゃんと論理関係を考察できていない証である。
法条競合の関係が把握できると、抽象的事実の錯誤の場合の法定的符合説の理解がかなり進む。
法条競合のケースは、複数の構成要件のそれぞれの客観面・主観面を共に満たしている場合である。
対して、抽象的事実の錯誤は、客観と主観とが、異なる構成要件にまたがる場合である。
これだけみると、法条競合と法定的符合説ってどう関係あるの?と思うだろう。
しかし、後者の抽象的事実の錯誤の場合、判例・通説である法定的符合説では、構成要件相互間に、
- 形式的重なり合いが認められる場合(=構成要件の一方が他方を包摂する関係にある場合)
- 実質的重なり合いが認められる場合(=包摂関係にないが、法益の共通性と行為の共通性が認められる場合)
に軽い罪の構成要件該当性を認めている。
この「重なり合い」の判断は、法条競合か否かの判断と、同じ考え方である。
それぞれについてみてみよう。
①形式的重なり合いは、一方の罪が他方の罪に包摂されている場合であり、法条競合の関係がまさにこれにあたる。
では、抽象的事実の錯誤の処理において、法条競合と違いはあるのだろうか?
同意殺人罪と殺人罪のケースで、考えてみよう。
被害者が殺されることに同意していたのだが、行為者がそれに気づかず、殺人の故意で、被害者を殺したとする。
この場合、199条と202条にまたがって主観と客観に食い違いがあるから、抽象的事実の錯誤(客体の錯誤)の場面である。
そして、同意殺人罪は殺人罪の減刑類型であり、殺人罪に包摂されている。
その結果、法益は人の生命で共通しており、また人を殺す現実的危険性を有する行為を実行行為とする点で共通しているから、両罪の重なり合いが形式的に認められる。
したがって、行為者は、殺人の故意により同意殺人についても規範に直面しそれを乗り越えたと認められるから、同意殺人罪の故意が認められ、同罪が成立する。
このように、特別法たる規定が減軽類型である場合には、法条競合の場合も抽象的事実の錯誤の場合も、結論が同じになる1。
しかし、それぞれを用いる場面と根拠が違うことは意識しよう。
- 法条競合の場合は、特別法たる罪の主観面も客観面も両方満たしている場合に、一般法たる罪の主観面も客観面も共に満たしているが、特別法は一般法を破るから、特別法が優先する。
- 他方、抽象的事実の錯誤の場合は、主観面と客観面がそれぞれ違う構成要件に該当している場合に、責任主義の観点から、主観と客観が重なり合う限度で軽い方の罪の責任を負わせている、ということである。
②次に、実質的な重なり合いが認められる場合について、百選判例である最判昭和54年3月27日を題材に考えてみよう。
同判例の事案は、輸入制限物件である覚せい剤を輸入する故意で、輸入禁制品である麻薬(ヘロイン)の輸入を行ったというものである。
関税法111条 1 項は輸入禁制品以外の無許可輸入罪(被告人の故意)を、109条は輸入禁制品輸入罪(実際に発生した結果)を規定しており、前者の方が軽い2。
本判例は,「被告人 X は,覚せい剤を無許可で輸入する罪を犯す意思であったというのであるから,輸入にかかる貨物が輸入禁制品たる麻薬であるという重い罪となるべき事実の認識がなく,輸入禁制品である麻薬を輸入する罪の故意を欠くものとして,同罪の成立は認められないが,両罪の構成要件が重なり合う限度で,軽い覚せい剤を無許可で輸入する罪の故意が成立し同罪が成立するものと解すべきである。」
とした。
その理由として、覚せい無許可剤輸入罪と禁制品である麻薬輸入罪とは、「ともに通関手続を履行しないでした類似する貨物の密輸入行為を処罰の対象とする限度において、その構成要件は重なり合っている」といえるからとしている。
これは、両罪は包摂関係になく、形式的には重なり合っていないが、法文の解釈上、「共通構成要件」(山口)になっているといえ、実質的重なり合いが認められる、ということであると解される。
この実質的重なり合いの判断基準としては、上記判例は、
- 取締の目的において同一
- 取締の方式が極めて近似
- 輸入、輸出、製造、譲渡、譲受、所持等同じ態様の行為を犯罪としている
- 麻薬と覚せい剤とは、ともに、その濫用によつてこれに対する精神的ないし身体的依存(いわゆる慢性中毒)の状態を形成し、個人及び社会に対し重大な害悪をもたらすおそれのある薬物
- 外観上も類似したものが多い
を挙げている。これは、法条競合と同様、保護法益の共通性と行為の共通性を問題としていると解される。
2 包括一罪
包括一罪とは、複数の法益侵害が存在し、それぞれが処罰の対象となりうるものであるが、①法益の一体性、②行為の一体性により、1つの罰条による包括的に評価すべきとされているものをいう。
これには、吸収一罪と、狭義の包括一罪がある。
(1) 吸収一罪
吸収一罪とは、上記①法益の一体性、②行為の一体性の観点から、重い方の構成要件で軽い方の構成要件を考慮済みであるといえ、軽い方の罪が重い方の罪に吸収される場合である。
次の3つのパターンが考えられる。
1⃣ 人をナイフで刺して服に穴を空け、かつ殺したとき、器物損壊罪(261条)と殺人罪(199条)がともに問題となる。
しかし、器物損壊は199条の法定刑を定めるときにすでに合わせて考慮されているから、261条は199条に吸収される。
2⃣ 殺人に至る過程をみると、殺人の予備をして予備罪が成立し(201条)、実行行為により未遂罪(203条)が成立し、その後に殺人罪が成立している(199条)。
しかし、前二者は199条においてすでに考慮済みであるから、前二者は199条に吸収される(共罰的事前行為)。
また、窃盗により得た財物を毀棄した場合、器物損壊(261条)は窃盗罪(235条)で考慮済みであるから、器物損壊は窃盗罪に吸収される(共罰的事後行為)。
3⃣ 同一の被害者に対して何度も殺害を試み、目的を達した場合、数個の殺人未遂(203条)は殺人罪(199条)に吸収される。
(2) 狭義の包括一罪
狭義の包括一罪とは、ある構成要件が近接した時間・場所における法益を包括して保護する趣旨と解される場合に、同法益に対する複数の侵害行為を包括して一罪とする場合である。
次の3パターンが考えられる。
1⃣ 散弾銃の発射により、被害者の身体に複数の傷害(204条)を与えた場合は、複数の傷害罪が成立するのではなく、包括一罪として、まとめて1個の傷害罪が成立する。
2⃣ 同一の被害者を続けて蹴り、数個の傷害を負わせた場合(接続犯)、傷害罪は包括一罪となる。
3⃣ 常習として数回賭博をしても(集合犯)、包括して常習賭博罪(186条1項)が成立する。
なお、あくまで、①法益侵害の一体性、②行為の一体性が根拠であるから、これらが満たされない場合、包括一罪とはならない。
例えば1⃣のケースで、散弾銃の散弾が複数の人に命中して複数人に傷害を負わせた場合は、①がないので包括一罪とはならず、傷害した人の数だけの傷害罪の観念的競合(54条1項前段。後述する)となる。
3 科刑上一罪
①一個の罪名が二個以上の罪名に触れる場合(54条1項前段)、②犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるとき(同条同項後段)は、その最も重い刑により処断される。
前者を観念的競合、後者を牽連犯という。
これらの場合、単純一罪が数個成立するのであるが、科刑の点で一罪として扱われるため、科刑上一罪と呼ばれている。
その趣旨は、科刑上一罪は行為(意思決定)が1個またはそれに準じる場合であるため、数個の行為による場合よりも責任が減少するという点にある。
(1) 観念的競合(54条1項前段)
「一個の行為」について、判例は、法的評価を離れた自然的観察のもとで、行為者の動態が1個のものと評価できるものをいうとする。
ポイントは、法的評価を離れた自然的観察の下で、「1個の意思決定といえるか」である。
択一では、交通事犯について多く聞かれる。
上記ポイントを当てはめれば大丈夫である。
- 酒酔い運転とその運転中に行われた業務上過失致死とは、観念的競合ではない(最判昭和49年5月29日)。
→酒酔い運転は継続性ある意思であり、他方過失はその瞬間の意思であり、両者は別だからである。 - 無免許運転と酒酔い運転は、観念的競合である( 昭和49年11月28日)。
→「自動車の運転」という1個の意思決定の結果、複数の構成要件該当事実が生じたといえるからである。
上記判例の立場では、「法的評価を離れた」自然的観察というのがポイントである。
法的に評価しちゃうと、「無免許の意思」と「酒酔いの意思」は異なることになってしまうからだ。
だが、こっちの結論の方が妥当だと思われる。
「意志」=故意・過失は、構成要件で個別化されている以上、自然的理解だけでは行為の責任を十分に補足できないからである。
このように、「一個の行為」といえるかについて、数個の構成要件に該当する各自然的行為の主要部分が重なり合っていることを要するとする見解を、主要部分合致説といい、これが妥当である(川端 博『刑法総論講義』654頁)
これによれば、前者の事例でも、結論が変わりうる。
すなわち、酒酔い運転と業務上過失致死について、酒酔いの程度が高く、運転行為自体に事故発生の高度の危険があるような場合には、運転行為自体が過失行為であり、それによって事故が発生すれば、酒酔い運転が過失の内容をなし、酒酔い運転の罪と業務上過失致死罪とは主要部分において重なり合っているから、両者は観念的競合となる。
また、法定的符合説の数故意犯説で、一つの客体に対する故意で複数の客体に対する故意を認めることが正当化されるのは、結局観念的競合になって重い刑だけで処断されるので、実質的に責任主義に反しないことになるからだ、ということを押さえておこう。
この記事↓の書き直し答案の設問3参照。
(2) 牽連犯(54条1項後段)
構成要件該当行為は複数であるが、それらが手段・目的の関係にあるため、一個の意思決定に準じるということができ、責任が減少すると認められることが、一罪として科刑される根拠である。
いかなる場合に行為に手段・目的の関係が認められるかについて、判例は、犯人の主観ではなく、罪質上通例、手段または結果の関係が認められるかという基準を示している。
- 住居侵入と窃盗、強盗、殺人
- 文書偽造と同行使、詐欺
等の場合について、判例は牽連犯を認めている。
反対に、
- 殺人と死体遺棄
- 監禁と恐喝
については、牽連犯は認められていない。
本当なら併合罪となる罪同士の間に、それぞれと牽連犯の関係にある罪を介在させ、全体として科刑上一罪とする理論を、かすがい現象という。
同理論の内容と問題点は、以下のヤフーニュース記事が、時事とからめて興味深いし、わかりやすい。
【障害者施設襲撃事件】19個の殺人と20数個の殺人未遂は〈1個の犯罪〉として処断される
かすがい現象は、論文では出ないだろうから、「判例は認めている」と覚えておけば、択一で対応できる。
しかし、上記記事で述べられているが、かすがいとなる罪があることによって、それがない場合より法定刑が軽くなってしまう、という問題点があることは知っておくべきである。
第2 数罪
「確定判決を経ていない2個以上の罪」が併合罪である(45条前段)。
併合罪は、同時審判の可能性のある数罪については、全体を考慮したうえで処断刑を決するのが適切であるから、科刑の点で特別の扱いがなされている。
- 有期懲役、禁固については、加重主義が採られ、最も重い罪の長期×1.5である(47条本文)。
ただし、上限がある(47条但し書き、48条2項)。 - 罰金については、各罰金の多額の合計以下で処断される(48条2項)。
- 死刑・無期懲役については、46条参照(吸収主義)。
なお、45条後段は、あまり試験に出ないし複雑なので、後回しでよい。
罪数エクストリームまとめ
いかがだっただろうか。
以上を超簡単にかみ砕いてまとめると、
- 法条競合は、法益・行為が共通する一般法・特別法の関係にある罪に認められ、特別法たる地位にある一罪が成立。
- 包括一罪は法益・行為の一体性があるものであり、包括して一罪が成立。
これには、吸収関係(ライトな罰条をヘビーな罰条が吸収する)と狭義の包括一罪(同一構成要件に向けられた複数の行為をまとめる)がある - 科刑上一罪は、複数の犯罪が成立するが、行為が一つ(観念的競合)またはそれに準ずるもの(牽連犯)であることから、最も重い刑で処断される。
- 上記以外では、数罪であり、ほとんど併合罪になる
と覚えればいい。
それぞれのイメージ図と具体例がでてくれば、幹の理解としてはバッチリだ!
…
…
…
どうだろう。
罪数が面白くなってきたのではないか。
勉強していると、めんどくさそうなところを避けてしまいがち。
だが、一度腰を上げて取り組んでみると、楽しくなるのだ。
では、また会おう!
参考文献
- 山口厚『刑法』
- 川端博『刑法総論講義』
この記事で使った基本書のレビューはこちら↓
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