【自衛の道とその行方】『空母いぶき』後編:武力攻撃事態

オス!かずだ!

前編では、「東亜連峰初島占領事件」を発端とする、グレーゾーン事態における「武器使用」の法的制約や、命を危険にさらしながらそれを守ろうとする自衛官の葛藤を学んでもらえたと思う。

【自衛の道とその行方】『空母いぶき』前編:グレーゾーン事態

しかし、そんな自衛官たちの悩みを無視するかのように、東亜連邦のステルス戦闘機は、自衛隊の偵察機を撃墜し、一線を超えてしまった。

ついに、垂水首相は、武力攻撃事態を認定し、防衛出動を下令したのである。

  • 防衛出動とは何なのか?自衛権とどのような関係にあるのか?
  • そして、空母いぶきが示す「自衛のための戦闘」とはどのようなものなのか?
  • それは、どのような場所に、どのように着地するのか?

後編を学ぶことで、これらの問いに迫っていこう。

その過程で、今俺達が学んでいる、法則立脚型交渉術の姿についても、よりハッキリ見えてくるはずだ。

以下、ざっくりストーリーに入るが、ぜひお時間が許す方は、ご自身の目で、現役自衛官をして「装備と運用が緻密で部下に教育として見せている」といわしめた本作を、堪能しておいてもらいたい。

大いなるざっくりストーリー(続き)

防衛出動、下令

「いぶき艦長から、各艦に達す。
防衛出動が下令された。

これは、訓練ではない。

各自、対潜・対空警戒を厳となせ」

秋津の静かな、ゆっくりとした声が、第五護衛隊群の各船に冷たく響いた。

自衛隊にとってはじめての、武力解放の令。

映画でも、歴史でもなく、自分たちの手で、人命のやり取りをすることになる。

隊員たちの胸には、入隊式で銃と一緒に授かった、服務の宣誓がよみがえっていた。

私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもって専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います。

「仇は、必ず取って見せます…」

いぶき艦載機を束ねる、第92航空団司令兼飛行隊長の渕上一佐は、艦載機格納庫で、絞るように秋津に漏らした。

しかし、秋津は体でわかっていた。

「戦場でその想いに囚われれば、目が曇るぞ。

我々がやるのはかたき討ちではない。

このアジアの海での軍事侵略が、いかに傲慢で、愚かで、無謀なことか、力でしかわからないなら、力で分からせる。

防衛出動とは、その力のことだ。」

防衛出動と「武力の行使」

説明しよう。

防衛出動とは、

  1. わが国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態(武力攻撃事態
  2. わが国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態(武力攻撃切迫事態
  3. わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(存立危機事態。いわゆる集団的自衛権発動の根拠)

に際して、日本を防衛するため必要があると認める場合に、内閣総理大臣の命令により、自衛隊の一部または全部が出動することをいう。

自衛権行使の一態様であり、最高水準の防衛行動である。

防衛出動には国会の承認が求められるなど、様々な制約がある反面、武力攻撃を排除するため、自衛権に基づき必要な「武力の行使」が認められるなど自衛隊の広範な活動を可能にする点で、他の自衛隊の行動とは一線を画する。

引用:自衛隊が「領海侵犯やテロ」に対抗しにくい根因 東洋経済ONLINE

「武力の行使」とは、わが国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいう。

これに対し、前編で出てきた海上警備行動などで許容される「武器の使用」は、自衛官個人が、国内法令に基づく「警察比例の原則」に従い、警察官や海上保安官と同レベルの武器使用が認められるのみであったな。

比べてみよう↓

引用:武器使用で日本は独自に制約 朝日新聞

かず
かず
武力行使とは、要は、個人ではなく、国としての自衛権行使だな。
デカく、長く、強くなるイメージ

もっとも、無制限に許されるわけでなく、戦時国際法(ハーグ陸戦法規やジュネーヴ条約など)があり、順守や事態に応じた合理的判断などが求められる。

代表的なルールとして以下の8つがある(条約締結国だけに適用されるものもある)。

  1. 軍事目標以外への攻撃禁止(降伏者、負傷者、民間人等の攻撃禁止)
  2. 休戦旗を揚げながら戦闘する行為
  3. 遭難信号を不正に発信する行為
  4. 赤十字旗を揚げながらの軍事行動
  5. 軍事的必要性を超える無差別な破壊・殺戮
  6. 捕虜虐待の禁止
  7. 対人地雷使用の制限
  8. 化学生物兵器使用の制限
  9. 開戦に先立つ宣戦布告義務

参考:

自衛隊法

●第76条(防衛出動)
内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律第9条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。

1 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
2 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
 
●第88条(防衛出動時の武力行使)
第76条第1項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。
2 前項の武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする。
広がる!ゆるゆる自衛権

安全保障法制は、自民党によりガンガン拡張されてきた。

引用:【安保法案】集団的自衛権、憲法制定時からこんなに変わった HUFF POST

特に、2014年の第二次安倍内閣での広がりがヤバイ。

まずは、集団的自衛権から見ていこう。

上述のように武力行使は、自衛隊の組織・装備のポテンシャルを開放するものであり、それが不適切に用いられれば、大規模な戦闘に発展し、国民への多大な危害を招く危険がある。

だから、武力の行使を許容する要件を、それに相応しい危機的事態に絞らなければならないのであるが、ここで問題となるのが「存立危機事態」とそれにより可能となる集団的自衛権である。

集団的自衛権とは、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することが正当化される権利である。

国連憲章51条

「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。(以下略)」

このように、集団的自衛権は国連憲章上認められた権利ではある。

しかし、集団的自衛権は、他国に従属する国にとっては、自国の利益を犠牲に他国の利益を図るために使われかねず、自衛のための実力しか認めない憲法9条が、この危険を許容していると解することができないとするのが、これまでの政府の立場であった。

だが、これを安倍政権は変更し、2014年7月、以下のように言って、憲法にねじ込んできた。

政府としては、憲法がこのような活動の全てを許しているとは考えていません。

今回の閣議決定は、あくまでも国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るための必要最小限度の自衛の措置を認めるだけです。

他国の防衛それ自体を目的とするものではありません。

「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の一問一答 内閣官房

政府は、武力行使を、「武力の行使の新三要」1を満たす場合に限って認めるとすることで、集団的自衛権は、国民のためのBATNAとしての措置であり、違憲ではないと言い張っているのである。

だが果たして本当に、集団的自衛権は、国民のための必要最小限の武力の行使にとどまるのであろうか?

かず
かず
言葉では何とでもいえる。本当に「国民のため」に使われるのか、実質について考えてみよう。

この点について、自民党政権のブレーンであり、安倍総理に集団的自衛権の正当性を訴えてきた高橋洋一(wiki)は、「暴漢が妻に襲い掛かってきたときに夫が守るのは当然」「犬でも主人を守る」とい、集団的自衛権は自然権として国家が持つ当然の権利であるという。

たしかに、「支え合える妻」「自分を保護してくれる主人」のように、相互互恵関係にある他国への侵害が、自国民の不利益となる場合があること自体は否定しえない。

しかし、アメリカは、日本を対等なパートナーとは見ていない。

アメリカは、日本人、そして世界中の人の命を金にして搾取することしか考えてない、「武器商人」である。

国際決済銀行(BIS)設立秘話。ユダヤ、ナチス、CIAの合同作品。モルガンが作り、シュローダー男爵とダレス兄弟の暗躍。ロスチャイルド、ロックフェラーら大集合【ヒトラー、FRB、中央銀行、通貨発行権】

その他参考記事

例えば、台湾戦争が起きた場合の集団的自衛権の危険性について、防衛省や自衛隊を約30年にわたり取材してきたジャーナリストの半田滋氏(66)は、以下のように語っている。

  • 「米国の情報収集能力は日本と圧倒的な差があり、言われるがまま動くしかないのが現状だ。一度武力衝突が起きれば、被害がいくら生じても自らの判断で離脱はできない」
  • 「中国は米軍と一体となる自衛隊も攻撃対象と判断するだろう。地理的に近い沖縄の離島などが最初に戦場となる危険性が高い」

参考:台湾有事で自衛隊戦闘の恐れ 「始まってからでは遅い」―防衛ジャーナリストの半田氏 jiji.com

集団的自衛権を許容する「密接な関係」とは、間違ったことに「NO」といえる、対等な関係でなければならないはずである。

誰かの犠牲の上の短期的利益は、実は、利益ではない。

それが見えない限り、永遠の渇望孤独に囚われる。

【ゆっくり解説】「エプスタイン事件」の闇とは?<前編>【閲覧注意】
【第1話】2019年に刑務所内で自殺した大富豪が行っていた人身売買の闇に迫る!【サバイビング・ジェフリー・エプスタイン -アメリカの闇-】

それを気づかせるのが、対話であり、交渉であり、自律した本当の「トモダチ」である。

強者に取り入って下に下へと転嫁していく人生のフィナーレは、友情などない、孤独死である。

安倍元首相の国葬、どう思う? 「反対」表明が7割超 神奈川新聞

かず
かず
国は人が動かしてるんだから、を見ればその国がわかるな!

今の日本にはどんな人がいて、どんな国なのだろうか?

アメリカの欲望の連鎖に組み込まれるような集団的自衛権に、NOを言う必要がある。

友好関係こそ、最強の安全保障である。

日本は今は低迷しているが、追いつめられた奴は、目覚める。

全てのものを尊重し、神を見出す日本人には、リーダーシップを取って新しい世界秩序を実現できるポテンシャルがあると、俺は信じている。

その具体的な案については、『日本の安全保障』(加藤朗)を参考にして、また空母いぶきのストーリーを踏まえ、本記事の最後の方で、提案する。

集団的自衛権以外でも、安全保障関連法は安倍により一気に広がりを見せた。

ポイントとなる部分と問題点はこちら↓

参考:

↓下の動画が、拡張に至るまでの歴史的流れや、上記ポイントを含めた安全保障関連法の全体像を、高校生でも分かるように、非常に分かりやすくまとめてくれている。

【高校生のための政治・経済】有事関連法・安全保障関連法#17

安全保障は、オカタくデカく重いという初回デートで絶対話してはいけないテーマで、できれば目を背けたいものでもあるが、「そうなってから」では悔いても遅い。

俺達の命のことを、政府はどう思っているのか、その姿勢がわかるので、少なくとも流れやイメージは持っておくべきである。

スタンスが分かれば、安全保障関連のニュースを見るたび「これから何をしようとしているのか」が見えてきて、、どう動けばいいのかが分かる。

集団的自衛権以外で、緊急事態条項との兼ね合いで、俺が特に重要だと思った点について述べておく。

有事法制全体の基本的な枠組みを示した法律として、事態対処法(リンクはe-GOV法令検索)があり、ここには武力攻撃事態等における国の基本的な対処方針・手続などの「大きな」事項の他、より身近な地方公共団体または国民に、義務・負担を課す規定がある。

事態対処法

●地方公共団体の責務(5条)
地方公共団体は、当該地方公共団体の地域並びに当該地方公共団体の住民の生命、身体及び財産を保護する使命を有することにかんがみ、国及び他の地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態等への対処に関し、必要な措置を実施する責務を有する。

●国民の協力の努力義務(8条)
国民は、国及び国民の安全を確保することの重要性に鑑み、指定行政機関、地方公共団体又は指定公共機関が武力攻撃事態等において対処措置を実施する際は、必要な協力をするよう努めるものとする。

また、武力攻撃事態等があった場合における国民の避難・救援等の対処について定められている国民保護法(リンクはe-GOV法令検索)3条・4条にも同様の規定がある。

これが今後の改正・立法や緊急事態条項によるそれで、強化されないか注意すべきである。

具体的は、ウクライナのように、18歳から60歳の男性の出国・国内移動が制限されて、国防の任(戦闘でなくとも)が与えられ、事実上の徴兵制のようにならないかを、かずは非常に憂慮している。

努力義務は、「こんくらいならいいか」と徐々に慣れさせ、そこに行くまでの足がかりとするものである。

かず
かず
俺たちは、もう茹でカエルになっているのではないだろうか?

参考:

かず
かず
緊急事態条項の危険性については、別の記事で検討しよう。準備中。

最新イージス艦「あしたか」の牙

秋津と渕上とのやりとりから2時間後、12月23日12時39分。

空は、何事もないかのようにに快晴である。

しかし、海中では何かがうごめいている。

いぶきのソナーが5隻の潜水艦のスクリュー音を探知した。

「また奴らか?」

いぶきCICに緊張が走ったが、5隻はそれぞれ中、露、米、英、仏の信号を発していた、

常任理事国勢ぞろいいぶきの行動、そして実力を探っている。

いぶきは、自衛隊の虎の子であるし、自衛隊初の武力の行使である。

戦闘現場の至近距離での監視は、最高の情報収集になる。

だが、それだけだろうか?

自衛隊が掲げる、「専守防衛」とは何なのか?

彼らにはその概念がない。

高みの見物を決め込む、かつての勝者の沈黙には、争いを繰り返す世界での、無意識の苦悩と興味が滲んでいた。

いぶき上空の哨戒機から、いぶきCIC秋津に報告が入った。

「イーグルアイからいぶきへ。敵空母から戦闘機発艦。戦闘機5機、向かってきます。」

「ミグだ。現在の距離は?」

「わが艦隊との距離、400マイル。敵のミサイル射程圏内まで、約20分です。」

「いぶきから各艦に達す、対空戦闘用意!」

秋津からの指令を受け、各艦艦長も、指揮下の各部へ、対空戦闘の用意を下達する。

艦内はスクランブルである。

しかし、統制は取れている。訓練は積んできたのだ。

「敵機からレーダー波照射!ロックオンされました!」

耳障りなブザーがこだまする。

「撃ってくる…」

秋津には、レーダーを通して敵パイロットの意図が見えていた。

「敵機ミサイルを8発発射、いぶきへ向かってきます!」

対処法は分かっている。

だが、新波は祈るようにつぶやいた。

「頼むぞ…あしたか…」

いぶきを守るイージス艦は2隻あり、その一隻は「あしたか」、もう一隻は「いそかぜ」である。

あしたかは最新鋭のあたご型であり、第5護衛隊群編成に当たり、対空戦闘指揮艦として配備されている。

操るのは、イージス艦にふさわしい、スーパーコンピューターのような怜悧な判断を下す、浦田一佐である。

「いいか、全ての訓練はこのためにあったと思え!

対空戦闘用意!」

「前甲板対空ミサイルVLS、発射用意!」

「砲雷長、目標8。一発も打ち漏らすな」

「目標データ、入力完了 。発射用意、よし!」

「撃て!」

あしたか前甲板に垂直に埋め込まれた、「セル」と呼ばれる複数の発射筒。

その8か所のカバーが煙とともに開き、8発のミサイルが、どこまでも飛べる精力旺盛なトビウオのように、空に向かってまっすぐに飛び出した。

彼らは仲良く上昇した後、それぞれの空腹を満たすため、それぞれが狙った獲物い向かって、襲い掛かっていく。

いぶきCICは、その行方を追う。

「あしたか、迎撃ミサイル発射しました。

目標との距離、6マイル、接触まで、10秒。9秒、8秒、…」

いぶきのレーダーに現れている、敵ミサイルを示す8つの赤い矢印。

それぞれに向かって、緑色の矢印で表された、あしたかの放った迎撃ミサイルは距離を詰めていく。

彼らは次々と、獲物を食らい尽くしていた。

安堵が漂う、あしたかといぶきCIC。

だが、秋津だけは異変に気づいていた。

「砲雷長、敵は5機編隊のはずだな」

「はっ?」

「各機2発ずつだとすると、1機撃っていない」

ブザーが再度鳴り響く。

「11時の方向に敵機、イーグルアイのレーダーが捉えています。

距離20マイル、超低空で向かってきます!」

「あしたかCICへ。

1機が超低空で侵入してくる。

攻撃位置で必ずホップアップするので、その瞬間をとらえる。

撃墜せよ」

「…」

新波には、わかっていた。

だが、しばらく逡巡したあと、その意味を再確認すべく、秋津に問うた。

「艦長、この距離で撃墜すれば、パイロットの命は失われます。」

秋津の決心は揺るがない。

「これを逃せば、次のミサイルを撃たれる。

ここはすでに、戦場だ」

そう、訓練とは違い、実戦ではやり直しは効かないのだ。

「コンタクト、方位200、距離5マイル、高度100フィート」

報告を受け、浦田一佐のコンピューターは、正確に処理手順をなぞる。

「対空戦闘用意!」

「敵機、ミサイル2発撃ちました!」

「前甲板VLS、9番から11番、対空ミサイル発射用意!」

「目標データ、入力完了」

あしたかの砲雷長は、浦田を見つめる。

浦田は、ゆっくりとうなずき、そして言い放った。

「撃て!」

あしたかから放たれた3発のミサイルは、2発の敵機ミサイルを貫いた後、その矛をさらに伸ばした。

そして…

「撃墜しました」

いぶきCICに流れる時間が、急に、ゆっくりになる。

自分たちの手が、人を殺めた。

人を殺めたのだ。

国内法にも、国際法にも違反しない。

合法。

だが、事実は変わらない。

意味がわからない。

だが、前を向いて、進まなければならない。

秋津は、沈黙を破り、踏み出した。

まずすべきことは、ただ一つだった。

「忘れるな。

この実感は、忘れずに覚えておけ」

新波は、瞬きひとつせず、彼が舞った海を、まっすぐに見つめ続ける。

そして、言った。

「副長から達す。

パイロットの捜索を行う。

各艦に伝えろ!

あきらめるな!死なせてはいけない!」

いぶき船内、応接室。

何度も鳴り響く炸裂音と、船内のただならぬ様子に困惑する、ネットニュース「P-Panel」の記者本多と、「東邦新聞」のベテラン記者の田中。

広報担当の井上三佐が扉を開けて現れ、何事もなかったような微笑みを浮かべ、言った。

「お二人とも、お変わりないですか?

いやーびっくりしましたね~

あ、突然ですが、お二人には、あと20分ほどで、この船を降りていただくことになりました」

田中は納得ができず、抗議する。

他方、本多の本能は、自らに「逃避」を命じていた。

「降ります。私、降ります!」

撃墜した敵機パイロットの捜索にあたっていたヘリから、「パイロット発見できず」の報が、いぶきCICにもたらされる。

新波には、秋津にどうしても問わねばならないことがあった。

「我々自衛隊が初めて敵機を撃墜し、パイロットの命を奪った。

防衛出動が出た以上当然だと、あなたはいうだろう。

だが、そこには何のためらないもなかったか!?」

「新波二佐。

力を持つということは、必要な時に、ひるむことなくそれを使うことだ」

「我々はすでに敵機のミサイル2発を撃ち落としておりました。

さらなる攻撃を仕掛けてきたでしょうか」

「パイロットならわかることだ」

首相官邸5階の総理大臣執務室で、垂水にも、その報はもたらされた。

「撃墜したパイロットは、助からなかったものと」

「そうですか…」

自分の下した、防衛出動が、人を殺めたのだ。

呆然とする垂水。

これまで共にいぶき就役に尽力してきた、石渡内閣官房長官は、檄を飛ばす。

「しっかりしろ、自衛隊の最高指揮官は、内閣総理大臣である、お前だ」

いぶきの甲板では、船に残りたい田中と、ヘリに誘導しようとする井上三佐がもみ合っていた。

本多は、まっすぐヘリに向かって行く。

その様子を、秋津は静かに見守っていた。

井上三佐がなんとか田中をヘリに押し込もうとしていたとき、本多は、ふと、秋津のもとに駆けていった。

そして、何度聞いても答えがきけなかった、あの質問を繰り返した。

「艦長、もう一度お尋ねします。

日本に空母は必要なのでしょうか?」

「私には、それを答えることはできません」

当たり前だ。

それは、本多の自分自身への問いかけだった。

「私たちは、今ここで起こっていることを伝えなければなりません。

この船に、いさせてください」

秋津は少し、思いをめぐらしたが、やがて微笑み、今度は応えた。

「これまで以上に、規制は厳しくなりますが」

護衛艦「はつゆき」潜水艦「はやしお」の体当たり作戦

12月23日17時20分。

自衛隊司令部から、いぶきCICに通達が届いた。

”今後の外交交渉に影響する戦闘は、極力回避されたし”

実力を用いる現場に、政治的判断をも要求する難しい注文である。

新波は秋津に、苦言を呈する。

「戦闘から戦争への拡大は防げということか。

だが、どこからが戦争なのか?」

「一般国民に被害が及ぶこと、それが戦争だ」

”今後の外交交渉に影響する戦闘は、極力回避されたし”

そのメッセージは、第五護衛隊群の先陣を切る潜水艦、「はやしお」にも、もたらされていた。

はやしおを操る滝一佐の判断能力を試すかのように、はやしおのソナーの耳に、あの音が再び聞こえてきた。

「スクリュー音。方位190度、距離8000、いぶきを攻撃した潜水艦です。」

「おいでなすったな!」

滝艦長には、自信があった。

広大な日本の領海域に対し、自衛隊の所有する潜水艦では手が回らないことは、重々承知している。

だからこそ、技量で上回らなければならない。

無いなら無いなりの強みがあるし、戦い方がある。

それを、日々悩み、研ぎ澄ませてきたのだ。

「敵艦、魚雷発射管を開きました」

「コイツはからなず撃ってくる。撃たなければ、いぶきがやられる…」

考えるために、滝は独りごとのように、思考を言葉でなぞる。

「艦長、敵はまだ、我々に気づいていません。」

「魚雷戦用意、攻撃目標、敵潜水艦、1、2番菅、発射用意。」

敵の魚雷発射管から、魚雷が勢いよく飛び出す音が、聞こえてきた。

「いぶきから各艦へ、対潜戦闘、魚雷回避。

一本も被弾するな!」

副長、新波も叫ぶ。

「魚雷に正対、取舵一杯!、

3番4番、デコイ発射」

魚雷は獲物の音響を記憶し、追尾する。

デコイ(囮)とは、自艦と同じ音響を発しながら泳ぐ、魚雷のような形をした水中防御武器である。

敵魚雷はまんまと手ごろなデコイに誘惑され、目標を見失ってしまった。

だが、デコイの効果も長くはない。飽きられれば、元の目標に舞い戻ってくる。

水中で、敵潜水艦の対応を任されている「はやしお」は、重大な決断を迫られていた。

「艦長、次の攻撃を止めなければ、いぶきが危険です!

今なら、撃沈できます。」

「撃てば、敵潜水艦150名の、命が消える…」

「発射やめ!」

二つ目のの選択肢も、滝一佐は潰した。

「敵艦までの距離は?」

「距離、2000です。」

「このまま直進、最大船速!」

「ソナー、距離は?」

「敵艦までの距離、700、600、500…」

はやしおが、敵潜水艦に接近していく。

衝突コースである。

滝艦長は、敵潜水艦に体当たりすることで、敵魚雷による二波目の攻撃を防ぎつつ、敵艦内の人命を守ろうとしているのだ。

だが、下手に当たれば、敵味方潜水艦乗組員、あわせて300人が、この海に沈むことになる。

敵魚雷がデコイ追走から反転し、いぶきに向かってくる。

「いぶきからはつゆき、瀬戸艦長!」

護衛艦はつゆきは、あさぎり型護衛艦であり、アスロック対潜ミサイルを装備している。

「撃て!」

瀬戸艦長の号令で、はつゆきから船上から放たれたアスロックが、勢いよく海に、次々に飛び込んでいく。

勢いよく泳ぐアスロックは、敵魚雷を次々捕らえていく。

だが、海中での乱闘を抜けて、一発の魚雷が死に物狂いで走り抜けてきた。

「マスカー開始!

取舵一杯!」

水は空気より密度が濃いため、音が伝わりやすく、魚雷が音を聞き取りやすい。

泡状の空気を船体にまとうことで、音を伝わりにくくして、船体の存在を消す。

これが、マスカーといわれる防御兵器である。

これに加えて、船体を魚雷に向けて正対させる。

魚雷から見える範囲を最小にし、命中する確率を下げるのである。

一方、敵潜水艦に向かう「はやしお」。

敵潜水艦は、はやしおを回避すべく上方に進路を修正した。

それに合わせ、はやしおもアップトリム。

繊細な操舵指示を重ね、敵潜水艦よりも5メートル上をキープしている。

滝艦長が叫ぶ。

「もう魚雷は撃たさんぞ。

総員、衝撃に備え!」

衝撃音が海中に響き渡った。

水上の「はつゆき」で、瀬戸艦長も決意を固めていた。

「取舵一杯、鉄っぱちをつけろ!

わが艦をもって、いぶきを守る」

瀬戸艦長は総員にヘルメットを着用させ、右舷側にいるいぶきを自らの体で守るべく、左舷の乗員を退避させた。

だが、瀬戸艦長はCICを動かない。

そして、その周りには、部下の避難の手配を済ませた幹部陣も集まっていた。

「どんなときでも持ち場を離れるなと、瀬戸艦長から教わりました!」

「貴様ら…」

「総員、衝撃に備え!」

凄まじい破裂音とともに、水柱が、はつゆきに上がった。

はつゆき炎上動画拡散!

「はやしお」の体当たりで、敵潜水艦は戦闘不能に陥り、戦線を離脱していった。

だが、それは、はやしおも同じ。

一人の死傷者も出さずにいぶきを守れたものの、傷は浅くなく、とめどなく内側に流れこむ海水の血を止めなくてはならない。

はやしおも、緊急浮上し、戦線離脱である。

一方、「はつゆき」は‥

「はつゆきは、我々の、盾となりました…」

魚雷は、船を沈めるうえで、非常に効率性の良い兵器である。

船舶を沈めるために最も効果的な方法は、その船舶の内部に海水を入れることあり、魚雷は、喫水線下(船が海水に触れている部分)に穴を開けることができるからである。

魚雷の恐ろしい破壊力と仕組み!長魚雷と短魚雷の威力の違い!1発で撃沈

「いぶきから、しらゆき、いそかぜ。

両艦は、はつゆきの救助に当たれ。

2時間後には、波間に向かう。」

「了解。いいか、全力ではつゆきを助けるぞ

内火艇用意!」

本多は、秘密裏に持ち込んだ衛星携帯を接続したビデオカメラを持って、いぶきの甲板に出た。

12月の空は既に暗くなっていたが、はつゆきはその闇の中で煌々と燃え上がっていた。

さらにその中には、何百もの、自分を迎えてくれた自衛官の顔がある。

「護衛艦はつゆきが…燃えています。」

本多は泣いていた。

だが、本多の頬に伝わる涙は、はつゆきの放つ熱で、次々に乾いていくのであった。

首相官邸地下の危機管理センターの閣僚たちにも、現場の様子が伝えられた。

「はやしおは、現在、自力で呉へ向かっています。

はつゆきは、航行不能で、多くの重傷者が出ているため、あしたか、いそかぜを救助に残し、

いぶきは、あしたか、いそかぜとともに、波間に向かいます」

垂水には、志を同じくする、彼らの決意が伝わっていた。

「現場の自衛官たちは、防衛出動が出てもなお、専守防衛を全うしてくれている…」

「総理!ここは、援軍を送って、一気に叩くべきだ!」

机を叩き、そう進言する城山副総理兼外務大臣に、垂水は悲しげな顔を向けていた。

国内は騒然としていた。

本多が撮影した、しらゆき炎上動画がネットニュースで配信され、国内はあっという間に「戦争か?」と騒ぎになっていた。

コンビニには、商品を買いだめする人で、大行列ができていた。

国際社会で礼儀正しいと評価される日本人だが、自分の命が第一であるという、生命の掟はは変わらない。

状況が悪化し、極限状態になったとき、その評価は維持されるのだろうか?

「総理、いぶきの件が、ネットで広がっています」

「何!?」

目の前のモニターに、ネットニュースが映し出される。

「削除だ!削除させろ!」

叫ぶ城山をしり目に、垂水の目は国民に向いていた。

「記者会見を開きます。

事態が表に出た今、国民の理解と支持を得ることが急務だ。」

「対応を間違えれば、内閣などすぐに吹っ飛ぶぞ!

それより、増援部隊が先ではないのか?

今、全軍の力を持って、一気に敵を叩きにかからなければ、この戦、負けるぞ!」

垂水には、看過できなかった。

「城山さん、戦後数多くの政治家が、この国の進路を決めてきました。

議場には絶えず怒号が響いていた。

しかし、そんな彼らが、一丸となって守り抜いてきたものが、たった一つあります。

それは、この国は、日本は、絶対に戦争はしないとの、国民との約束です。

軽々しく、「戦」などという言葉は使わないでいただきたい!」

そう言い放ち、垂水は、記者会見に赴いた。

そして、報道陣に、国民に、「これは戦争ではない。自衛のための戦闘だ」と説明するのであった。

だが、その戦闘を招いたのは、相手なのか、日本なのか。

「今回の軍事衝突は、いぶき就役が原因なのでは?」

記者からの最後の質問には、垂水は答えず、会場を後にした。

ナニワのイージス艦「いそかぜ」のピンポイント主砲作戦

12月23日、22時50分。

「いや~なかなか迫力のある映像でしたね~

ですが、許可のない外部への情報発信は、協定違反となります。

じゃあ、その衛星携帯、お預かりしますよ」

しゅんとして、小さく縮まる、本多と田中。

衛星携帯を没収した井上三佐が、秋津に報告する。

「きつく、申し付けておきました」

秋津は、井上三佐に近づき、耳元で何か囁いた。

いぶきの前に、駆逐艦2隻が現われた。

戦闘機が使えない今、護衛艦の装備でこの2隻を無力化しなければならない。

敵駆逐艦は、YJ83艦対艦ミサイルを備えています

いそかぜを先行させ、射程の長いハープーンで撃沈するのが、確実である。

ウクライナ、ついに米国製ハープーンミサイルによるロシア軍艦の撃沈を開始

だが、ハープーンを使えば、2艦で乗員600名の命を奪ってしまう、

副長の新波は反対する。

「艦を沈めれば、敵は間違いなく戦線を拡大してくる。

それは、”外交交渉に影響する戦闘は回避せよ”という指令に背くことになる。

彼らは、洋上から日本本土を狙える長距離ミサイルを装備しているはずです。

ここで彼らを刺激して、万が一、国民に被害が及ぶようなことがあれば、あなたがいう”戦争”が起こります。

それだけは自衛官として、いや、船乗りとして、絶対に認めることはできない!」

秋津は逡巡する。

その間にも、敵艦はミサイルの射程に飛び込むべく、全速力で向かってきている。

我が艦の命、敵艦の命、国民の命…

「副長、いそかぜの主砲ならどうか。

それなら敵は沈まない。」

「主砲?やってみよう」

「術課競技で、何度もトップと採った腕前を、ぜひとも見せてもらいたい!」

副長からのまさかの提案だったが、いそかぜの浮舟艦長は真正面から受け止めた。

「そんなおだてには乗らんが…

やれと言われればやるしかなかろうな。了解。」

いそかぜの主砲は射程20マイル。対して、敵の主砲は15マイル。

主砲の射程ではいそかぜが勝るが、敵は間違いなく対艦ミサイルを撃ってくる。

降り注ぐ対艦ミサイルを防ぎながらの、ピンポイントを狙う艦砲射撃。

攻守に死角なく気を配り、イージス艦のポテンシャルを最大限に発揮しなければ、成功しない。

射程延長弾の使用を部下から具申されたが、浮舟は突っぱねた。

「あかん!

射程延長弾ではピンポイントでの破壊はムズイねん!

20マイルまで接近して撃たなアカン!」

「でましたね~関西弁。

艦長が本気モードになった印です。」

「あかん…ほんまや…」

映画『空母いぶき』《いそかぜ》本編映像

いそかぜの放つ砲弾は、敵艦ルサの前甲板の主砲、前後甲板のミサイル発射筒を、それぞれ一発づつで射貫いていく。

ルサは矛を折られ、沈黙した。

だが、もう一艦がいそかぜに向かって飛び込んできた。

ミサイルでの攻撃が効かないとわかったので、どさくさ紛れに主砲で仕留めようとしているのだ。

「目標、前甲板主砲、いてまえ!」

敵の射撃よりわずかに、いそかぜの射撃が早かった。

新波が叫ぶ。

「いそかぜ!砲撃がくるぞ!」

「後進!バックやバック!」

「かわせー!」

いそかぜの船首をかすめるようにて砲弾が落下し、波しぶきがいそかぜをスコールのように包みこんだ。

「あたらんかった…」

敵は2艦とも、無力化されました…いそかぜは、無傷です。

その神業とも思える対空防衛・艦砲射撃・操艦のハーモニーに、いぶきCICは酔いしれた。

「さすが、浮舟さんだ!」

作戦の成功を喜ぶ新波をよそに、秋津は固い表情を崩さない。

「群司令に報告してくる…」

新波は、秋津の真意を知りたかった。

身体が動いた。

「艦長、極力死傷者を出したくない、味方にも敵にも。

気持ちは同じと思っていいですね?」

「あの2艦を沈めれば、我々は、国際人道法上、生存者の救助に向かわねばならない。

それをする余裕などない。

それだけだ。新波さん。」

新波に笑みがこぼれる。そして、帽子を取り、言った。

「なつかしいな。

防大54期の中で、仲間をさん付けするのは、秋津良太、お前だけだ。

俺はあの頃から変わらない。

我々は戦争する力を持っている。だが、それを絶対にやらない

今もそれを肝に銘じて、ここにいる」

「闘わなければ、守れないものもある」

「その違いも、変わらないようだな」

「いや、同じとところもある。

2人目が生まれるそうだな…

君の子供たちが、将来安心して暮らせる。

そんな日本を守りたい気持ちは、同じだ」

「独身のお前から、そんな言葉が出るとはな…

誰とも群れようとししないお前には、空自がお似合いだと思っていた。」

「海自に転属して半年、こっちは未だ、新波さんが海自を選んだ理由がわからない」

「それを簡単に分かってもらえるとはおもえんがな」

航空機乗りの言葉と、船乗りの言葉。

そこに個人の資質や価値観に基づく、違いはあるのかもしれない。

だが、それを結びつけるものは、この日本を愛しているということだ。

「これから、さらに厳しい戦いとなる。」

この戦いの行き着くさきに、どんな日本が待っているだろうか。

まだ、戦いは終わっていないのだ。

「一機も失うな」の意味とは?最新鋭戦闘機F35JBv.sミグ

12月24日、午前0時。

日本は眠らない。

その南北にうねる竜のような国土は、文明がもたらした光をまとって、脈動を続けている。

今夜は、その息づかいが一段、激しいようにもみる。

産みの苦しみだろうか。

沢崎勇作外務省アジア大洋州局局長は、片っ端から電話会談のアポを取り付けていた。

国連常任理事国、非常任理事国、議長国、G7議長国…

「今の時代、戦争はグローバル経済のリスクにしかならないと、みんなわかっている。

上手く焚き付ければ、国連の対応も変わってくるはずだ」

時間に追われながらも、それを忘れたように、彼らを今にとどめ、突き動かすエネルギーとは、何なのだろうか。

0時20分。

哨戒中のイーグルアイよりいぶきに、敵空母からミグ35が、10機発艦したとの報が入った。

到達まで30分。

10機への対応には、こちらも戦闘機を出すしかない。

第92飛行群渕上群司令は、15人のパイロットたちを集め、空戦の覚悟を練り上げていた。

「出撃は近い。

必要なのはチームワークだ。

僚機、クルー、整備員を信頼し、信頼されろ。

そして、いかなる状況においても、冷静に対応しろ。

これまでの訓練の成果を、見せてやれ!」

ちょうどそのとき、艦載機格納庫よりCICへ、エレベーターの修理が完了したとの報が入った。

時期を逃さず、秋津は達す。

「第92飛行群、出撃準備。

渕上群司令、これは訓練ではない、戦闘ではない。

敵機を補足したら、撃墜を許可する。

パイロットへの指示は?」

「はっ、向こうが撃つまで撃つなと。」

「付け加えろ。

1機も失うな。迷ったら撃て」

出撃する5機は、アルバトロス隊。

その小隊長、コールネーム「アルバトロス1」迫水3佐は、決意した。

「迷ったら、撃ちます」

「アルバトロス2」,柿沼一尉は、新婚である。

「迷わぬための、お守りだ。」

コックピット壁面に挟んだ写真には、子を抱く妻が笑っている。

いぶきの甲板左方には、空を指さすように走る、離陸用滑走路がある。

それをすべるようにして、5機のF35は、夜の闇の中に、次々と消えていった。

一方、本多、田中がいる応接室では…

「艦長からの差し入れです、冷めないうちに、どうぞ」

井上三佐から、白いふきんがかけられた、お盆が差し出された。

(嬉しいけど、こんな時間に?)

ふきんをあけてみる。

お盆の上には、缶飯と、それから…

没収されたはずの衛星携帯があった。

引用:缶飯 自衛隊神奈川地方協力本部 

敵機へ向かい先陣を切る、迫水三佐がつぶやく。

「5対10、迷ったら撃てか。

もう迷っている」

「イーグル1からアルバトロス隊へ、ミグ35、先頭の5機が、ミサイルを発射した。

計10発、距離50マイル。」

「アルバトロス1から全機へ。

武器使用許可、ウェポンズフリー!

各自目標を定め、交戦せよ。

行くぞ!」

敵ミサイルがアルバトロス隊全機に襲い掛かる。

「フレアだ!」

F35が吐き出す火の玉が、敵ミサイルを次々に焼き尽くす。

レーダーをにらむ秋津には、彼我の機体の乱戦が、立体映像として目の前に見えていた。

「CICよりアルバトロス1へ。

ミサイル射程距離を保ち、2対1の状況を回避せよ」

「了解、アルバトロス1より全機へ。

10機全機を相手にするな。

上昇接近中の敵後方編隊5機をα、前方編隊をβとし、αの左翼上方に回り込む。

βにはかまうな!目標α!

今度はこっちの番だ、やり返すぞ!」

アルバトロス隊のF355機は、各自狙ったミグの後方に素早く回り込み、補足した。

それぞれが放ったミサイルは、敵のフレアをすり抜けて、次々と命中していく。

他方、ミグのミサイルは、F35のフレアを抜けられない。

乱闘を経て気が付くと、敵α編隊5機のうち、4機を撃墜していた。

アルバトロス隊は無傷。

「これほど撃たれて、一発も受けないとは…」

いぶきCICでは、安堵を通り越し、恐れが漂っていた。

【ゆっくり解説】なぜF35ステルス戦闘機は世界で最も選ばれるのか?

残っている敵は、6機で、そのミサイルは2発ずつで計12発。

通常、帰艦するパイロットは、追撃に備えて1発ミサイルを残す。

つまりあと6発のミサイルが、今切れる敵のカードである。

空戦は大量の燃料を消費し、あと2、3分の戦いとなる。

それを耐えられれば、アルバトロス隊の完全勝利である。

敵は、苦し紛れに一矢報いようと、チャフもフレアも打ち尽くしてしまっている、柿沼一尉に照準を絞った。

映画『空母いぶき』《アルバトロス隊》本編映像

海にミサイルを叩きつけるべく、垂直に下降する柿沼一尉には、地球の引力が加えられた強烈なGがかかる。

国民の汗と血の塊である、最新鋭戦闘機を、柿沼一尉はどうしても守りたかった。

その想いに引きずられて、迫水三佐の「ベイルアウトしろ」の指示がかき消せれ、意識が遠のいていく。

ふと、目の前の妻と子の姿が飛び込んできた。

そうだ、俺も、人間なんだ。

「俺の、替えは、きかない…」

6発のミサイルが大きく口をひらき、ご馳走のF35を一口にした。

だが、その牙を縫って、命の火の玉が、吐き出されていた。

危機管理センターでは、自衛隊初となる空戦の行方を、固唾をのんで見守っていた。

城山副総理が報告する。

「パイロットを全力で捜索中ですが、まだ生存は確認されていません。

ただ、ヘリが救難信号をキャッチ、救命ボートが開いているのを、確認しています。」

垂水は、脳裏に次々と浮かぶ最悪のケース・最高のケースを共にかき消し、現在に耐えながら、その先を待つ。

人間の体が耐えられる限界は、心身を鍛え抜いたパイロットで、9Gを10秒間程度だとされている。

参考:第111回:空対空戦闘4 戦闘機の旋回性能と人間の限界 飛行機のおはなし

ベイルアウト(緊急脱出)は、瞬間的に10~15Gという強い加速度がパイロットにかかり、ただでさえ骨折や脊髄損傷といった大けがを負う危険あるし、判断が遅れ低空でそれを行うと、パラシュートが開ききらず、地面や海面に叩きつけられてしまう。

【実話】自衛隊戦闘機がエンジン爆発!ナゼか緊急脱出を拒否…わざと墜落した隊員

しかも、柿沼一尉の場合は、高速での、垂直下降中である。

生存を信じるしかない。

そう話す渕上群司令と、迫水三佐の下に、秋津が訪れる。

迫水は詫びようとする。

「艦長!

一機も失うなという指示でしたが…」

「敵の空母には60機、こちらは四分の一の15機だ。

4機落しても1機失えば痛み分け、敵もそう判断している。

戦闘はさらに厳しいものとなるだろう、覚悟してくれ。」

秋津はそう言って去っていった。

「4機落して浮かれるな、ということでしょうか?」

「いや、貴様に礼を言いたかったんだ。

柿沼一尉を、ベイルアウトさせたことだ。

あの人の言う「1機も失うな」は、一人の死者も出したくないということだ。」

救命ヘリのスポットライトが照らし出した、鼻血を海に垂れ流す、柿沼一尉の姿。

写真をしっかり、握り締めていた。

そして、敵パイロットの姿も…

捕虜救出!だが…

新波副長は、隊員たちに順次食事をとるよう指示した。

2人の命が助かる。

厳しい戦いの中の、束の間の喜びがあった。

「我々が、敵パイロットを救助したことが、東亜連邦に伝わればいいのだが…」

いぶき甲板に救助ヘリが到着し、二人のパイロットが医務室に搬送されようとしている。

東亜連邦のパイロットが、気が付いたようだ。

「アルケルヨ…」

「だめです、寝ていてください」

彼の目に、同じように担架で運ばれる柿沼一尉と、担架を持つ隊員が太股にたずされている、拳銃が目に入った。

とっさに体が動いた。

「おい!やめろ」

揉み合い、奪い合い、そして…

いぶきに、1発、その不協和音が轟いた。

ただならぬものを感じた本多は、ビデオカメラを持って、走り出した。

「柿沼!」

銃を奪われた隊員は、もう、自分を制御ができなかった。

「この野郎!」

「撃つな!」

秋津の手が銃を包んだ。

「艦長、コイツは柿沼一尉を…

助かったんだ、生きていたんだ!なのに!」

「彼はもう銃を持っていない。

撃ってはいけない。」

そして、混乱するパイロットに向かって、腰をかがめ、語りかける。

「海は冷たかっただろう…

今日はクリスマスイブだ。

君たちの国ではどうか知らないが、日本では信じる神に関わりなく、祈っている

今日1日くらいは、せめて、穏やかでありたいと…」

パイロットは、すすり泣いていた

「彼に何か、温かいものを飲ませてやれ」

いぶきの甲板は、静まっていた。

どうしようもない感情と、どうしようもない事。

自衛官として、戦いの中で、今、自分が今すべきことは何か。

そう、自衛官なんだ。柿沼一尉も、俺達も。

柿沼一尉は、最後まで任務を全うし、自衛官として、人間として生き抜いた。

彼の姿を胸に宿し、各自、持ち場に戻っていくのだった。

初島へ、向かうのだ。

追い込まれたいぶき。ハードルを越えたのは‥

12月24日、4時15分

イーグルアイからいぶきへ、敵空母からミグ24機が飛び立ったとの報せが入った。

今度は、対艦ミサイルを撃ってくる。

アルバトロス隊は整備中で飛べない。

秋津は、スパロー隊、ピジョン隊の計10機に、出撃準備を指令した。

出撃準備を見守る渕上群司令のもとに、迫水が飛び込んで来る。

「私に、行かせてください

敵機のクセはわかっています」

「いいだろう。だが、かたき討ちは考えるな。

目が曇るぞ」

いぶきCICに警報が鳴り響く。

敵潜水艦から魚雷が8本、発射された。

「はやしおの離脱が痛かったな

CICより艦橋、副長、対戦戦闘の指揮を頼む」

新波はデコイの発射、ジグザグ航行を指示。

続いて、あしたかに迎撃を指示し、あしたかはアスロックで迎え撃った。

アスロックは海に潜り、敵魚雷8本のうち6本を沈めるも、2本が抜けてきた。

2本はミサイルだった。

海から空中に飛び上がり、いぶきに襲い掛かる。

いぶきはシウスで対応し、これを打ち落とすが、破片が滑走路に散らばった。

不吉な金属音がCICにも響く。

戦闘機はしばらく飛び立てない。

だが、いち早く飛び立っていた一機があった。

自ら志願した、迫水機である。

もっとも、1機のみでは24機と戦えない。

秋津は迫水に、敵空母に超低空で近づき、せめて後続機が飛べないよう、甲板に穴をあけてくるよう指示を出した。

「迫水、くれぐれもホップアップはするな」

ミサイルを撃ちながら来襲する、24機のミグ。

あしたか、いそかぜの2艦のイージス艦が、これらを迎え撃つ。

攻撃を担うのは、あしたかを操る、鉄壁の浦田一佐。

「対空戦闘。一機残らず片づけるぞ。

目標、敵攻撃機。

攻撃開始!」

防御は、ナニワの防人、いそかぜを操る浮舟一佐である。

「本艦の目標、あしたかが撃ち漏らした敵機及びミサイル。

全部まとめて、いてまえ!」

絶対に引かない。

絶対に引いてはいけない線がある。

数では劣る第五護衛隊群は、全知全能と、全てのリソースを駆使して、その差を埋めていく。

ここで、敵空母グルシャといぶきの間に、5隻の潜水艦が現れた。

新波はただちに対潜戦闘に入る。

「あしたか、いそかぜ、対潜戦闘用意!」

敵潜水艦は、一斉に魚雷を10本、発射してきた。

「マスカー開始、デコイ発射準備!」

それはいぶきに向かってくる。

5本…

5本?

潜水艦が放った10本の魚雷のうち、5本はいぶきに、そして残り5本はグルシャに向かっている…

秋津は感づいた。

「迫水、聞こえるか?

攻撃中止だ。ただちに戦線を離脱しろ!」

「えっ…了解…」

いぶき、そしてグルシャに迫る魚雷は、彼らの手前で、全て自爆した。

秋津にかすかに、笑みが浮かぶ。

5隻の潜水艦は浮上し、国連旗と、各国の国旗を掲げていた。

いぶきを追っていた、国連常任理事国5か国の潜水艦だった。

「これ以上の戦闘拡大は国連として許さない」

彼らのメッセージだった。

グルシャ、そして敵機は現場から散開していく。

垂水は、胸をなでおろした。

「間に合ったか…」

いぶき船橋に、朝日が差し込んでくる。

それぞれの旗を掲げた5隻の潜水艦は、真新しい光のシャワーを浴びて、それぞれの色で輝いている。

秋津はまぶしそうに、その姿を見ながら、つぶやいた。

「俺達だけじゃない。

ハードルを、超えたのは」

東亜連邦の漁船団は初島から撤退し、巡視船くろしおの乗組員も無事解放された。

常任理事国5か国が同時に動き、極地戦闘の幕を閉じたのは、史上初めての事だった。

昼夜を徹して交渉に奔走した外務省内部の官僚たちであったが、疲れは見えなかった。

「これからですね。どこまで相手の非を明らかにできるかどうか…」

沢崎アジア大洋州局局長はそれを戒める。

「いや、真の外交とは、双方の国にとっての、実利的な幸福の追求だ。

慎重にいくぞ!」

そういって襟を正した部下を見送った後、沢崎はパソコンの画面を見る。

「物事は措定外の連続で動くものだが…」

そこには、動画再生サイトでバズっている、あの、秋津の姿が映っていた。

執務室から朝日を眺める、垂水と石渡。

「恋人のクリスマスプレゼントを何にしようか、1か月も悩む。

弁当はいつものタコさんウインナーで、ちょっと飽きている

マイホームは、一生に一度の大勝負。

石渡。

おれたちが守るのは、そういう、人々のささやかな日常だよな」

「ああ」

「なあ、石渡。」

「何だ」

「もう3年やってもいいか?」

いぶき船橋では、秋津が新波に、初島で待つろしお乗組員のために、あたたかい握り飯とみそ汁を用意するよう指示していた。

「私のものも」

「いつものように、艦長室に運ばせます」

「いや、食堂で、みんなで食べたい。」

いじわるく新波が聞き返す。

「はっ…戦闘機乗りの、あなたが?」

「…

海の話を…聞かせてほしい」

かず考察

人は、自分の利益を図ろうとする生き物である。

だから、人は、自分を活かしてくれるものを、攻撃できない

国も同じ。

だから、侵略や戦争を防ぐためには、そいつの主権を尊重し友好関係を築くことが、自国の利益になると思わせるのが一番である。

もっとも、利益を図る手段には、搾取という、力ある者にとって安易な手段もあるから、それに流れてしまうこともある。

しかし、それは短期的な快楽をもたらすドラッグのようなもので、長期的に見れば不利益になる。

資源を食いつぶしていく資本主義先進国の経済が行き詰まり、人が離れて孤独にさいなまれ、自然が牙をむいている現状が、それを物語っている。

ただ生きるだけでなく、幸福に生きないと、生きる意味がない。

自国の利益を最大化するには、相互互恵関係を築くのが一番だと、気づかせるのが、主権国家としての責任である。

それは、相手を滅ぼすことではなく、必要最小限度の力でNOをいうことである(拒否的抑止)。

だが、そもそも拒否する力がないと、それを上回る力で有無を言わさず食われてしまう。

なので、自国の主権を維持するために、一定程度の軍備を備えるのは必然である。

だが、それを超えていたずらに軍拡を進め、相手を上回ろうとすれば、相手に身の危険を感じさせ、際限のない軍拡競争に陥る。

それは、もはや拒否的抑止とはいえず、「いうことを効かないと滅ぼすぞ」という脅し(報復的抑止)であり、心と頭のない指導者の出現により、強力な「間違い」を引き起こす。

過去の間違いを乗り越えた国際社会、その一員たる主権国家が採るべき道は、一時的に拒否しうる最小限度の実力備えつつ、それ以上の侵略から身を守るため、世界政府に平和を維持する権限を委譲する道である。

かず
かず
これは、国家における社会契約論・法の支配の世界バージョンである。

お互いの利益最大化のために、ルールを決めて、契約を結ぶのである。

だが、国連が機能してないことは、前編で述べた通りである。

だから、このような現実を直視したうえ、上記の理想を実現する方法を考えなくてはならない。

これについて、俺は以下の3つを提案する。

  1. 専守防衛の魂
  2. 高度な戦闘技術
  3. 表現の自由の最大限の保障

まず一つ目は、専守防衛の魂である。

上述のように、「他国を侵害しないよ」、そして「侵害されれば必要最小限でNOをいうぞ」という一貫した態度を貫くことが、国際社会と協調して持続的な発展を遂げ、ピンチに支援を受けるための、絶対条件である。

これが、すべての基礎となる。

二つ目は、高度な戦闘技術である。

相手の存立を脅かさない程度の限定された物的防衛資源の中で、戦闘技術を磨き、利益を最大化する真の戦いとはこういうものだと見せつけて、畏怖の念を起こすのである。

本当の強さとは、資源の多寡ではない。

それは、運の要素であり、たまたまそれを多く得れていたとしても、尊敬に値しない。

真の強さとは、自分に与えられたカードを、上手く使いこなせる力なのである。

かず
かず
本作での、はやしおの精密体当たりや、いそかぜのピンポイント射撃は胸アツだったな!

防衛費の増大を判断するうえでは、自衛隊の装備増強より先に、そもそも、それについていける練度を向上させているのかという点が、まず検証されるべきである。

まずは中身。それから外見であり、順番をまちがえてはいけない。

実際に使えない力には、意味がないのである。

本作の自衛官たちの練度には目を見張るものがあったが、あくまでこれはフィクションであり、理想論である。

神業と唸らせる域に可能な限り近づき、そしてそれを、必要ならば躊躇なく、相当な限度で用いて実際に行動することで、知らしめるべきである。

参考:

その真の強さを持った相手を、力で屈服しようという気持ちはなかなか起きないし、また実際においそれと屈服させることはできない。

仮にできたとしても卑怯者であり、国際社会からの信頼は得られず、孤立し、国益を損なう。

国益を損なうことは、国は、できないのである。

最後の三つ目は、表現の自由の最大限の保障である。

上のような意味での強さを持っていても、物量で圧倒してくる相手への、対策も考えておく必要がある。

本作では、本多が流した、秋津が敵パイロットを赦す場面が、世界中の人々の目に留まり、人を動かし、そして国連を動かすことになった。

本作のように国連がすんなり動くとは限らないが、国も、その集合体である国連も、それを支える人の支持がなければ存続できない。

今は、YOUTUBE等の個人が組織を上回る発信力を持つメディアがある。

それが制限されても、他の手段は探せばたくさんある。良心的な国も、メディアもある。

技術の進歩により、もう、人のつながりは断ち切れない。

それを味方につけ、縦横無尽に駆使することで、人を動かすことは可能である。

メディアを使って、

  • 世界の利益を最大化するというブレない魂を持つ侍が、
  • 練り上げられた技術を縦横無尽に駆使する姿

を、どんどん流す。

それに心打たれない人間はいない。

物量で無理やりそれをつぶそうとしても、自然、国際世論に反することだから、そのパワーは大きくない。

わが国の存立は、表現の自由を最終兵器として、黒澤明の『七人の侍』のようにして、人を動かし、国際世論を味方につけることで図られるべきである。

この点について、緊急事態条項スパイ防止法により、表現の自由・報道の自由・知る権利が侵害される危険は、大いに認識されるべきである。

まず、すでに安倍により成立させられてしまっている、特定秘密保護法の問題点について、みてみよう。

■「特定秘密保護法(2013年12月成立)」については弁護士会も猛反発、何が「特定秘密」にあたるのかも判断が難しかったように思うが?

公務員の情報漏えいや記者などが「特定秘密」を不当に入手したりした場合は、10年以下の懲役が科せられることになる。

気が付いたら同法違反で逮捕されることが起こり得るわけで、国民にとっては委縮効果が高い。

「特定秘密」の保護を理由に、国民の知る権利や報道の自由が制約されて情報公開に一定の網が掛けられる可能性もある。

政府にとって不都合な情報を「特定秘密」に指定して国民に知らされるべき情報を隠ぺいしたり、言論弾圧に利用されたりしないか、弁護士としては看過できない。

決して大げさな話ではなく、エスカレートすれば戦前の「治安維持法」のようになるおそれもある。

安倍首相は、よく「私を信じていただきたい」と発言した。

特定秘密保護法・共謀罪などの法案審議において問題点を指摘され、法律が「悪用」される場面を想定した質問を受けると「断じてそのようなことはしない。私を信じていただききたい」などと反論したものだ。

引用:『安倍1強』の7年8か月(3)さまざまな法制…戦後政策の大転換だったのか 弁護士はどう見た?藤本尚道弁護士(兵庫県弁護士会所属) ラジオ関西トピックス

表現の自由は、「戦闘になったとき、それ以上の拡大を防ぐ」だけでなく、「戦闘に至らないように止める」ためにも、要となるものである。

表現の自由は、他の人権に比して優越して保護される、スペシャル大事な人権であり、その制約が合理的であるか厳格に審査されなければならない(二重の基準論)。

その意味を、もう一度噛みしめるべきである。

かず
かず
作中で、スパイ防止法ができてたら、本多は何もしなかったかもしれない

 

このようにして、かずは、

  1. 専守防衛の魂、
  2. それに基づいた高度な戦闘技術、
  3. 表現の自由の最大限の保障

という3つの武器で、真に各国の利益を最大化する世界政府樹立まで、日本の主権を維持すべく、戦うべきと考える。

そして、それに勝ち続けることで、国際社会のリーダーになるべきである。

以上の構想は、以下紹介するの参考文献で、さらに精緻に理論化され、また具体化されるだろう。

参考文献

『防衛大学校で、戦争と安全保障をどう学んだか』(星野了俊・杉井敦)

「国大なりといえども、戦を好めば必ず滅ぶ。天下安らかなりといえども、戦を忘るれば必ず危うし」ー司馬穰苴(『司馬法』仁本篇第二節)

平和しか見ない者は、最も平和から遠ざかるという教訓だ。

第二次世界大戦を引き起こしたのは、国際社会が戦争に目を背けて安易な譲歩を重ねた結果、ナチスドイツに再軍備の時間を稼がせてしまったからである。

「痛み」に敏感になり、自国の主権と独立を守ることは、自国だけでなく、国際社会の平和と安全に対する責任でもある。

著者らは自衛隊の幹部を養成する防衛大学校を卒業後、自衛隊に入隊せず、防衛大学校での学びを発信する道を選んだ。

防衛大学校での学びは、「軍人」養成のための、ギチギチの戦術詰め込み教育なのだろうか?

そうではない。

防衛大学校の教育方針は、①広い視野、②科学的思考力、③豊かな人間性を育むというものであり、普通の大学と同じような、一般教養科目も、文系・理系の専門科目もある。

そのうえで、国際法、戦略、作戦、戦史、リーダーシップといった、部隊のかじ取りに必要な素養を養っていく。
これが、防衛大学校特有の「防衛学」というカリキュラムである。

このように、防衛大学校での学びは、部隊配備の前に大きな視点から国防を捉えることで、目先の利益や感情に振り回されず、真の国益とは何かを追求するという、将の素養である「深慮」(prudence)を育むもである。

一級のミリタリーとは、一級のシビリアンなのである。

本書は、そんな防衛大学校での必須科目である防衛学の基礎を、どこまでも平易に、体系的に紹介するものである。

そもそもなぜ、戦争は起こるのだろうか?

ここから、防衛学の論理を解き明かしてみよう。

心理学によると、人間は、自分の欲求や目標の達成が妨害されていると感じると、恨みや憎しみが蓄積され、やがて欲求不満状態に陥る。

その欲求不満は、人間を攻撃行動や破壊行動に走らせ、それによって不満状態から解放されると、人間は快感を覚える。

通常、その攻撃は、欲求不満にした対象に向かうが、時にはスケープゴートのようにして、直接関係のない方向に向けられることがある。

社会に生きる「普通」の大衆が、社会や経済が不安定であったり、身近な安全が脅かされたりしているときに、このような現象が高まり、急激なナショナリズムの姿になって、戦争という形で現れるのである。

かず
かず
太平洋戦争や、イラク戦争の発端を想起してみてほしい。

国は人で成り立っており、国民の支持がえられなれば、行動できない。

だから、国際金融資本とそれに操られた国が、戦争するために最も力を入れるのは、国民の心理を操作することなのである。

たしかに、わが国は、憲法9条により、自ら戦争をしない。

だが、相手は仕掛けてくる。

これを防ぐのが、「力」である。

とは、相手に対する影響力であり、ハードパワーとソフトパワーがある。

ハードパワーとは、飴(利益)を提示したり、ムチ(不利益)を提示することで、相手を一時的に戦争から遠ざけることである。

例としては、飴は経済援助、ムチは経済制裁や軍事力による威嚇である。

ハードパワーだけでは上手くないのは、北朝鮮に対する経済援助や経済制裁によっても核放棄に至らず、拉致被害者も帰ってこないことからわかる。

かず
かず
売春やレイプで、心まで奪えないのと同じだな

ハードパワーだけで戦争を抑止しようとしても、無限の不信感による軍拡争いで、国防費の食い物にされ、最悪、堪忍袋の緒が切れて大爆発が起こる、「安全保障のジレンマ」に陥るだけである。

これに対して、ソフトパワーとは、相手と長期的な相互互恵関係を築き、相手の内発的動機に働きかけることで、戦争を思いとどまらせる力である。

例えば、官民さまざまなレベルで交流を行い、文化・価値観の魅力といったもので相手の国民を感化したり、経済的に依存し合うことである。

これにより、相互に相手を「長期的になくてはならない存在」と認識し合うことになり、武力で破壊するという選択などない、と思わせるのである。

これを、「経済的相互確証破壊」という。

核兵器による戦争の抑止を目指した「相互確証破壊」に似せて表現されたものであるが、それと対になる考え方である。

ハードパワーが悪いとは言わない。

未熟な欲求不満に舐められると、奪いにくる。

それに甘んじるのは、上述した「国際社会の一員としての責任」そして、「自分自身への責任」を果たしているとはいえず、主権国家とはいえない。

しかし、仮にハードパワーだけで乗り切ったとしても、相互に信頼・尊敬の念を抱いた相互互恵関係が構築されていないと、面従腹背の上っ面の関係に留まり、真の利益は得られないのである。

ハードパワーは、上記のようなソフトパワーが醸成されるまでの、過渡的・一時的な対処療法とみなければならない。

そして、そのような、ハードパワーとソフトパワーを危機度に応じて適切に組み合わせ、自律的相互依存関係を構築していく力を、スマートパワー(賢い力)というのである。

そのスマートパワーを発揮し、相互互恵関係を拡大していく中で見えてくるのが、世界政府である。

その中では、公正な手続きの下、各国の利益を公平に確保するための平和維持活動が行われる。

そこでは、各国のハードパワーは無用の長物と化してくる。

そのような、世界規模での民主主義

不完全な人間が抱くには、あまりに高く、理想的に聞こえるかもしれない。

だが、民主主義とは、理想に向けて戦う中で、現実の中で知らず知らずに効いている、永遠に不完全なプロセスなのではないだろうか。

その困難な道の先を行き、リードする者が、新時代の勝者となる。

スマートパワーの競い合いこそ、真の「戦い」であり、この意味での戦いから逃げてはいけないのである。

かず
かず
ところで、緊急事態条項は‥

次の記事を待たれよ

『日本の安全保障』(加藤朗)

「日本を強い国に」というキャッチフレーズで、対米従属の道を突き進んだ、矛盾だらけの安保法体系。

それが、「安倍ドクトリン」である。

安倍の国民に対する、面従腹背の不自然な笑顔が、消えない歴史として刻まれている。

それに張り手をくらわすように、著者は本書で、アメリカにの暴力に巻き込まれず、なおかつその存在を活かして活きる、中級国家の平和の道はこうであると、真摯な思考を突き付ける。

それが、著者が主張する、理想主義者の狐の狡知、「平和大国ドクトリン」である。

加藤 朗(かとう あきら、1951年5月31日– )は、日本の国際政治学者。桜美林大学リベラルアーツ学群教授および国際学研究所所長。
専門は、国際政治学、安全保障論。
自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会呼びかけ人。

鳥取県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
会社勤務を経て同大学院政治学研究科修士課程に入学し吉村健蔵に師事。
在学中にはシカゴ大学大学院に留学。修士課程修了後、防衛庁防衛研究所に入所。
その間にスタンフォード大学フーバー研究所客員研究員、ハーバード大学国際問題研究所日米関係プログラム客員研究員、モンタナ州立大学マンスフィールド研究所客員研究員などを歴任。

1996年より桜美林大学国際学部に助教授として着任。2001年から教授を務める。
2007年度の国際学部の廃止に伴い現職。

最近では「加藤朗の目黒短信」というブログで自説を展開している。
法務省第5次出入国管理政策懇談会メンバー。平和安全保障研究所研究委員・防衛法学会理事を兼務。

引用:wiki

平和大国ドクトリンとは、憲法の理想である平和主義・国際協調主義を日本の国家アイデンティティとし、

  • 自衛隊およびにび米同盟による、明確な線を引く専守防衛と、
  • 民間の「9条部隊」による国際平和支援活動

を基本とする中級国家戦略である。

このように、ローカルな自衛権と、グローバルな国際平和活動というように、自衛権と国際協調主義を組織として分離するのが、平和大国ドクトリンの大きな特徴である。

そもそも国家の自衛権とは、個人の自然権としての自衛権を国家に譲渡・集約したものであり、「国家としての自然権」という概念はない。

そうであれば、あくまで自衛隊は国民の命と生活を守ることがその任務であると明確に意識しなければならない(人間の安全保障)。

そして、そのような人間を基軸とするスタンスを貫くことが、周辺国に安心を与え、自国他国関わらず国民の尊敬を集め、持続的に成長し、カントがいう「強力で啓蒙された民族」として、「国際社会で名誉ある地位を占め」る(憲法前文)ことになるのである。

したがって、国民の命を他国に捧ぐ危険性が大いにある集団的自衛権の行使は、極めて限定的なものとして、真に「それを行使しなければ国家が滅亡する」という事態に限定されなければならない。

具体的には、武力の行使は我が国の領海・領空・領土すなわち国土内において用いられるものでなければならず、例えば台湾戦争において、アメリカの要請(=命令)で中国にある基地を攻撃するようなことがあってはならない。

そんなことをすれば、中国は自分に向かってくる犬を容赦なく射殺して食べてしまうだろう。

また、武器売却と侵略の尻ぬぐいと化しているPKO活動に、武器を持った自衛隊が参加することは、諸外国に戦争屋と同類との認識を与え、威信・信頼・国益を損なうものである。

参考

国連PKOは、戦闘が現に確認されないだけにとどまらず、それが確実に今後も起きないといえる地域における、完全非武装の民間による平和回復運動としてなされるべきである。

民間部隊なんて可能か?と思われるかもしれないが、もう実際活動しているNGO団体がある。

例えば、

などが、非武装の文民による平和維持や住民の保護にあたっている。

このようにして、武力の行使は我が国の国土に限定すると明確に線を引きつつ、世界に出ていくのは+しか有り得ない民間とすることで、諸外国の日本に対する尊敬の念を集められる。

それは、武力でもかなわない、その基礎にある人の力を使うということである。

そうして著者は、日米同盟を基軸としてアジア・太平洋安全保障の連合体を作り、ゆくゆくは日本がリーダーシップを取って「本物の集団的安全保障」を実現するという青写真をわれわれの目に写す。

ところで、著者は、自衛隊の存在と以上のようなスタンスを憲法で明記することは、周辺諸国に脅威を与えるし、また不明確なままの方が抑止効果が高いという。

しかし、ここは賛成できない。

以上のような「絶対に侵略はしない」「世界の利益を最大化する」という信念を、日本の名刺・定款ともいえる憲法に書き込むことで、スムーズな関係構築内部の意思決定の統一が図られるのである。

憲法は国民への約束であると同時に、行動の予測可能性を与えると言う意味で、他国との約束でもある。

もっとも、集団的自衛権の行使に縛りをかえることは、アメリカが当然嫌がるものであり、反発が予想される。

短期的にはなんらかの不利益があるかもしれない。

しかし、真の利益とは、長期的に最大化し実現していくものなのである。

そして、国は、国益で動く。

グローバル安保で自衛隊が米軍に直接協力しないからといって、アジアへの要衝であるローカル安保で協力する限り、日米同盟が破綻することはない。

このようにして、日本が毅然と自国と国際社会の平和を維持するスタンスを取りつづければ、周辺諸国は日本への信頼と尊敬を抱き、最強の安全保障、友好関係が構築され、その環はどんどん拡大していく。

たしかに、今は、アメリカが世界規模の武力・影響力を持っているので、完全に独立独歩は難しく、一定程度の妥協は必要である。

だが、「一定程度」の線引きは必要である。

現実を踏まえた理想主義。

それは、知恵ある小動物として、欲望のグリズリーを手玉に取ることである。

そうして、人の力で、静かに侵略するのである。

それが、平和大国ドクトリンなのである。

作品へのリンク

映画版

漫画版

漫画版いぶきは、さらに垂水首相がカッコよく、「これぞ日本の首相!」って感じで描かれており、米国の奴隷の誰かさんに見せてやりたい。

また、映画版でも体当たり作戦で活躍した、滝一佐率いる潜水艦の戦いが、さらに壮大に繰り広げられる。

陸自の特殊作戦群や、第一空挺団との連携も、胸アツ。

ラストも、①専守防衛の魂と②高度な戦闘技術と③表現の自由を駆使するという本質は変わらないものの、中国機を●●●●させるという内容になっており、おもしろい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)