おっす!かずだ!
本記事では、前編を踏まえ、
- 法適用の結果、正義が実現されればそれでいいと思えるが、なぜ一般的確実性の顔色をうかがわなければならないのかについて、民主主義的観点から理由付けを補強する。
- 個人の尊重と平等が保障された新憲法の下で、我々はどのような家庭と人格を築いていくことが期待されているのか述べる。
前編で学んだ法解釈の手法と、現行民法の基礎にある考え方を、根っこから理解しアハ体験ができる内容となっているので、ぜひ最後まで学んでもらいたい。
前編をまだ読んでない方はこちら↓
目次
『家庭生活の民主化』
我妻先生が学会の出席のために欧米を訪れた際、日本の家族と欧米の家族との間で、以下の相違がみられたという。
すなわち、日本は権威による支配であり、対して欧米は協力による秩序である。
日本の夫婦は「主従」の愛
「男子厨房に近づかず」という言葉があるように、日本の夫は台所に近づかない。
料理はもっぱら妻の職分であり、男子が台所に近づくのは卑しいことで、夫は仕事で疲れているんだから、休んでいてもらうべし、という秩序がある。
また、来客があったとき、妻が一緒にでていって、お客さんとお話したりはせず、料理を運んだりサポートに回る。
日本の夫婦の愛は、妻は夫を家長として立て、夫は妻を責任をもって養うという、主従関係に基づく結合であるといえる。
このような価値観に基づき、明治憲法下の日本では、婚姻費用は夫が負担するとされていた。
妻に財産がある場合でも、夫がこれを管理して収益を収め、妻を食わせていく。
これでは、妻はどこまでも夫のすねをかじることになってしまい、独立の人格として保護されにくい。
上下関係がある封建的夫婦関係だと、心無い夫によって女性がどんなみじめな目に遭うか、以下の映画「西鶴一代女(無料)」を見るとわかる。
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欧米の夫婦の「平等」な愛
他方、欧米の夫は、キッチンに入っていって、妻と一緒に料理にし、一緒に食べる。
愛しあっているから、片時も離れたくないのだ。
また、友人を家に呼ぶときも、奥さんが中心となって話をして、一緒に食べたり飲んだりする。
新憲法下の日本~夫婦別産制の下での実質的平等~
戦後の新憲法の下では、欧米式の平等な愛という価値観を受け入れ、これを夫婦関係の結合の根拠とすることを宣言した。
また、そのような平等の理念に基づき、夫婦の財産関係を規律した。
●憲法第24条
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
(後段略)
- ●民法第760条
- 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
もっとも、夫が妻に、「民法が変わった。夫婦平等だから、婚姻費用を出せ」といっても、実質を見ると、妻は収入・財産がないことが少なくないから不可能であり、「やはりお前は俺のすねをかじっているのだね」ということになってしまう。
そこで、婚姻中夫婦の一方が得た財産を、すべて共有とする案も提案された。
しかし、そうなると、たとえば、夫が製造業を営んでいる場合は、材料や製品が妻と共有になり、その処分には妻の同意が必要となるなど、法律関係が複雑になる。
そこで、民法は、夫婦別産制を幹にして共有財産を限定しつつ(762条)、「配偶者の内助の功」を、離婚時の財産分与(768条)や、相続における配偶者の相続分(900条1号)で調整するという体裁にしたのである。
●762条(夫婦間における財産の帰属)
① 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
② 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
●768条(財産分与)
➀ 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
② 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
③ 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
●900条(法定相続分)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
このように、新憲法下の民法の財産関係に関する規定は、夫婦間の(実質的的)平等を基礎に構築されている。
それを推して考えると、財産関係以外でも、この実質的平等が要請されているといえる。
すなわち、男女には生物学的な違いがある以上、その性差に基づく分業は合理的であり、従来通り、夫は働き、妻は家庭で夫を支えるという形態もあるかもしれない。
しかし、それは上下関係ではなく、人格として独立した者同士の対等の愛情を媒介とした繋がりなのである。
これは、夫婦関係だけでなく、次に述べる親子関係にもあてはまる。
新憲法下の親子関係~子をして自分の道を歩かしめよ~
戦前の日本家族における子は、家長の「所有物」としての側面を少なからず有していた。
親が、子を道連れにして心中したり、売春させたりすることが横行していた。
しかし、新憲法の下では、子供は親とは別個独立の人格を有する、民主主義社会の構成員として、尊重されなければならない。
たしかに、親には親権として、監護・教育権(820条)、懲戒権(822条)が認められているが、これは上述の意味における「子供の利益のため」に行使されるものでなければならないという制約をはらんだ、義務でもあるのである。
具体的には、子供がやろうとしていることや進路・結婚について、いちいち指示するのではなく、子が個性を十分発揮できるようにしておき、それを援助する。
ただ、子供が取返しがつかないような所に道を踏み外さないように、「らち」を越えないように、見守る。
このバランス感覚を、書籍等、他者の体験談で補充し磨いていく必要がある。
参考文献で挙げた、「料理大好き小学生がフランスの台所で教わったこと」がおすすめだ。
このような自由な環境の中で、子は、自分の考えで物事を判断し、もし失敗したら自分で責任を負ってそれに打ち勝っていく力が身についていく。
それは、いたずらに権威に盲従することなく、自らの判断と責任において、正しいと思う事を選択していく自主的精神であり、民主主義社会において国民が備えているべき資質である。
親は、子が心配なのはよくわかる。
しかし、新憲法のなかで親には、子に対して動物的な愛ばかりではなく、人間としての理性的な愛を与えることが要請されているのだ。
まとめ~法的思考力は民主主義社会の構成員の全員に必要な能力~
民主主義は、国民一人一人の主権者としての自覚と責任を基礎に置き、権力を創出し、コントロールしようとするものである。
法は、いやいやながら従うのではなく、お互いに注意しあって、慎み合って、自主的に維持していくものなのである。
そこから、前の記事で書いた、法適用においては具体的妥当性ばかりではなく、一般的確実性を尊重すべしとの要請がでてくるのである。
このような自己実現・自己統治の気質は、一朝一夕では身につかないから、一番身近な家庭生活から育み、骨の髄に染み込ませていく必要がある。
家庭は、国家の縮小版である。
今の日本人、そしてあなたは、我妻先生がいう、「いたずらに権威に盲従することなく、自らの判断と責任において、正しいと思う事を選択していく自主的精神」を備えているかな。
このブログが、それを広め、育むことの一助となればうれしい。
参考文献
『法律における理窟と人情』 我妻栄著
本記事で、この書籍のポイントは抑えられたと思うが、実際に本書にあたることで、先生の人格そのものを吸収していくことができる。
自分で本を読むことの意義ってここにある。
『人情ヨーロッパ』 たかのてるこ著
欧州の人々の、政治的意識の高さがよくわかる。
日本だと、女の子と政治の話をするのは自殺行為に等しい(多くの子はそんなことよりもっと感覚的な話がすき)。
しかし、たかのさんの旅で出会う女の子は、「なんでフクシマがあって原発落されてんのにまだ原発あんの?」など核心をズバッとつく政治的センスをもっている。
また、1~2か月のバカンスがあったり、死刑なんてもってのほか、絶対的終身刑も問題視されていたり、ヨーロッパの人々の個人尊重・民主主義の成熟度に驚く。
自分自身、性犯罪やパワハラの被害者である著者は、そんな人権意識の高い人々に旅で多く触れたからこそ、
- 「ダメな自分をひっくるめて受け入れる」
- 「生まれ育った環境が、その人を形作る」
- 「死んでいい人なんて、この世には一人もいない」
といった「許し」の境地に達したのだろう。
「1国1ミッション」の波乱万丈の旅行記それ自体おもしろいが、日本が民主主義後進国であることがよくわかる、視野を広げてくれる本。
『料理大好き小学生がフランスの台所で教わったこと』 ケイタ著
自由に育つ子供がいかに力強くなるのかがわかる。
ケイタは、小さい頃からお母さんが料理をするのをみて、マネしたがっていた。
ここで、お母さんがエライのが、「危ないから」と止めるのではなく、包丁を持たせてやらせたこと。
ケイタは小さい切り傷を作りながらも、料理の面白さに目覚め、自分で包丁を作ったりしたあげく、ネットで金を集め、とうとうフランスに料理修行に向かう。
「失敗することもあるけど、またやってみればいい」
子供が本来持つ、ワイルドな底力みたいなものを感じた。
前頁カラー。
意外にも素朴でヘルシーなフランス料理に、食欲がそそられる。
ケイタは、今、自分で家を建てているという。
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