(2022年7月30日更新:参考文献『モサド、その真実』落合信彦)
オス!かずだ!
と思っている君、孫氏の兵法(リンクはwikipedia)を読んだことはあるかい?
孫氏の兵法って、あの三国志の曹操や、ソフトバンクの孫さん、Microsoftのビルゲイツの愛読書だったりして、すごい有名だから、ちょっとは知っていたり、触れたことがある人が多いのではないだろうか。
だけど、
- 戦いはできるだけ避ければいいんだよね。
- 風林火山で動くんだ。武田信玄!
- 自分と相手を知ることが大切。
というように、有名な言葉を断片的にしか知らない人が多いと思う。
しかし、それら個別的な教訓による学びを得るだけにとどまっていては非常にもったいない。
それらひっくるめた、勝負の本質と、勝負の始まりから終わりまでの論理的な流れを把握しないと、本当に理解したことにならず、使いこなすことができない。
そして、理解とは、本質とそこから導かれる論理構造を把握していることである(抽象と具体の往復ができるようになること)
そして、理解ができると、このオカタく当たり前の事を言っただけと思われていた書物が、実は超有益でおもしろく、奥が深いものであると気づく。
今日は、この魅力溢れる勝者のバイブル、孫氏の兵法を一言で切り、また俺のお家芸の図を用いた論理的な説明でアハ体験をしていただこう。
俺は今、対弁護士本人訴訟を申立てていたり、司法試験に挑戦しているから、勝負に勝つ法則って非常に興味があり、この本にたどり着いた。
しかし、自分を活かすために、どうしても闘わなければいけないときが、人生にはある。もう、そこから逃げない。
みなさんにも、今回の俺のざっくり一言と論理的説明で、本書の神髄の一辺でも垣間見てもらえればと思う。
まず、ざっくり一言から。
目次
目的と手段をはっきり分ける
本書の主張の核心は、
戦いによって得られる利益を明確にし、それだけにこだわれ。
この一言だ。
君は、
- 何が欲しくて争っている(争おうとしている)?
- それってホントに必要なの?
- 闘いっていろいろ失うものもあるけど、それを失ってもどうしても欲しいものなの?
- それを得るために、もっとコスパがいい方法はないの?
これらを常に、徹底的に考え抜くことが必要なのだ。
そして、誤解があってはならないのだが、これは戦わなければそれで良いという話ではない。
自分が本当に必要なものためには、戦いという手段をもってしても断固行動するという力強さも含む考え方でもある。
必要な利益を得るために、手段を選ばない。
そのためには、
- いくら戦いたくても「戦わない」と決断をしなければならないときもあるし、
- 反対にいくら戦いたくなくても「戦う」と決断しなければならないときがある。
そして、その利益とは、自分だけの利益ではなく、国・主君・民の利益である。
勝利者には、冷徹な目的達成志向と、全てを包み込む大きな愛が同居している。
その姿勢から、以下のような、勝利までの道筋が導かれるのだ。
勝利の論理
孫氏の兵法は、全13篇からなる。
これらの編って、それぞれが上記本質と関連するだけでなく、それぞれの篇相互の関係も、闘いの始まりから終わりまで時間的、論理的な体系で繋がっているのだ。
そして、ここまで押さえられている人は少ない。
そのような論理を、以下のようにバッチリかわいく図示した。
この図を適宜みつつ、これからの各篇の説明を読んでもらえると理解が楽だろう。
1 計篇
戦う事って、負けたときに不利益がデカい(兵とは国の大事なり)。
だから、勝てる闘いしかしてはいけない。
勝てるか勝てないかの判断っていうのは、相手の力と自分の力どっちが強いかでほぼ決まる(算大きは勝ち、算少なきは敗る)。運とかの不確定な要素に頼ってはいけない。
だから、戦う前に、相手の力と自分の力を両方ちゃんと知って、比較するプロセスを経る必要がある。
2 作戦篇
戦う事って、非常にコストがかかる。
だから、その闘いにおける経費(デメリット)をちゃんと知っておかなければ、たとえ勝ったとしても費用倒れで終わるということが起きかねない。
だから、その経費を最小限にする方法を考え抜こう。
これは、戦いの最中で、敵からその経費に相当する利益を奪っていくことが最も効率がよい(智将は務めて敵に食む)。
3 謀攻篇
上記のように、戦いって負けたときの不利益がデカかったり、コストがめっちゃかかったりする。
だから、戦いによって得られるその利益って、他のもっと安全でコスパが良い方法で得られないのか、考えないといけない(戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり)。
自分が強ければ、相手は戦いに持ち込もうとしないからな。
自分を鍛えて力をつけておくことって、それを使うかどうかにかかわらず、謀攻という面からも大事なのだ。
4 形篇
戦いに負けることで大きな不利益を被る可能性がある以上、負ける危険を冒して利益を取りに行くよりも、鉄壁の守備で負ける可能性を無くしたうえで、敵の態勢を崩し、そのタイミングで攻めるという、守備重視の姿勢が大事である(勝兵は先ず勝ちてしかる後に戦う)。
5 勢篇
上記のように、勝ちパターンってのは、鉄壁の守備で負けない態勢(正)を創り出してから、敵の態勢を崩し(奇)、そのタイミングで一気に攻めて勝つというものである(戦いは正をもって行い、奇をもって勝つ)。
では、
- 敵の態勢を崩すには、どうすればいいか。
- また、そのチャンスを逃がさずに一気に力を結集させるにはどうすればいいか。
①は、敵をメリット・デメリットで操り不利な状況に導くという方法をとる。
つまり、敵にとって、今の態勢とは違う態勢をとるメリットを示すか、今のままでいるデメリットを示せばよい。
人は、利害関係で動くから、それらをエサにして、不利な状況に導くのだ。
このようにして、相手を不利な状況に陥らせたことにより、相対的に自分に有利な状況を生み出すことができている。
そして、②ここで仲間に、「このタイミングだよ」って明確に指示してくれれば、「ここでやるぜ」と一気に力を結集できる(善く戦うものは、その勢を険にする)
6 虚実篇
このようにして、戦うときは自分に有利な状況で(実)、敵の不利な状況(虚)を突ける状況を作り出しておかなければならない。
これには、上記のように、敵をメリット・デメリットで操るという方法を取りつつ、自分の情報は相手から秘匿して、敵から操られないようにしなければならない(善く戦う者は、人を致すも人に致されず)。
7 軍争篇
敵を不利な状況に陥れるにあたり、「不利」ってそもそも何か考えてみよう。
それは、①「天地」②「人」の各法則に反する状態である。
すなわち、不利とは、
- 地理的上不利な状況にあること(例えば、低いところから高いところに攻め上がることなど)
- 人の意識が弱いタイミングやそのような箇所を突かれること(例えば、疲れたタイミングで攻められること、進行方向の後ろから攻められることなど)
である。
たとえ現在、不運にも自分がそのような不利な状況にあったとしても、勢篇や虚実篇で言ったような手法により敵を操れば、ピンチをチャンスに、自分に有利な状況を自分で作り出すことが可能である(迂をもって直となし、患いをもって利となす)。
8 九変篇
このように、メリット・デメリットの一方の提示により敵を操って不利な状況に陥れたり、逆に敵からのそのような提示に目を曇らされずに、有利な状況を作り出すことができる能力ってなんだろうか?
これが、勝利者に必要な人格的特性であることから問題となる。
…
…
一つの物事には、絶対にメリット・デメリットが両方存在する。
だから、上記の答えは、一つの物事のメリット・デメリットを両方とも公平に鋭く見抜いて、利害を冷静に比較したうえでどのような行動をとるべきか判断できる、「広い視野」である(智者の慮は、必ず利害に雑う)。
物ごとを多角的にみる広い視野、大きな器を持っていることって、銀座一流クラブに訪れるような成功者・雑談上手の特徴でもあった↓。
人格的に共通するところがあるのだろう。
このような人格を涵養してきたがどうかが、不利な状況に陥る敗者と、有利な状況を創り出す勝者とを分けるのである。
一夜漬けではない、日々の小さな行動で培ってきたスタンスがものをいうのだな。
9 行軍篇
来る決戦に向けて、上記のような広い視野をもって、常に周りの状況や敵の様子を観察し、自分が有利になる状況を追究し続ける姿勢が大事である。
他方、来るべきチャンスに備え、自分の仲間にも目を向けて、チームを一つにまとめ上げていくチームマネジメントも必要である。
これは、
- 仲間と温かなコミュニケーションをとって人間関係を良好に保ち、
- また、ルールに反してやってはいけないことをした者を厳正に処罰する
といったように、優しさと厳しさをバランス良く発揮することで実現される(之を合するに交をもってし、之を斉しくするには武をもってする)。
三国志の寛雄、曹操について、彼が自分が作った法に自分で背いてしまったとき、自分に対しても法の執行を行ったエピソードがある。
彼が孫氏の兵法に忠実に動いていたことがわかるよ。
下記のブログ記事を参照↓
10 地形篇
このようにして、①自分が客観的状況において有利となり、かつ②自分の戦闘力の充実が敵を上回った場合、勝利に至る可能性が高いから、開戦に踏み切ることが許される。
反対に、この条件が満たされない場合、勝利に至る可能性が低いから、断固開戦を思いとどまらなければならない。
このように、戦闘をするか否かの判断要素は、勝利するか否かという結果だけであり、要はみんなの利益に繋がるかということである。
だから、
- 個人の名誉心を満たすために戦おうとしたり、
- 戦闘が恐いから戦いを避けようとする
など、私情を持ち込んではならない(進みて名を求めず、退きて罪を避けず)。
私利私欲に目がくらんだときに、視野が狭まり、すべての計画が破綻する。
勝利者は、国・主君・民を包み込むでっかい愛情と、それを貫く自制心を持っているのだ。
勝利者が持つ自分を超えたでっかい愛は、行軍編で述べた、「優しさと厳しさを兼ね備えたバランスの取れた精神」っていう臨機応変な精神と繋がる。
これって、『7つの習慣』の『第4の習慣「win-win」を考える』で述べられている、
- 相手への思いやり
- 自分を主張する勇気
という関係と似ている。
【本当の優しさ】
優しいあなたは、相手を優先して自分を抑えでしまう。
だか、
・あなた自身も相手と同じで、大切な存在だし、
・あなたの後ろには、「あなたが守るべき人」がいる。
・また、相手に「やりすぎ」を気づいてもらい、成長させてあげる必要もある本当の優しさ、愛には、勇気を伴う
— ウエノ@法務博士ナンパ師 (@uenotubuyaki) February 3, 2022
11 九地篇
このようにして、自分を敵よりも有利な状況に整えあげ、戦うことを決断した場合、最後の仕上げとして、退路を断つ必要がある。
すなわち、勝たなければもはや生き残ることができない窮地に、あえて自分を追い込むのである。
人は、それをやる必要性を痛感したときに、本当のパワーを発揮する。
だから、命を救うために、あえて命が危ぶまれる状況をマネジメントするのだ(衆は害に陥りて、しなる後に能く敗をなす)。
そうすることで、人は、いかなる危険も省みず全力を発揮する、勇敢な戦闘マシーンへと変貌をとげるのである。
だから反対に、孫氏は勝つときでも、敵を追い詰め過ぎず、ほどほどのところで切り上げろとも言う。
噛まれるからだ。
12用間篇
以上のように、戦いに勝つには、相手の状況を知り、相手をいかに動かして自分に有利な状況を創り出すかということが非常に大切だ。
戦う前の計略段階で、敵の戦力を知っていれば、勝てるどうかを判断できるし(計篇)、敵の状況がわかれば、戦い以外でその利益を得る方法が見つかるかもしれない(謀攻篇)。
また、自分に有利な状況を作る準備段階で、敵がどのようなメリット・デメリットで動くのかわかれば、その提示により敵を動かして不利な状況に陥れることができる(虚実篇以下)。
このように、敵を知ることって勝利に必要不可欠なのだが、これに重要な役割を否うのが、間者(スパイ)である。
スパイは、敵の信用を得ることができれば、
- 敵の奥深くに侵入し、重要な情報を得られるし、
- そのスパイが敵を説得して動かしたりもすることができる。
スパイを上手く使える奴が、勝利者なのである(賢将のみ、能く上智をもって間者となし)。
だから、スパイを使っての諜報をサボるやつは、自分の利益を捨てているのと同じである(敵の情を知らざる者は、不尽の至りなり)。
では、スパイを上手く使うにはどうすればいいか。
スパイってのは、常に死と隣り合わせの危険な任務である。
バレれば即殺されたり拷問されるからな。
だから、勝利者には、自分のために命を投げ出して危険な任務を引き受けてくれるような「強い信頼関係」を人と築くことのできる、人間関係構築能力・人たらし能力(コミュニケーション能力)が必要なのだ。
そして、そのような関係を維持しつつけるために、スパイへのご褒美や扱いはもっとも厚く丁寧にしなければならない(間は厚くせざるべからざるなり)。
13 火攻篇
このようにして、自分に有利な状況を作りだすことができれば、勝利は約束されたも同然である。
だが、その勝利の仕方も考える必要がある。
だらだら長く戦って、コストをだらだらかけ続けるのは愚の骨頂だ。
そもそも、戦う意味って、それにより利益が得られるからであった。
だったら、その利益を最大化するために、もっともコストが少なくて済む勝利の仕方を模索しなければならない。
もっともコスパが良い攻め方は、火攻めである(火をもって攻をたすくるは明なり)。
火は、時期を見極めれば短時間で燃え広がりその威力は強いし、火をつけるだけだから簡単で、費用を安く抑えることができる。
速戦速勝、最後まで戦いの目的を見失ってはいけないのである。
本質は、一気に力を発揮しして、一発で勝負を決めよということだ。コストを最小限にするためにね。
風林火山の「火」には、実はこういう深い意味があったのだ。
冒頭で言った、理解とは、抽象的な本質と具体的な手法の往復ができることである、という意味がわかってもらえたかな?
あとがき
いかがだっただろうか。
勝者が持っている、ロボットのような冷徹な目的志向性が、実は愛という極めて人間的な精神に支えられたものであることがわかってもらえたのではないか。
勝者って、一般人から理解されないことが多いが、どこまでもお人好しな「アホ」だからなんだな。
【敵を殺す者は怒なり。敵の貨を取る者は利なり】
敵を大切にし、自分の力に変えよ、という孫子の教え。
敵を大きな愛で包み込めば、
・自分の味方となり助けてくれる
・人の尊さが周囲に伝わり、温かい雰囲気の世の中になる
みんで一緒に勝とう
— ウエノ@法務博士ナンパ師 (@uenotubuyaki) February 6, 2022
参考文献紹介
『孫氏』(講談社学術文庫) 浅野裕一
本記事のメイン参考文献。
孫氏の言葉を、シンプルかつわかりやすく訳してくれている。
そこだけでも十分理解は進むのだが、秀逸なのは、訳者浅野氏1の解説。
抽象的な孫氏の言葉を、実際に存在した名将の戦いを引き合いに出して説明してくれている。
筆者の孫氏の真意を追究する真摯な姿勢とその実力がよくわかる。
孫氏の言葉を真に理解したいなら、読んでおくべきだ。
『蒼天航路』(1) (モーニングコミックス) Kindle版 李學仁
今の孫氏の兵法って、あの三国志の英雄、曹操が注釈をつけたものなんだって。
孫氏の兵法は、曹操の愛読書であり、彼の人格と人生を導いた指導書だよ。
このマンガは、三国志の中で曹操にスポットライトをあて、その幼少期から晩年までのドラマティックな人生を描いたもの。
このマンガを読めば、勝者曹操の孫氏の兵法を具現化したような生き方に、ワクワクドキドキ、楽しく触れられる。
曹操といえば、目的のために手段を選ばない冷たい男として、悪役の代名詞にもなってしまった。
だけど、孫氏の合理的思考を受け継いだからこそ、能力主義の人材抜擢や変幻自裁の戦闘により群雄割拠の三国時代を勝ち抜き、魏国という後の中華の礎を築き、人生を切り開いていけたのだ。
本書は、そのような曹操の「冷た」の中に、実は「大きな愛」があったのかもしれないという問いを投げかけ、新しい曹操像を提示している。
曹操はただの「強い」男なのか、でっかい心を持った人間だったのか。
本書に触れて、あなた自身で考えてみて欲しい。
『五輪の書』宮本武蔵
幾度となく死線をくぐり抜け、勝利を収めてきた最強の剣豪、宮本武蔵の遺言の書。
構えも剣の握り方も、すべて「相手を倒すため」という徹底した合理的思考により、形に囚われる心を糾弾する。
- 「みな敵を切る縁なり」と心得べし(目的のみにこだわり手段に囚われるな)
- 構えというのは、「先手先手で動く」こと(常に有利な体制を確保せよ)
- 「敵の心がねぢ切れるのを打つ」(敵の心を揺らがせてそこを突く)
など、孫氏に通じる、手段を択ばない冷徹な結果実現思考を感じることができる。
だが、彼の剣には愛がなく、「空」2という言葉を残して、孤独のままに死んでいった。
人との繋がりの無い「強さ」に意味はあるのだろうか。
そういう反面教師の視点でもみると、「勝つ」ということについて、より大きな学びが得られるだろう。
【活人剣】
自分を守るためとはいえ、相手を完全に叩きのめす自己主張をすると、しっぺ返しがくる。
・人は追い詰められると、秘められた生存本能が目覚め、とんでもない力で反発する
・仕返しを美徳とする雰囲気が生まれ、殺伐とした世の中になる
本物の士(サムライ)は、愛が宿った剣を振るう
— ウエノ@法務博士ナンパ師 (@uenotubuyaki) February 5, 2022
『モサド、その真実』(集英社文庫)落合信彦
世界最強の諜報機関である、イスラエルの「モサド」(リンク先はwiki)。
ユダヤ人大虐殺の張本人アイヒマンの誘拐やイラク原子炉急襲など、数々の工作を実現し、不可能を可能にしてきたスパイたちの実像に、鬼才ジャーナリストが肉薄する。
著者、落合信彦(リンク先はwiki)は1942年生まれのジャーナリストである。
著作中で彼は、各国の諜報機関(CIA、モサドなど)に多数知人がおり、彼らからの情報を元に世界情勢や国内問題を分析していると述べている。
ケネディ暗殺の真相究明や、南米に潜伏し今も戦い続ける「元ナチス高官」と名乗る人物へのインタビューなど、一つ間違えば命を奪われかねない危険な真実に挑み、明るみに出している。
本書で落合がインタビューするのは、「ミスターモサド」イサー・ハレル、その後継者NO.1メイアー・アミット、「永遠に輝くモサドの星」ウルフガン・ロッツという、最強モサドの中の最強エージェント。
落合は綿密な事前調査に支えられた彼らへの直接インタビューにより、数々の軍事衝突を勝ち抜いてきたイスラエル、そしてそれを支えるモサドの最強の秘訣に切り込んでいく。
…
…
「トップエージェントの資質とは何か?」
彼らの回答に共通するのは、
- 信念
- 知性
- 外向性
である。
①彼らの任務は俺達が考えているよりはるかに過酷である。
敵国のど真ん中で、24時間正体がバレていないか周囲を警戒し、自分に与えられた「カバー」(役)を演じ切らなくてはならない。
そして、失敗して敵の手に落ちたら想像を絶する拷問が待っている。
単なる冒険心や名誉、金のために動く者はまず耐えられず、そのような者は神経衰弱となって早々に帰国するか、敵のわなに落ちて命を落とし、それにとどまらず情報流出や諜報活動行為への非難など、国家への多大な損失が生じる。
対立するアラブ諸国に囲まれ、資金も少ないイスラエルにとってそれは、即国家滅亡に繋がる。
そのため、モサドエージェントには、目の前の欲望に打ち勝ち、過酷な任務に耐えられるだけの信念、すなわち愛国心・人間性が求められるのである。
もっとも、愛は一方通行では耐えられない。
彼らの愛国心支えるのは、「何があっても絶対に見捨てない」という、イスラエルのエージェントに対する約束であり、それを行動で示し続けてきたことにある。
エージェントが資金が必要といえば、糸目をつけずに与える。
捕らえられれば、人質交換、外交ルートによる交渉、物資援助など、手段を選ばず取り戻す。
死体になっても、彼らはイスラエルの地に眠ることができるのである。
②また、諜報活動には不確実性・予測不能性がセットであり、作戦の過程では、考えもしなかった事態が必ず起きる。
そのため、エージェントの資質として、不測の事態に適切に対応して乗り切れる、知性が必要とされるのである。
したがって、ここでいう知性とは、教科書を正確になぞれるようなコンピューター的知性ではなく、機転がいかに効くか、というものである。
目的達成のために、周囲の状況に目を配り、利用できるものを利用し尽くす。
例えば、あるエージェントが、出来の悪い偽造パスポートでパスポートチェックを通過せざるを得ない場合、彼は前に並ぶ女性の子供を抱き上げ、ケツをつねって泣かせて係官を焦らせる、ということをする。
また、細切れの情報丹念に集めて、繋ぎ合わせて共通点を見出し、真実に近づくという抽象的思考力も必要である。
優秀なエージェントは、わずかな情報から何らかの結論を引き出すことができる。
このような経験と思考に基づく「勘の良さ」が、彼らのもたらず情報の信用度に繋がっている。
さらに、エージェントそれぞれに与えられた「カバー」(役)を演じ抜くには、動き方、話し方、夢の見方までそのペルソナになる必要がある。
そのため、エージェントには、言葉や歴史、宗教、文化、慣習などすべてを完全に自分ものとする「早く学ぶ力」も求められる。
③また、エージェントの仕事は相手の中枢に飛び込んで人間関係を築き、信頼を得て機密情報を取得することであり、大胆かつ積極的な外向性を備えている必要がある。
諜報界では、ビジネス界と同様、人間関係を構築する能力が最も大切なのである。
落合がウルフガン・ロッツとの対話は、10分もしないうちに互いをファーストネームで呼び合い、ユーモアで和ませ、リラックスした雰囲気の中で行われた。
いろんな要素はあると思うが、大事なのは、相手の立場を慮る思いやりの心ではないだろうか?
このような他者を思いやる能力は、敵の信用を得るばかりでなく、モサド内での信頼構築と団結を図るうえでも大切だ。
例えば、上司はエージェントと接触する際、「カバー」から抜けきれないエージェントの立場を考え、2日ほど休暇を与えたり、諜報活動では御法度の千九先での結婚も、綿密な調査を経て許したりする。
エージェントも、制約された状況・限られた情報伝達手段で、モサド本部へ情報を送るには、どうすれば相手に伝わるのか相手の立場に立って考えないといけない。
…
以上のような、信念、知性、外向性というトップエージェントに共通する人間性。
まさに、国の宝である。
それが、国同士の争いではなく、人類の共通利益のために使われる世界になることを、切に望む。
参考動画
中田敦彦のYouTube大学で、楽しくざっくり、全体像を把握できる。
あっちゃんの視点もゲットしておくといい。
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