やあ!かずだ!
大阪空港事件は知っているかな?
将来の確認の訴えの有名な判例なのだが、反対意見もつくし、原審も逆の立場をとった問題ある判例である。
判例変更もありえる。
今日は、大阪空港事件の問題点を答案形式で指摘して、この重要判例の真の理解と記憶に貢献しよう。
問題点を理解して、その怒りを記憶に変えるのである。
また、後述するように、判例をただ追いかけ「長いものに巻かれる」だけの法曹に存在意義はない!
その前に、まずは、確認の利益とはなんぞや?というところから。
訴えの利益とは
訴えの利益とは、本案判決をするための要件(訴訟要件)の一つであり、訴訟制度を利用する必要のある事件を選別するために設けられた概念である。
本件で問題となるのは将来の給付の訴えであり、これは、事実真の口頭弁論終結時までに履行すべき状態にない給付請求権を主張する訴えである。
この訴えが、訴えの利益を欠くとして不適法却下とされないとめには、135条の要件を満たす必要がある。
第135条
将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。
この「あらかじめその請求をする必要がある場合」は、2つの類型に分けられる。
一つは、①履行期を遵守したい場合であり、履行が遅れると債務の本旨に適った履行とならない定期行為の場合(民法542条1項4号)や、履行遅滞による損害が重大である場合(扶養料の請求など)である。
いま一つは、②履行期が到来しても任意の履行ができないと判断される場合である。
例えば、賃料債務のような反復的・継続的給付義務については、すでに履行期にある部分の不履行があれば、将来、履行期が到来する部分についても履行は期待できないので、あらかじめ請求する必要は認められる。
この点は本記事の最後の方で述べる横田基地事件の田原裁判官の反対意見が述べてくれている。
楽しみに待っていてくれ!
ナイス!
大阪空港事件は、上記②の類型である。
大阪空港事件の事案(最判昭和56年12月16日)
大阪空港周辺の住民Xらが、同空港の設置・管理主体である国Yに対して、騒音被害にかかる損害賠償・夜間の航空機の離発着の差し止めを求めた事件である。
Xらは、この損害賠償を請求について、過去の損害賠償だけでなく、将来の損害賠償を請求したので、民事訴訟法(以下省略)135条の「あらかじめその請求をする必要がある場合」に該当するのかが問題となった。
一審は請求を棄却、控訴審は一定限度でXの請求を認めた。
Yが上告。
最高裁の判断
最高裁は、
②損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができ、この権利の成否について債務者に有利な事情を債務者が後に請求異議訴訟(民事執行法35条)により立証するとしても不当とはいえないとき、
は、訴えの利益が認められるとした。
①は必要性(債権者(X)の要保護性)である。
一般に法解釈は、この必要性と許容性が満たされる限り正当性が認められる。
初学者は、これを他の論点でも意識してみるとよい。理解が深まる。
Xらの将来の損害は、Yにおいて今後実施される騒音防止策の内容、実施状況、Xらのそれぞれにつき生ずべき種々の生活事情の変動等の複雑多様な因子によって左右されるべき性質のものであり、
しかも、これは受忍限度を超える場合にのみ賠償の対象となるのであるから、
②現在において損害を一義的に明確に認定することはできず、この有利な事情を後にYにおいて主張立証させるのは不当といえる。
よって、本件訴えは訴えの利益が認められない。
答案
135条の「あらかじめその請求をする必要がある場合」と具体的にいかなる場合か問題となる。
同条の趣旨は、
同一態様の侵害行為が将来も継続されることが予想される場合においては、債権者に当該将来の損害について新たに訴えを提起する負担を強いるのは酷であり、
また債務者は事後に生じた自らに有利な事実を請求異議の訴え(民事執行法35条)で立証することが容易であれば、当事者間の衡平にかなう、という点にある
その具体的な意味は、当該判例の解説の所で明らかにする。
そうであれば、①すでに権利発生の基礎をなす事実上および法律上の関係が継続的な態様により存在し、しかも将来にわたって確実に継続されることが認められる場合において、②最小限の損害と期間を控えめに見てあらかじめ請求することを許容することは、
相手方に請求異議(民事執行法35条)により特段の事情の立証責任を課しても不利益といえず、「あらかじめその請求をする必要」があると解するべきである。
規範については、本判決の団藤重光反対意見を参考にして作成した。
下記横田基地事件の田原裁判官も、判例がとる②の基準は現実に合わないと批判している。
本件についてみると、①Xらの過去の損害の発生は認定されており、さらにYが大幅な減便や実効的な防音対策を実施するまでは、Xらの被害は将来にわたって発生し続けることが予想できる。
そして、②そうした最小限の損害が確実に継続すると認められる期間を控えめに見てその終期を定めるならば、損害防止措置を自ら行うYに請求異議訴訟による特段の事情の主張・立証責任を課しても不当な不利益を課すものとはいえず、当事者間の衡平にかなうといえる。
自分のコントロール下でなんらかの騒音対策を行うんだから、立証は容易であろう。
したがって、「あらかじめその請求をする必要がある場合」にあたる。
よって、Xの本件訴えにかかる訴えの利益は認められる。
横田基地事件について(最判平成19年5月29日)
横田基地事件は本判決とほぼ同様の判断基準に基づき、原告らの訴えを棄却した(原審は事実審口頭弁論終結日の翌日から判決言い渡し日までの損害賠償請求を認めていた)。
同判決の田原裁判官の反対意見は、本件では事実審口頭弁論終結時の被害状況がさらに相当期間に渡って継続する蓋然性が極めて高いことなどから、原告らの再訴負担の軽減が実質的には認められる程度の請求を認めるべきとする。
そして、その判断においては、原告らが将来の損害について新たに訴えを提起することに伴う負担の内容、Yの立証負担の程度を衡平性を考慮して、将来請求を認容すべき範囲を判断すべきであるとする。
これを補完する意味で、高度の蓋然性をもって発生する損害の賠償を認めるのは、必要性も許容性も満たすといえるのではないか。
判例に盲目的に従う法曹はいらない!~現行試験制度の批判~
上記のように、将来の給付の訴えの利益の最高裁の判例は、最高裁の裁判官が一枚岩になっておらず、また高裁の判断も反対であり、かなり弱い判例といえ、判例変更の可能性がある。
判例には、拘束力が強い判例と、弱い判例があることって知っていたかな?
法律家として必須の知識だし、下記ではそれを含め判例とは何ぞやってことにバシッと答えているから、参照してみてくれ!↓
そこで、受験生も実務家も、少なくとも「問題がある判例である」という認識は持っておくべきである。
何でも感でも判例に従えばいいというものではない。それでは問題はいつまでたっても改善しない、
「永遠の悪しき昨日」が繰り返されるだけでは、我が国の司法のお先は真っ暗である。
おかしい判例ならば、隙あらばおかしいと言い続け、判例変更を最高裁に促す。
それができるのが、弁護士、裁判官、検察官、学者という法律家なのである。
その中で、「長いものに巻かれろ」的な機械的思考しかできない法曹は、AIや「考えられる法曹」に淘汰されていくし、それが日本のためである。
そして、そのような「考えられる法曹」を養成するには、司法試験の内容が大切である。
司法試験の内容が、「こういう人を法曹にしたい」というメッセージであり、それに合わせて受験生は人格や実力を養成するからである。
そして、現行の司法試験が内容・分量・時間の面で、「考えられる法曹」を養成するような内容になってしないことは、みなさんも実感する通りである。
現行試験のような膨大な分量を処理するには、現場で考える時間・記載量を最小限度にしなければならない。
そのような試験では、「判例の文言や予備校の規範を最小限で暗記し、コピペして、無難なあてはめができる」ことが優秀とされ、そのような人格・実力を持った法曹が量産される。
そのような法曹が、自分の頭で未知の問題に対処し、「悪しき風習」と戦い、勝っていけるのか、そして日本の司法制度を改善しより良いものにしていけるのか、大いに疑問である。
俺達が何とかしなきゃなんだよ。
司法試験・司法制度改革の問題点は、まとめて後に詳しく述べる。
さあ、では今日はここまで。
では次の「考えるべき」判例で会おう!
参考文献
- 長谷部由起子「民事訴訟法」
- 高橋宏志「重点講義 民事訴訟法(上)
- 判例百選本判決解説
ここで使っている基本書のレビューはこちら↓
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