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さて、今日のお話は…
『聲の形』は2016年9月17日に全国上映を果たした、アニメ映画である。
制作は、『涼宮ハルヒの憂鬱』『けいおん!』などで有名な京アニ。
- 第20回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞
- 東京アニメアワードフェスティバル2017アニメオブザイヤーグランプリ
- 第40回日本アカデミー賞の優秀アニメーション作品賞受賞
避けがたい人の過ちと回復をテーマにしており、海外からも絶賛されてる、京アニの一、二を争う名作である。
元々週刊少年マガジンにて掲載された同名の漫画があり、それをアニメ映画化した作品。
ストーリー概略
小学生の石田将也(しょうや)のクラスに転入してきた西宮硝子(しょうこ)は実は、先天性の聴覚障害をもっていて、うまく言葉を聞き取ることや会話することができない。
仲良くしようとする周囲の一方で、硝子を虐めてしまった将也。
学級会が開かれる事態にまで発展し、責められた石田は逆にクラスからいじめの対象となってしまい、西宮も転校をしてしまい、二人は疎遠になってしまう。
そして、時は流れて高校生となった将也。
一度は自殺を考えて、過去の清算の為に硝子と再会するのだが、それを機に再び西宮との親交が深まり、次第に周囲の人間関係にも変化が生まれていくーー
引用:映画ひとっとび
退屈を何よりも嫌う少年、石田将也。
突然平穏な日常に登場した耳の聞こえない「宇宙人」に、将也の好奇心は、徐々にイジメという形に発展し、発散されていく。
筆談コミュニケーションのためのノートを池に捨てられたり、二階からバケツの水をかけられたり、ひいては何万円もする補聴器を無理やり耳から引っぺがされて、壊されたり。
手話を使うレベルの聴覚障害者であれば、耳の穴を完全に埋めて隙間をなくすような調整をしているので、無理やり引っ張れば耳の中に傷がついて出血してしまうのだ(参考:ヤフー知恵袋)
このような行き過ぎた好奇心に対して、本来、イジメられたら硝子は怒りや悲しみの感情を表現することで、相手の無知に対していくのが自然なはずだが、硝子は笑うばかりであった。
引用:聲の形(1) (週刊少年マガジンコミックス) 99頁
なぜ、硝子はされるがままだったのだろうか。
硝子は、自分のような「異分子」が、同質な存在同士で平穏を保っていたコミュニティに入っていくことで、その調和を乱してしまうことを、幼いながら体で理解していたのだ。
実際、先生が毎朝3分、みんなで硝子のために手話を学びましょうといったときに、「私はメンドクサイから嫌」という生徒があられ、生徒間に不穏な空気が漂うことになる。
これが、作中でずっと硝子を嫌い続ける、上野という女の子である(↓の黒髪セミロングの子)。
引用:同86~89頁
硝子は、「自分が存在するというだけで、人に迷惑をかけてしまう」ということに、罪悪感を抱いていたのだ。
自尊心、自分を大切に想う気持ちが失われてしまっているから、将也のイジメに対抗していく力がなく、あの「悲しい笑顔」に繋がっていたのだ。
将也のイジメはエスカレートしていき、ついに学校で問題となり、将也の姉貴は示談金として、硝子の母親に170万円払うことになった。
そして、逆転「少数者」となった将也は、今度はみんなからハブられることになってしまうのだった…
…
…
将也は、自分がイジメの被害者となることで、傷つけられることの悲しみを感じた。
そして、硝子への罪の意識が芽生えていき、それは自然に、池に捨てられたノートを拾うという行為に至らせる。
だが、時は待っていてくれない。
将也は、十分に硝子と自分の犯した罪に向き合えないまま、傷だらけになっていた硝子は、転校していってしまうのだ。
…
…
桜の季節は巡り、中学生になった将也。
通い始めた手話教室で、突然、硝子と再会する。
慌てふためき、逃げてしまう硝子。
だが、将也は彼女を追いかけ、「忘れもの」と手話で話し、いつも持ち歩いていた、ボロボロの筆談ノートを渡した。
硝子は、彼が
- 「世界との繋がり」をタイムマシンに乗ったようにして返しにきてくれたこと、
- 過去と向き合うために手話を学びはじめた事に、
驚き、うれしくなる。
引用:同(2)184項・200頁
そして、硝子は徐々に「笑う」ようになり、二人の距離も、徐々に狭まっていくのだ♡
あるとき、二人の仲を快く思わない硝子の妹、西宮結絃(ゆずる)が、将也をハメて、彼のささいな条例違反行為を盗撮し、SNSでアップして、停学処分にするということをした。
そのとき、硝子は決然と結絃に立ち向かい、怒りの表情を見せた。
硝子にとって、将也は、自分のことのように、いや、それ以上に想える存在がとなっていたのである。
だが、言葉の壁は、まだ超えられない。
将也は、
- 硝子がイメチェンしてポニーテールに変えたことに気づかず、
- その挙句、硝子の精一杯の告白、可愛すぎる「ちゅき!」を「月」と勘違いするという失態を犯し、
何万の視聴者の、
の嘆きの聲を形にしたのだ。
…
…
そんないじらしい、二人の仲直りへの道は、小学生時代の他の同級生にも波及していく。
みんなと遊園地に遊びに行くことになり、「友達」の感覚を取り戻していく。
だが、向き合い切れない傷は、またもや彼・彼女らの絆を、切り裂く。
上野は硝子を「一緒に観覧車に乗ろう」と誘うのだが、その中で上野は硝子に対し、
- 「あなたが小学生時代を壊した」
- 「あなたは私を理解しようとしなかった」
- 「嫌い」
と言い放つ。
将也と他の同級生も、過去の罪の擦り付け合いになり、将也と硝子は、またもや孤立してしまうのであった…
…
…
将也と硝子は繋がったが、そこにはどこか不自然な雰囲気が漂う。
ある日、2人は花火大会に出かけるのであるが、硝子は途中で「勉強するから帰る」といい、将也を置いて帰ってしまう。
不信に思った将也が硝子の家を訪ねると、そこには、ベランダの欄干に登り、花火のように散っていこうとする、硝子の後ろ姿がった。
堕ちていく硝子の手を、なんとか掴んだ将也。
渾身の力で、硝子を引き上げる。
だが、硝子の命と引き換えに、彼の体は闇に吸い込まれていく…
…
…
将也は、なんとか一命をとりとめていた。
硝子はまたもや、「迷惑をかけてしまった」という罪の意識にさいなまれる。
しかし、将也の
- 「良かった、西宮が無事で」
- 「俺、あのとき、西宮と話したかっただけだったんだ」
- 「ごめんな」
- 「俺、西宮に、生きるのを手伝ってほしいんだ」
という言葉に、救いを得る。
…
…
そして、ラストシーンの文化祭。
みんなの「顔」を正面からみることのできない将也。
しかし、硝子は彼の手を引き、仲間たちに引き合わせる。
彼らは、互いに「ごめんなさい」を言い合う。
上野も、硝子に「バカ」と伝えるが、それは手話によるものであった。
将也がふと周りを見渡すと、周囲の人には、「顔」があった。
将也が見たのは、輝き。
誰も自分を嫌ってなんかいない、「新しい世界」だった。
考察
人は、自分と違うと感じるものに嫌悪感を抱く(下記記事「好意の法則」の「類似性」を参照)。
それは、本能的なものであり、避けがたい。
しかし、多かれ少なかれ、自分と他人は違っているものだし、その違いを乗り越えて「価値」にして協力していくのが、大人というものであり、その過程が学びである。
その違いを乗り越えるものって、一体何なのだろうか。
- 聞こえない人も、聞こえる人も、「話し合うことで知り合っていく」人間である。
- 聞こえない人も、聞こえる人も、「傷つき、悲しむ」人間である。
- 聞こえない人も、聞こえる人も、「過ちを犯し、罪を背負い合って生きる」人間である
…
…
人間とは、何なのだろうか。
今の自分は、どこからやってきて、今、どう生きればいいのだろうか。
この疑問に答える材料は、形を変えながら、常に世界に存在し続ける。
そのギフトに向き合い、もがきながら愛すること。
「簡単な道」に逃げないこと。
それが、無知による悲しみを克服した、新しい世界への扉を開く。
作品リンク
映画『耳の形』
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映画では文化祭のシーンがラストシーンとなっていたが、原作では文化祭で制作した映画を上映したり、その映画づくりが大きく進路の決定に関わってくるなどの違いがあるようだ。
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