(2022年5月25日更新 刑事訴訟法の基本書)
司法試験勉強を再開するにあたり、弁護士YouTuberの久保田先生が紹介していた基本書を軸にしてみることにした。
以下、実際に使ってみた感想をシェアする。どんどん更新していくな!
なお、先生が紹介したもの以外の基本書も使用したが、それは★を明記する。
憲法
憲法学読本」 第3版
「読本」の名に恥じることなく、非常に読みやすい。
また、判例がたくさん掲載されており、それが整然と整理されている。
もっとも、これは共著ならではのデメリットなのだが、論理の統一性や問題に対する踏み込み(筆者の意見・本音)が弱い。
後者について例を挙げると、、表現の自由に対する規制の種類で内容規制ってあるだろう。
この内容規制って厳密に考えると、見解規制と主題規制に別れて、規制の強さが違うのだが※、これに対する説明がなく、浅い。
このように、大事な論点で、深く入り込めず、論文を欠くうえで物足りない印象がある。
この点、後述の高橋は、バッチし自分の意見を述べていて、行き詰まりを解消するキッカケを与えてくれている。
※この分類は、↓記事で紹介している。
芦辺 信喜「 憲法」 第七版
★高橋 和之 『立憲主義と日本国憲法』 第5版
憲法上の論点について、しっかりと著者自身の信念に基づく解決策を、一貫した論理で提示する。
ゆえに、行間を考えて読まなければいけないところがある。
憲法は高橋をメインにして勝負しよう。
行政法
『基本行政法 第3版』 中原茂樹
だめだこりゃ
安易なまとめ本によくある、「よくまとまってそうで実はよくまとまっていない」というパターン。
図が多用されており、一見とっつきやすいが、その実は単に既存の概念や見解の切り貼りしただけの予備校本と変らず、頭の中がカオスになる。
著者自身の理解に基づく一貫した説明がされていないから、ところどころに矛盾点が生じていて、読むのに大変な労力がいる。
例えば、「法律の法規創造力」と「法律の留保」の説明がごちゃごちゃ。
著者の説明を図にしたのがこちら↓
行政による命令の策定について、「立法」にあたるものは、法律の委任がなければ行うことができない。
憲法41条により、国会が唯一の立法機関とされているからである。
そこで、「立法」の意義が問題となるところ、「立法」=「法規1の定立」と解し、法規定立は法律によってしか行えないとする原理を、法律の法規創造力という。
他方、法律の留保とは、「法規定立行為以外の個別の行政活動」について、いかなるものが法律の根拠が必要かを問題とするものをいうとされている。2
このように、本書では、法律の法規創造力は行政立法の場面、後者はそれ以外の場面を規律する原理であるかのように整理されている。
しかし、その後著者は、「立法実務および行政実務は侵害留保説に立っている」としており、上記領域がごちゃまぜになり、矛盾した記載になっている。
行政法の一番大事な場面でこれ。
なえて、読む気が失せた。
中原基本行政法で混乱した頭の整理に、大橋先生の以下の本を利用した。
★「行政法I 現代行政過程論」 大橋洋一
いいね。
ごちゃごちゃになりがちな行政法の各概念が、矛盾なく整理されている。
理由付けも丁寧。
なんで中原がごちゃごちゃになっているのかといえば、「法律の法規創造力」という概念が不要だからである。
留保原則は、行政活動の種類3を問わず、「特定タイプの行政活動」か否かを問題にする原則であり、ここでは侵害留保が最低条件であるから、
法律の法規創造力の、法規定立が議会に独占されるという点は、留保原則と重なる。
なので、こういう不要な概念を、批判なく「まとめ」という観点から掲載するのは、理解を伴わない暗記を促すものであり、読者の真の実力に繋がらない。
この点、本書は、上述のように自らの思索に基づいて、各概念を考察し体系立てており、本当に行政法の各概念を理解し使いこなすうえで、とても有用な書である。
2分冊であり、量は多めだが、判例の事例が簡略化して載せられていて、判例集を当たる手間を省けるし、丁寧な文章で極めて読みやすい。
本当に実力ある法曹を目指すなら、少なくとも副読書としては、このような本が必要だろう。
民法
全体
潮見 佳男 著 「民法(全)」 第2版
まとめ本。
深い理解を得ることを目的とするものでなく、知識整理・各概念のアクセスのしやすさに特化した本。
俺には向かない。
潮見先生の、「丁寧な理由付け・理論的一貫性」という良さがこそぎ落され、精製された白米みたいに栄養が抜き取られている。
著者自身も、はしがきで、「流れで出版することになった」的なこと言っているし…
俺は、著者の本音・本気と向き合いたいんだ(栄養満点な玄米を食べたいんだ!)。
総則
民法の基礎1 総則 第5版
これいい、愛してる。
理由付けしっかりしてて、読みやすいよ。
論証を自分で作っている人は、判例のあやふやで人を煙に巻くの表現に出くわし、「理由付けどうなってんの?」と悩むことが多いだろう。
これはその煙を吹き飛ばす、論理の最新鋭ジェットエンジンである。
物権・担保物権
講義 物権・担保物権法 第3版
Amazonのレビューは良かったから買ってみた。
だけど、そんなに読みやすいとは思えない。
なんというか、すごい考えて読まないといけない感じ(そんで、結局解決しないところもある)。
スパッとした理由付けでない。
各制度の理解もあまり進まないし、司法試験で書くようなコンパクトな理由付けが得られるというわけでもなかった。
中途半端な印象。
特に、占有者が即時取得した盗品である動産を、被害者が回復請求したときに(民法193条)、占有者は被害者に使用利益を返さなくてもいいという判例4について、これと安永先生が採っている原所有者帰属説との整合性をどのようにして保つのか、説明が分からなかった。
合わなそう。だから、別れて、乗り換えることにした。
★民法の基礎2 物権 第2版
本当に丁寧な理由付け。
理由付けのプロ。
特に、公示の原則と公信の原則のところなんか、スゴイ。
意思主義→公示制度→公示の原則→公信の原則と、すべてが一本の論理で繋がっている。
ここって第三者が登場し、さらに単体でもややこしい占有が絡んできて、理解が難しいとこなのだが、この本でハッキリ理解できた。
上記論理は、以下の記事に現れているので、一読をススメる。
★担保物権法 第2版 (民法講義)
物権で佐久間、担保物権は松井は受験界で有名な物権コンボ。
たしかに、簡潔にまとまっているだが、松井単独では物足りない。
例えば、法定地上権の許容性について、土地上に建物が存在する場合、抵当権者は、抵当権の実行後も建物が存続すること(法定地上権の成立)について予測していると表現している。
引用元:松井宏興「担保物権法」(第2版)73頁
2⃣について、民法が法定地上権の要件として、「土地上に建物が存在すること」を定めていることから、抵当権者がそれを認識できることは、当たり前のことである(形式的根拠)。
しかし、なぜ民法上そのように定めらえているか(1⃣実質的根拠)については、これ以上何も述べられていなかったのである。
そこで、俺の事務所のベテラン弁護士が持っていた名著、我妻栄「民法講義」(↓)を紐解いてみてみたら、ヒントがあった。
★我妻栄『担保物権法 (民法講義 3)』
引用元:我妻栄「担保物権法 (民法講義 3)」175頁
要は、土地上にすでに建物がある場合、「価値のある建物を壊すなんて普通遠慮するでしょ」ということである。
そのベテラン弁護士は、「困ったことがあれば我妻を紐解けば大抵解決する」といっていたが、本当だった。
新しい情報に敏感なのは大事だが、それよりも大切なのは、なぜを考え、制度の根本の存在理由を腹に落とし込んでおくことである。
新しい問題であっても、その制度から離れて存在するものではない。
新しい問題は、制度の根本から論理的に考えることで、対応できるのである。
この我妻の理解に助けられて、法定地上権を土地共有の場合に成立させない最判平成6年12月20日をぶっ壊した記事はこちら↓
【なぜ法定地上権は許されるのか?】法定地上権を土地共有の場合に成立させない最判平成6年12月20日を批判して明らかにする!
松井のような簡潔な基本書も便利だが、本書のような、じっくり思考を経てそれを表現した厚めの名著と呼ばれるものも、一冊持っておくべきだ。
受験生は時間がなく、焦ってしまいがちだが、暗記にたよって早く受かっても、実務に出てから頭打ちになる。
一歩一歩確実に踏みしめるカメが、最後には、兎に勝つ。
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このシリーズ、全部手元に持っておきたい!
債権総論
プラクティス民法 債権総論〔第5版補訂〕 (プラクティスシリーズ)
すごくいい。
そもそも債権とはなんぞやというところから、一貫した論理でケースメソッドを交えつつ、債権総論の各概念の最新理論が説明される。
潮見先生の基本書は論理と理由付けが丁寧だ。
ここが好きで、旧法時代から使っていたが、いかんせん旧法時の判例・通説とぶつかるところが多く、受験戦略上は使いやすいとはいえなかった。
しかし、新法になり、潮見先生の考え方が多く反映さるようになったから、上記のような憂いは払しょくされた。
債権各論
基本講義 債権各論〈1〉契約法・事務管理・不当利得 (ライブラリ法学基本講義)
基本講義 債権各論〈2〉不法行為法 (ライブラリ法学基本講義)
総論で潮見を使うなら、論理一貫した理解のため、各論も潮見がいいだろう。
この各論の基本講義シリーズ、非常に薄いし記述が丁寧。
肝を押さえ、そこを丁寧に説明してくれている。平易なのに、論理性と理由付けの丁寧さは相変わらず。
家族法
窪田 充見著 「家族法 – 民法を学ぶ」 第4版
面白いよ!さすが関西人(著者は現在、神戸大の大学院教授)
「相続ってなんなんだか、著者はよくわかりません」という超絶正直な態度にクスクス笑いながら読んでいける。
家族・相続の本質をバンと提示し各制度を理論化するのではなく、現在の制度の基本を押さえ、その背景を考察していくことによって、「家族・相続ってなんなんだか、一緒に考えていきましょう」という態度。
その謙虚さと心の大きさに、ほっこりする。
また、犬神家の一族など、卑近でユーモラスな具体例を交えて各制度を紹介してくれ、オカタく近寄りがたい家族法の各制度を身近に引き寄せてくれる。
思いやりだよな~
厚いが、丁寧。
著者自身の性格か、法学教室の連載を本にしたからかわからんが、くどい言い回しの所があるのがたまにキズ。
だが、完ぺきなものってない。
理解を深めたい方におすすめ。
刑法
刑法 山口厚(第3版)
刑法って結論の妥当性に関係しない理論上・体系上の争いが多い。
その底なし沼に受験生が捕まると一貫の終わりだ(俺だ)。
しかし、体系的な理解って記憶の面でも刑法的なモノの考え方を掴むうえでも大事なのだ。
そこが悩みどころだ。
この本は、そんな受験生の立場を考えて作られたとしか思えない。
判例通説を重視しつつ明快な体系を与えてくれる。
しかも、単に整理が上手い受験予備校本と違い、1人の信頼できる学者の論理体系に基づいており、判例や通説の問題点の指摘もされている。
記載は大事なポイントを押さえた簡潔なものであり、知識整理にもってこい。
だから、刑法を一通り学習し、まとめきれてないよ~って人には非常にお勧めだ。
ただ、まとめ本としての性質上、初学者だと、言葉足らずで理解が追い付かないところもあるかもしれない。
また、重要論点について「ここは著者の立場を述べないんだ~」という部分もある(強盗致死傷罪の機会説のあたりとか)。
ゆえに、論証を自分で作っていたり、理解を深めたいタイプの方は、知識を補充する必要がある。
これには、以下の西田刑法(各論)を用いることにした。
刑法各論 <第7版>
そして、論理一貫し深い。
判例におもねることなく、問題点の指摘もばっちり。
これが俺の刑法最強コンボだ。
★川端 博『刑法総論講義』
上記の山口青本は、端的にズバッと学説のエッセンスを紹介してくれているのだが、その深い内容についてもう少し欲しいと感じることも多い。
そのような学説の正確な理解を求めるときに、非常に有益なのが本書。
著者川端は、刑法を一般人を名宛人とする行為規範としてとらえ、行為時の事情を重視する行為無価値論者。
論理の一貫性はピカイチ。
結果無価値論に立脚する学説を否定するにしても、しっかりとその特徴を論理的に理解し、丁寧に解説してから自説を展開しており、学説の正確な理解に非常に有益。
著者の深い刑法への考察と誠実な人間性がにじみ出している。
学説に厚いが、その理解を助ける最高の具体例、判例への言及にも厚い。
だから、本も厚い。
しかし、その厚情が最も厚く、一言でいえば「親切な辞書」。
学説についてわからないことがあったとき、ぐるぐる考えて結局あきらめて貴重な学びの機会を手放すくらいなら、本書をパッと開いた方が結局早いし、実力になる。
この川端に大いに助けられて、「実行の着手」概念を完全理解できた↓
民事訴訟法
長谷部 由起子 民事訴訟法 第3版
民訴の制度、学説、判例を体系的に、簡潔に整理できている。
もっとも、上記メリットとと反対形相なのであるが、論点について著者自身の考えが薄かったりして、深く突き詰めてない。
「わかりやすさ」っていうのは二義的であって、①簡潔に整理されていること、②深く丁寧に考察されていること、どちらも必要なのである。
本書は①を満たすものである。
だから、体系がまだできていない初学者や、薄くても基本的な事項を素早く把握したい場合には力を発揮する。
もっとも、俺は民訴を一通り学んでいるので、深く突き詰めたいところで痒い所に手が届かない。
だから、②を得るべく、下記重点講義を用いることにした。
★重点講義民事訴訟法(上・下) 第2版補訂版
「重点」という言葉とその厚みから、時間のない受験生に敬遠されがちな、かわいそうな本。
しかし、「量が多い」こと=「複雑」「理解に時間がかかる」という論理は誤りである。
文章量が多いということは、それだけ丁寧に説明しているということであり、真の理解のためには近道なのである。
本書は、著者が自身の信念に基づいて、誠実に民訴の問題点について格闘するプロセスを表現するものであり、
民訴の「ものの考え方」を身に着けるうえで、多くの示唆を与えてくれるものとなっている。
このように、正義感や信念に基づいてバチっと自分の意見を述べ、既存権益に立ち向かう事って、法律家として大事なマインドだと思う。
また、成仏理論の基本的内容について、俺は賛成している。
彼の司法試験改革の方向性が正しいものであること、現在の方向性が誤っていることは、後で詳しく論証することになる。
★民事訴訟法講義案(三訂版)
実務だとどうなってるの?というところと、定義を知るために利用。
実務で必要な部分が簡潔な記載でよくまとまっており、定義が明確。
民訴って定義が大事で、それをガチガチに適用していき、不都合性が出てきたら実質的公平判断をする、というパターンが定着している。
だから、実務で用いられている固い定義をしっかりと身に着けておくことが大事だ。
そこから離れないために、俺は辞書的に使っている。
この講義案の定義をガチガチにつかった記事はこちら↓
会社法
田中亘『会社法』
会社法のモノの考え方を身に着ける上で、非常に有益な書。
会社法に限らないが、各論点において、どの結論が妥当か考えるときに大事になるのが、「指導理念」。
俺は今まで、
ローでの指定図書だった神田秀樹『会社法』や、
久保田先生が紹介しているリークエ(著者田中も参加している共著)
で学んできたが、会社法でこれをバシッと述べているものを、俺は見たことがない6。
しかし、本書は、会社の利益7追求が、ひいては社会の利益になるのだ、という観点から、様々な論点の立場決定を行い、その理由付けにしている。
たとえば、取締役の法令順守義務について、経営判断原則との兼ね合いで、どの程度まで法令違反しないよう注意して行動しなければならないか、という論点がある。
このバランスについて、田中は、取締役が法令違反の可能性に気づいていても、弁護士等の専門家の意見を徴するなどできるだけのことをやったうえで会社の利益になると判断していれば、裁判所の判断を通じて法解釈が明確になることは、社会の利益でもあるから、直ちに違法とすべきでないとする。
対して、いくら会社の利益になるからといっても、当該行為がバレる確率が低いという理由で行為することは、法令解釈・社会の利益に役立たないから、違法となるとする。
これは、会社の利益追求が、ひいては社会の利益に繋がるのだ、だから、会社という存在には意義があるのだというマインドセットから生じる判断なのである。
本書では、このような一つの指導理念(著者の信念)から、会社法の多数の論点について、論理的に著者の立場を示すものであり、この「考え方」は実務において生じる様々な新しい問題に対処する上で、俺たちの大きな味方となってくれるだろう。
その他、
- 上記「考え方」を身に着ける上で、前提となる試験で問われる重要判例について、簡潔な理由付けと共に網羅されているし、
- 実務上重要な点について、コラムとして掘り下げられており8
試験・実務通じて、長年寄り添ってくれる信頼できる書となっている。
俺は、これでいく。
刑事訴訟法
刑事訴訟法 (有斐閣アルマ)
最低限の知識と判例のスタンスを、ここまでかというほど薄く載せている本。
例えば、伝聞証拠という司法試験・刑訴証拠法最大のテーマを攻略するうえで、伝聞と非伝聞の区別が出発点となり、非常に重要なのだが、この点についてコラムで1ページちょいでさばいている。
そして、この最大テーマの中でも、共謀メモの伝聞性について判断した東京高裁昭和58年1月27日判決が重要なのだが、これについてコラムの中で「精神状態の供述だから非伝聞」とあっさりさばいている。
【伝聞と非伝聞の区別を図で完全マスター】「しゃ罪といしゃ料」共謀メモを非伝聞とした東京高裁昭和58年1月27日に不同意を突きつけよう!
上記記事で批判した通り、
- 「精神状態の供述」の論点における有力説9には、実質的な要証事実とその推認過程を曇らせて、事実認定を誤らせるという弱点があり、
- そして、順次共謀の認定においては、原供述者の知覚・記憶・叙述の真実性が問題となるのであり、「精神状態の供述」だけで乗り切れるものではない。
伝聞と非伝聞の区別は「実質は何か」を考えなければならない複雑なテーマであり、実務でも学者の間でも混乱が見られる。
このハードルを乗り越えて、大きな声で「不同意」「異議」が出せる法曹になるうえで、薄すぎ、かつ問題点の指摘も何ら行わない本書は、益とはならない。
むしろ、理解を伴わない暗記を促し、有害ですらある。
★白取祐司『刑事訴訟法』
簡潔。
だが、しっかりと自分の思考の軸を確立し、それに基づいて、学説・判例の問題点を指摘している。
上掲伝聞の記事で批判した東京高裁昭和58年1月27日判決についても、「部分的にせよ知覚・記憶のプロセスが残って」いるとズバッと端的に問題点を指摘しており、これを基に思考を広げられた。
このような「軸」は、「刑訴法がなぜ存在するのか」、という根本のマインドセットが揺るぎないものであることから生まれている。
なんでも基礎が大事だ!
刑訴法の目的、あなたは説明できるかな?
刑事訴訟法の目的は、①適正手続により個人の基本的人権の保障を全うしつつ、②事案の真相を明らかにすること(1条)。
両者の関係について、予備校本や受験テクに偏った法曹は、「真実の発見と手続保障のほどよい調和」を目指したものであり、「両者の矛盾衝突が容易に調和点を見出し得ないときは、…手続法定のの原則を優先させる」(田宮「刑事訴訟法」【新版】7頁)と説明する。
俺はこれを聞くといつも、「両者を対立的に置いたうえで、手続保障を優先させるの?」「それはなぜ?」「両者の論理構造ってどうなってるの?」と疑問に思っていた。
実体的真実発見よりも手続保障を優先させるべきなのは、
- 憲法における人権保障の理念
- リアリズム法学10のアプローチを背景とする手続優位の思想
- 当事者主義の訴訟制度
を踏まえれば、なんとなく納得できる(上掲田宮7頁)。
しかし、その論理的な位置づけについては、ずっと?のままだった。
そこで、ローに入った時の教授の勧めで、この白取を手に取った。
白取は上記の点について、以下のように述べている。
真相解明も適正手続を守りながら行うことが、憲法、刑訴法の趣旨である。
引用:本書3頁
この一言で、解決した。
つまり、両者は対立構造にあるのではなく、ピラミッド構造にある。
「10人の有罪者の逃しても、一人の無辜を罰してはいけない」
刑事訴訟の目的としての真実発見は、仮にも無実の者を罰しないという、消極的実体的真実主義でなければならない。
この消極的実体的真実主義であれば、適正手続と対立しない形で、真実発見を位置づけられる。
これこそ、糾問主義・職権主義を乗り越えた先にある弾劾主義・当事者主義からの帰結であり、刑事訴訟法の進化である。
進化こそ、「調和」である。
本書は、そのような明確な目的意識から、刑事訴訟法の各論点の問題点について、バッサリ・ハッキリ指摘がなされており、考えるきっかけを与えてくれる。
記述の薄さは、判例集の解説や、下記の池田修・前田雅英『刑事訴訟法講義』で補って、書き足すなどすればいい。
考える法曹のための、導入書・まとめ本として位置づけられよう。
★池田修・前田雅英『刑事訴訟法講義』
共著。
前田先生は結果無価値論に立つ刑法学者でもあり、東大名誉教授(リンク先はwikipedia)。
池田先生は、東大出身の裁判官であり、国家公務員倫理審査会会長である。
また、小泉内閣の下で司法制度改革推進本部裁判員制度・刑事検討会委員ととして、裁判員制度成立に尽力した。
本書は、このような学者&実務家という著者らの立場を反映しており、理論と実務的観点のバランスがいい。
判例の問題点や、あるべき解釈について、実務上の観点も踏まえた詳細な記述がされており、上記白石で生まれた疑問点について調べる辞書的な役割として最適。
↓この記事を執筆するうえで、とても役立った。
【伝聞と非伝聞の区別を図で完全マスター】「しゃ罪といしゃ料」共謀メモを非伝聞とした東京高裁昭和58年1月27日に不同意を突きつけよう!
精神状態の供述について、供述を間接証拠として精神異常を推認する過程との同質性を見出し、これにより、実質的な要証事実の推認とその推認過程の丁寧な検討に導いている。
著者らの問題点への真摯な取り組みの姿勢と、確かな実力が伺える。
ネックとしては、どこが池田先生執筆で、どこが前田先生の執筆かわからないこと。
もっとも、論理の一貫性に矛盾をきたすような記述に出会ったことはない。
刑事訴訟法の問題点に切り込める実力をつけるため、白取と一緒に、じっくり読み込んでいきたい本。
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