おす!かずだ!
突然だが、
- 違法等確認の訴えと義務付け訴訟…どんな関係にあるんだっけ?
- 形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟、争点訴訟の異同と関係がわからん!
- 無効等確認訴訟の補充性って何だっけ?
- 法律上の争訟、統治行為と行政事件訴訟の関係がわからん!
という方はいないだろうか?
こういう方は、行政事件訴訟の体系が甘く、細かい知識が身に着いてきていない。
ただの暗記は苦痛だし、力にもならず、時間を無駄にするだけである。
俺も、行政事件訴訟の多数の訴えの関係が整理できていなかったから、行政書士試験をまえに、総整理を試みた。
本記事を読めば、
- 行政事件訴訟の各訴えのうち、特にごやごちゃしちゃう上記部分を、イメージと具体例で明快わかるようになり、知識が吸い付いてくるし、
- 行政事件訴訟を統治行為論等と結びつけ、重要憲法判例と関連性がわかり、憲法の実力もアップ
するから、しっかり最後まで読んで、行政法を得意分野にしてもらいたい。
目次
行政救済法の中の行政事件訴訟の位置づけ
行政法には、3つの分野が存在する。
- 行政内部の組織構成、組織間関係を規律する分野
- 行政活動を行うための手続き、要件、効果について規律する分野
- 行政活動により市民が権利利益の侵害を被った場合に、市民が国や地方公共団体等を相手にして、行政活動の是正を求めたり(行政争訟)および金銭による補償を請求(国家補償)する分野
である。
1を行政組織法、2を行政作用法、3を本稿が扱う行政救済法である。
最後の行政救済法の中で、行政事件訴訟の位置づけがどのようなものか、以下の図に従い、これからざっくりバッチリ説明していく。
行政事件訴訟とは
行政事件訴訟は、裁判によって違法な行政作用を是正し、違法な行政作用により権利利益を侵害された国民の救済を図るしくみである。
要は、法律による行政の原理を司法裁判所が制度的に担保しているのである
法律による行政の原理の担保・国民の権利救済を司法でなく行政過程に組み込み、①簡易迅速性、②行政の自己統制、③行政裁量の範囲内での当不当の審査、④裁判所の負担軽減を図ったのが、行政不服申立制度(行政不服審査法)である。
無味乾燥な条文知識を立体的にして、右脳に焼き付けよう↓
行政事件訴訟法は、行政事件訴訟に関する一般法であり(1条)、行政事件訴訟とは、
- 抗告訴訟
- 当事者訴訟
- 民衆訴訟
- 機関訴訟
をいう(2条)。
これらは、主観訴訟と客観訴訟に区別される。
主観訴訟
前二者(抗告訴訟、当事者訴訟)は、国民の個人的な権利利益の保護を目的とするものであり、主観訴訟という。
抗告訴訟とは、「行政庁の公権力の行使」(多くは「処分」)に関する不服の訴訟である(3条1項)。
他方、当事者訴訟とは、法主体間で公法上の法律関係を争う訴えである(4条)。
両者の違いは、行政庁の行為に「処分性」が認められるかにあり、その解釈の仕方、判例の知識が司法試験やそのほかの法律系資格において重要なポイントになる。
以下の記事でバッチリ解説したので、参照して欲しい。
ここで、処分性が認められた場合には、抗告訴訟を提起することになるが、抗告訴訟には5種類が法律上明記されている(3条2項ないし7項)。
- 取消訴訟(8条ないし35条)
- 無効等確認の訴え(36条)
- 不作為の違法確認の訴え(37条)
- 義務付け訴訟(37条の2)
- 差止めの訴え(37条の4)
なので、訴訟類型の選択の際は、処分性だけでなく、「いかなる抗告訴訟を提起すべきか」も問題となるのである。
各抗告訴訟の詳細は、上記図をみつつ、各自条文や基本書を確認して欲しい。
抗告訴訟の訴訟選択の流れ
- 処分性の認定
- いかなる抗告訴訟を提起すべきか
→5つの抗告訴訟の中から、行政過程と実効的権利救済の観点から選択
当事者訴訟には、形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟がある。
ところで、形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟の違いってわかりにくいよな。
また、当事者訴訟は公法上の法律関係に関する訴えであるが、これが認められない場合(私法上の法律関係の場合)は、争点訴訟を提起することになるところ、争点訴訟ってどんなときに使うの?普通の民事訴訟とどう違うの?と疑問に思うだろう。
なので、上記疑問を、表と図と具体例で、スパッと理解できるよう完全整理した。
抗告訴訟 | 形式的当事者訴訟 | 実質的当事者訴訟 | 争点訴訟 | |
---|---|---|---|---|
訴訟物 | 処分その他公権力の行使(3条) | 当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分その他公権力の行使(4条) | 公法上の法律関係(4条) | 私法上の法律関係(45条) |
被告 | 当該処分または裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体が原則(11条1項) | 当該公法上の法律関係を確認すべき者 | 当該公法上の法律関係を確認すべき者 | 当該私法上の法律関係を確認すべき者 |
形式的当事者訴訟とは、処分が訴訟物なんだけど、当該処分を下した行政庁とは別の法主体間での公法上の法律関係を定めることを目的とする訴えである。
4条の「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの」だな。
処分が訴訟物という意味で、実質は抗告訴訟なんだけど、法令の規定により特に(形式的に)当事者訴訟の形態をとることにしたのである。
具体例としては、「土地の収用裁決のうち損失補償額に関して、土地収用法133条により、収用された土地を利用する者(起業者。多くは国や地方公共団体)と当該土地を所有していた者(被収用者)との間で、その額の増減を争う訴訟」を想起できるようにしよう。
他方、実質的当事者訴訟とは、4条の「当事者間の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」である。
実質的当事者訴訟には、次の3つのパターンがある。
これを押さえておこう。
である。
このように、当事者訴訟は抗告訴訟では補足できないが行政活動の作為・不作為を契機として具体的な紛争が生じ、国民の権利利益の実効的救済を図る必要がある場合について、その受け皿となるものであり、重要な意義を有している。
最後に、争点訴訟とは、処分の無効を前提として、それを争点としている私人間の民事訴訟である(行政事件訴訟ではない)。
訴訟物は私法上の権利・法律関係であるが、行政庁がした処分を問題としているため、行政庁の訴訟参加・出訴の通知に関する規定などを準用している(45条1項、23条1項・39条)。
具体例として、「所有土地を収用された市民が原告となって、現在土地を有している起業者を被告として所有権確認を請求する場合」を想起できるようにしよう(下図)。
この図と、形式的当事者訴訟の図の異同がわかれば、かなり理解が進む。
無効等確認訴訟は、行政処分の瑕疵が大きい場合に、国民の実効的権利救済の必要性が大きいことを踏まえ、同処分を無効と観念し、行政処分の公定力3・取消訴訟の排他的管轄3・不可争力3を打開する救済手続きである(時期に遅れた取消訴訟)。
無効等確認訴訟は、「当該処分…の存否またはその効力を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り提起することができる」(36条)。
これを、無効等確認訴訟の補充性という。
「現在の法律関係に関する訴え」とは、当事者訴訟および争点訴訟をいう。
行政処分が無効であれば、その法的効力は当初から存在しないので、無効を前提とした法律関係について当事者訴訟および民事訴訟を提起すれば、通常は紛争解決として十分である。
そこで、行政事件訴訟法は、無効等確認訴訟について、現在の法律関係を争ったのでは救済が十分ではなく、とくに無効の確認を求める必要がる原告に限って提起できるものと定めたのである。
補充性の解釈について、無効等確認訴訟に認められている効力を踏まえ、国民の実効的権利救済の観点から柔軟に解釈される必要がある。
この点について、判例は、
- 土地改良法の基づく換地処分の名宛人が土地改良事業には賛成であるが、換地された土地に不服がある場合には、現所有者に対して争点訴訟としての従前地の所有権確認訴訟を提起するのではなく、換地処分自体の無効等確認訴訟を提起する方が、「直截的で適切な訴訟形態」であると認めた(最判昭和62年4月17日)3。
- 原子炉周辺住民が動燃に対し、原子炉の建設・操業を差し止める民事訴訟を提起しており、さらに内閣総理大臣に対して、原子炉設置許可無効等確認訴訟を提起した事案において、「直截的で適切な訴訟形態」と認めた(最判平成4年9月22日)3。
ことをチェックしておこう。
客観訴訟
4つの行政事件訴訟のうち、後二者(民衆訴訟、機関訴訟)は、客観的法秩序維持のために、原告の個人的な権利救済とは無関係に、行政作用の適法性を担保するものであり、客観訴訟と言われる。
客観訴訟は、法律に特別の定めがある場合に認められる例外的なものである。
このうち、民衆訴訟(5条)には、選挙に関する訴え(公職選挙法203条、204条、207条、208条)と、住民訴訟(地方自治法242条の2)がある。
機関訴訟(6条)は、国または公共団体同士の争いに関する訴えである。
機関訴訟の具体例として、地方公共団体の長と議会の紛争(地方自治法176条7項)、代執行訴訟(同245条の8第3項以下)、国の関与に関する訴訟(同251条の5)がある。
行政事件訴訟の限界~法律上の争訟~
行政救済制度の中での行政事件訴訟の位置づけがわかったところで、次は、視点を高め、司法権としての性質から行政事件訴訟を位置づけられるようにしよう。
上記のように、行政事件訴訟は、司法裁判手続により行政活動をコントロールする仕組みである。
そこには、司法権と行政権の関係という権力分立の基本構造に関わる問題があり、行政事件訴訟の限界は、憲法解釈上の司法権の限界と重なる。
裁判所法3条1項は、裁判所の権限を、「法律上の争訟」という概念で規定する。
したがって、裁判権の内容である司法審査の対象領域は、法律上の争訟の範囲と一致する。
法律上の争訟の概念は、
- 当事者間の具体的な法律関係に関する紛争が存在すること
- 法の適用により終局的に解決が可能であること
である。
これらの要素を満たさないものは、特に法律の定めが無い限り3、司法審査の領域から外れる。
また、法律上の争訟にあたるものであっても、司法審査の対象外とされるものがあり、これには
- 統治行為
- 部分社会の法理
がある。
以下、それぞれの代表的な判例を見てみて、イメージを焼き付けてほしい。
法律上の争訟でない場合~①具体的事件性なし~
警察予備隊違憲訴訟(最判昭和27年10月8日)
原告が警察予備隊の設置維持に関する法令規則等の一切が無効であることの確認を求めた訴訟について、裁判所は具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するものではないとした。
法律上の争訟でない場合~②法適用可能性なし~
国家試験不合格判定が争われた事例(最判昭和41年2月8日)
原告が技術士国家試験の合否変更を求めた上記事例において、裁判所は、「法廷の適用によって解決するには適さない単なる政治的または経済的問題や技術上または学術上に関する紛争は、裁判所の裁判を受けうべき事柄ではない」とする。
統治行為
長沼ナイキ訴訟高裁判決( 昭和51年8月5日)
北海道夕張郡長沼町に航空自衛隊の「ナイキ地対空ミサイル基地」を建設するため、農林大臣が1969年7月、森林法に基づき国有保安林の指定を解除した。
これに対し反対住民が、「自衛隊は違憲、保安林解除は違法」と主張して、処分の取消しを求めて行政訴訟を起こした事件である。
第一審は自衛隊は違憲と判示(札幌地判昭48年9月7日)
第2審は、自衛隊の違憲性について砂川事件と同様に「本来は裁判の対象となり得るが、高度に政治性のある国家行為は、極めて明白に違憲無効であると認められない限り、司法審査の範囲外にある」とする統治行為論を併記した。
最高裁は、二審が言及した自衛隊の違憲審査は回避した。
部分社会の法理
国立大学の学生に対する懲戒処分が争われた事例(最判昭和29年7月30日)
原告が放学処分の取消しを求めた事件において、裁判所は、在学関係は自律的な規範を有する特殊な内部関係であって、学長の裁量問題としてこれを処理した。
あとがき
いかがだっただろうか。
行政事件訴訟のわかりにくかった各訴えの特徴を、イメージと具体例でわかってもらえたのではないか。
また、行政事件訴訟の司法裁判手続きという位置づけからの限界という大きな視点ももってもらえたと思う。
骨組み(体系)は肉体(知識)を支える基礎である。
後は、筋トレして体を大きくし、行政法を得意分野にしよう!
参考文献
- 櫻井敬子 橋本博之 著『行政法』
- 大橋洋一 著『行政法Ⅱ現代行政過程論』
この基本書のレビューはこちら↓
コメントを残す